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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
神無月―葵禁忌の葵と邪悪な雫―決戦編―【完結】

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蒼い焔は、火の童子の意志を継ぐ

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

ブックマークなどしていただけたら励みになります。


―――



静寂が戻った屋上に、

微かな風が吹き抜けていた。


澪斗みなとの治療術によって意識を取り戻したばかりの静音しずねは、


倒れたあおいのもとへ、

ゆっくりと歩み寄る。


深く息を吐くと、静かに両手を掲げた。



静音

「封水結界のことわり――沈め」



静音の凛とした声が響く。

静かな詠唱と共に、


水の神気が足元から広がり、水の封印箱が現れる。


倒れ伏した葵の身体が、箱ごと結界の奥へとゆっくり沈んでいく。


その光景を見届けた澪斗が、安堵の息を漏らし、縁へ視線を向けた。


澪斗

「……えにしさまが来てくださって、本当に助かりました」



澪斗

「火の童子かのこどうじさまへの神気を注ぐのを代わってくださったおかげで、

僕たちは拘束の陣を張れました」



その言葉を聞きながら、

邪悪な『雫』と葵を退けたあおは、

勝利の余韻に浸る間もなく、


大和の元へ駆け寄っていた。

視線の先にあるのは、今にも吹き消されそうなほど弱まり、


消滅の淵に立たされた火の童子の姿があった。


「……火の童子……消えないで……っ! 火の童子! 頑張って、お願い!!」



蒼は必死に叫びながら、

自身の全神気をその小さな焔へと注ぎ込む。


続けて、真白ましろ優羽ゆうはつむぎ、澪斗、静音が駆け寄り、


円陣を組むようにして神気を注ぎはじめた。


「……皆……ありがとう……っ!」


「真白さま、静音さま! これ以上の神気供給は、御身に障ります!無理をしないでください!」


真白

「かまいません!」


静音

「構うものですか……っ!」


紡と澪斗の制止も届かない。


二人は顔を蒼白にしながらも、

神気の供給を止めなかった。


しかし――


非情にも焔は小さくなっていく。


猛々しかった火柱の面影はなく、

今やマッチの火を灯すのが精一杯というほどに、命の灯火が小さくなっていく。



「……いやだ……」



蒼の肩が震える。


「嫌だ……。ヤダヤダヤダ!!」


蒼が子供のように号泣し、大和の手元に縋り付いた。


「火の童子、行かないで……!僕まだ、何も恩返しできてないっ!」



「だから消えないでよ!!」



蒼の悲痛な叫びが、夜明け前の空に響いた。



誰もが言葉を失い、

絶望に沈みかけたその時。


蒼は天を仰ぎ、


「……助けてください……」


そして、今度は


魂を振り絞るようにして叫んだ。


「助けてください……炎神様! お願い、火の童子を助けて!!」


――その瞬間、


空が裂けるように、紅蓮の光が降り注いだ。


燃え上がる火柱の中から、


大気を震わせるほどの圧倒的な神威と共に、真紅の衣を纏った "炎神" がその場に降臨した。


蒼は驚きに目を見開く。


「神無月なのに……?炎神様……どうやって……」



神無月――


八百万の神々が出雲へ集い、不在であるはずのこの時期に炎神は蒼の声に応えた瞬間だった。


呆然とする蒼を余所に、


大和、澪斗、静音たちは即座にその場にひれ伏す。


炎神は一瞥もくれず、


真っ直ぐに大和の元へと歩み寄った。


炎神様

「誓約の一族の末裔よ。ようぞ我が火の童子を守り抜いた。大儀やで!ようやった!」


炎神はそう言うと、


その掌を小さな焔にかざすと、

黄金色の神通力が糸のように

ふわりと流れ込む。


すると――


消えかけていた焔が、再び強く燃え上がる。


だが炎神は静かに首を振った。


炎神様

「……せやけどな、現世の不浄な気の中では、これ以上の治癒は叶わんな……火の童子は一度、我と共に天界へ連れ帰る」


その場にいた皆に、安堵が広がる中


炎神はふと周囲を見渡すと、


その眉間が険しく寄った。

周囲に凄まじい熱波が吹き荒れる。


炎神様

「ところで……火の童子をこんなにした阿呆はどこや」


その瞬間、周囲の空気が一変した。

先ほどまでの温かな陽だまりのような気配は消え失せ、


肌を焼くような、それでいて心臓を直接掴まれるような、根源的な恐怖を呼び起こす。


"熱" が爆ぜる。


炎神の背後で、怒れる紅蓮の焔が巨大な影を成した。



真白

「……その者は、蒼さんに焼かれて消滅いたしました」


真白が声を絞り出す。

炎神は一瞬、虚を突かれたように目を丸くし、


それからまだ涙を流している蒼の顔を、穴が開くほどに凝視した。


――次の瞬間


全ての熱気が歓喜へと転じる。


炎神様

「そぉか! そぉか! よぉーやったな、蒼! やはりお前を火の童子に預けて間違いはなかったわい!」



豪快に笑いながら、

炎神は蒼の頭をワシャワシャと親しみ深く撫で回す。


炎神様

「ほんなら、火の童子はすぐさま治療せねばならんから、連れて帰るで!」



炎神は再び天へと昇る火柱と化し、夜空を切り裂こうとした。


だがその時――


その熱波に煽られながらも、蒼は消えゆく火柱に向かって必死に手を伸ばす。


「待って、炎神様……っ!」


その震える声に、昇りかけた火柱がピタリと止まった。


蒼は縋るような瞳で、炎神の腕に抱かれた小さな焔を見つめる。


「……火の童子は……本当に大丈夫なの? あんなに小さくなって……今にも消えちゃいそうで……。僕が……僕が、もっと強ければ、こんなことには……っ」


自分を責めるように俯き、大粒の涙をこぼす蒼。


すると、天を突くような威圧感だった炎神の気配が、ふっと春の陽だまりのように和らいだ。


炎神様

「……安心せい、蒼」


炎神は蒼の傍まで降りてくると、


目を真っ赤にした蒼を優しく見つめる。


炎神様

「この火の童子は、お前という最高の相棒を持ったんや。

それに、お前とお前の仲間たちが最後まで諦めずに注いでくれた神気と、その熱い想い……」


「それが火の童子の命の灯を繋ぎ止めた。我が天界で一眠りさせてやれば、次にお前の前に現れる時は、何倍にもなった火力を引き下げて帰ってくるわい」


そういって、炎神はニカッと笑うと、

空いた手で再び蒼の頭をポンと叩いた。



炎神様

「お前は、お前にしかできんことをやっとれ。ええな?」


「……うん! 炎神様、火の童子を……よろしくお願いします!」


蒼が涙を拭い、力強く頷くのを見届けた

炎神は、最後に蒼に


炎神様

「任せとき!」と返事をし、


今度こそ真紅の火柱となって、夜空を切り裂き、天へと帰還していった。


残された者たちは、ようやく深く長い息を吐き出す。


静寂が戻った屋上で、蒼と大和はしばらくの間、炎神様が去った空を、そこにあるはずの温もりを追うように見上げていた。


やがて、大和がぽつりと呟く。


大和

「……蒼、お前も、ついて行かなくて良かったのか?」


火の童子を誰よりも大切に思っている蒼なら、共に天界へ行く選択肢もあったはずだ。


しかし、その問いに蒼は、一点の曇りもない眼差しで大和を見返した。


「ううん……火の童子がいない間は、僕が大和と、焔神社を守るって決めたから」


その強い言葉に、大和は胸を打たれた。


大和

「ありがとう、蒼……本当によく頑張ったね」


そして、蒼の瞳には、


かつての頼りなさは微塵もない。


一人の立派な眷属としての覚悟が、


朝日の予感に煌めいていた。 



その傍らでは、紡が縁へと小声で尋ねていた。


「縁さま、縁さまがこちらに来ている間、この建物の結界はどうなっているのですか?」


その言葉に真白と優羽もはっとして顔を強張らせる。


しかし、縁は涼しい顔で微笑んだ。


「心配ないよ。僕よりもずっと凄い方が、代わりに結界を張ってくださっているから」


言葉が終わるのを待たずして、

柔らかな金色の光が降り注ぐ。

そこに現れたのは、豊かな実りを象徴する


"豊穣神" であった。



大和

「なっ……今度は豊穣神様!?」


大和たちが再び頭を垂れる中、

豊穣神はおっとりと語り始めた。


豊穣神

「よいよい、頭をあげなさい。」


優しい豊穣神様の声が響く。

そして朗らかに微笑みながら、



豊穣神

「大御神様が、会議の最中にこちらの神気の揺れを感じ取られましてね。


『眷属たちが心配であろう、一度戻って様子を見てきなさい』


とのお許しをいただいたのですよ」


それから、


豊穣神は悪戯っぽく笑いながら付け加える。



豊穣神様

「ちなみに炎神は、許しが出る前に飛び出していかれましたが」


その言葉に、大和と蒼から苦笑が漏れる。


豊穣神様

「皆、実に見事な働きでした。……無事で、本当に良かったです」


慈愛に満ちた言葉が一同の心に染み渡る。


豊穣神の言葉がつづく。


豊穣神

「戻ってきたのは、私と炎神だけではありませんよ?」


空気が再び震え、


今度は天空から巨大な影が舞い降りた。

神々しい鱗を輝かせる "龍神" の降臨である。


再度頭を垂れる眷属たちにとっては、

珍しくもない出来事なのだが、


大和にとってはそれは普通のことではなかった。


龍神は悠然と首を振ると、


一同に「面を上げよ」と命じた。


そして顔を上げた瞬間、大和は、


大和

「ええええええ!?!?

 なにこの状況!?主神様が三柱も!?」


「大和、落ち着いて! ほら、深呼吸!」


完全にパニックに陥った大和を、

蒼が必死になだめるという奇妙な光景が広がる。


澪斗と静音が代表して事の次第を報告すると、龍神は静かに頷く。



龍神様

「皆の献身、痛み入る。傷ついた者たちよ、癒えるがいい」


龍神が放つ清浄な気が一帯を包み込むと、

皆の傷が瞬く間に塞がっていった。


続けて龍神が葵の箱が沈んだ場所を眺めながら、


龍神

「葵、そして雫の魂……これらは一度、私が預かり、然るべき裁きを下さねばならぬ」


龍神が低く唸るような声を出すたび、

大気の密度が跳ね上がり、大和の膝がガクガクと震える。


これが "龍神" 本来、現世でまみえることなど許されない存在。


誰もがその威光に言葉を失う中、真白が意を決して一歩前に出た。


真白

「……恐れながら、龍神様。一つ、折り入ってお願いがございます」


大和の目には、真白の細い肩が僅かに震えているのが見えた。


だが、その足元は決して退かない。


龍神

「願いとな……申してみよ」



そして、

真白の提案を聞いた龍神は、


しばらく思案するように黙り込んだ後、


龍神

「……豊穣神よ。本当にそのようなことが可能なのか?」


豊穣神

「真白と紡は特別な子ら。彼らならば、成し遂げるでしょう」


豊穣神の保証に、龍神は


龍神

「よかろう。何かあれば私が対処する」と承諾した。


事態は収束へと向かう。


しかし、


崩壊した屋上の惨状を見て、

皆の顔に影が差した。


「この壊滅的な状況……どうやって修復しましょうか」



すると、

豊穣神が楽しげに手を打った。



豊穣神

「心配いりませんよ! 適任者をお借りしてきましたから。――おいでなさい」

 

呼び声に応えて現れたのは、

紡と同じくらいの年齢に見える、白髪の少年だった。


雪兎

「皆さま! お初にお目にかかります! 僕は月の神様の眷属で『雪兎ゆきと』と申します! 以後お見知りおきを!」


少年――雪兎は元気に挨拶すると、


ひび割れた大地に立った。



雪兎

「豊穣神様のご依頼により、ここの修復を承りました。……いきます!」



雪兎が月に向かって両手をかざす。



雪兎

「時の理――『時戻し』」


月光を吸い込むように集めた雪兎が、胸の前で手を合わせる。


刹那――世界の音が消えた。


逆再生される映像のように、

破片が、塵が、煤が、重力を無視して宙を舞い、


パズルのピースが嵌まるように元の場所へと収まっていく。

 

……カチリ。

 

最後に時計の針が重なるような音が響き、


そこには壊される前よりも清浄な気が満ちた、完璧な屋上が戻っていた。



「すごい……! 元通りだ!」


雪兎

「えへへ、ありがとうございます!」


皆に褒められ、雪兎は顔を真っ赤にして照れ笑いを浮かべた。



雪兎

「豊穣神様、これでよろしいでしょうか?」



豊穣神

「充分です。お礼に、月神様へお稲荷さんを山ほど送っておきますね」


雪兎

「本当ですか!? やったー! 月神様もきっと喜びます!」



大和

(あのお稲荷さん、神様たちの間でも有名だったのか……すごく美味しかったもんな……)


大和が心の中でお稲荷さんの美味しさを、

思い出している間に、



豊穣神は菖蒲あやめへ狐の窓で連絡を入れた。



ほどなくして現れた菖蒲は、豊穣神様に頭を下げると、


優羽の元へと駆け寄る。


菖蒲

「……優羽、よくやりましたね。無事で良かった」


菖蒲のその一言は、短く、けれど何よりも重い愛に溢れていた。


優羽は一瞬、

驚いたように目を丸くしたが、


撫でられた頭から、これまでの緊張がすべて溶け出していく。



優羽

「……菖蒲姉さま、ありがとうございます!」


言葉にできないほどの嬉しさに包まれながら、


優羽は隣に立つ紡へと、

最高に眩しい笑顔を向けた。


その笑顔は、過酷な戦いの中にあった誰もが、心の底から救われるような純粋さに満ちていた。


やがて、豊穣神たちは転移術を使い、

再び神無月の地――

出雲へと帰還していった。


嵐のような一夜が、嘘のように静まり返る。


命を賭した激闘を終えた、

大和、そして六人の眷属たちは、


それぞれの神社の装束を夜風になびかせながら、帰路につこうとしていた。


ふと、

誰からともなく足を止め、

東の空を仰ぎ見る。


夜の幕がゆっくりと剥がれ、

地平線の先が淡い白に染まり始めていた。



燃えるような、

けれどどこまでも優しい朝日が、

七人の姿を黄金色に染め上げていく。


大和

「終わりましたね……本当に……」


大和が呟くと、蒼がその隣で深く頷いた。


「うん……みんな生きて……守ることが出来た……」


その言葉に、真白、澪斗、静音、縁、紡、優羽もまた、

同じ光を見つめながら自然と微笑んでいた。


冷えた空気が肺を満たすたび、


強張っていた心と体がゆっくりと、ほどけていく。


絶望に塗りつぶされかけた夜を超え、


今、自分たちはここに立っている。


隣に並ぶ大和と蒼、


そして信じ合える仲間たち。

七人は、希望に満ちた新しい夜明けを、

ただ静かに見つめていた。




最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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