フラグはへし折るものよっ!
「カナミ……。」
リィズが少し困ったような顔で声をかけてくる。
「えっと、ひょっとしてまた?」
私が訊ねると、リィズはコクンと頷く。
「……はぁ……状況は?」
「ここから約1㎞先。馬車が三台。戦っているのは20人……15対5ってところ。馬車の中に非戦闘員が3人……だと思う。」
「15人の方が馬車側……ってことはないわよねぇ。」
「ないね。……どうする?」
「1㎞先かぁ。急げば4~5分……持たせられる?」
「護衛の5人次第だけど……護衛の犠牲を無視するなら。」
「知らなければともかく、知っちゃったからねぇ……リィズお願いできる?……モモコも行って。」
「了解っ!」
リィズが疾風迅雷を発動させて現場へ向かう。
あっという間に見えなくなったその背を追いかけるように私とマイナも走り出す。
街道に出てから三日。襲われている馬車を見つけたのは、これで5台目だ。
一応、私達も気を付けなければいけないからね、リィズに探知を任せていたんだけど……ってか、この街道、襲われすぎじゃない?
まぁ、襲われているからと言って助けなきゃいけない義理はないんだけど、タイミング的にね、そのまま進めばちょうど戦闘終了あたりに現場に着いちゃうわけですよ。
どうせ巻き込まれるなら、もっと早い段階から介入して、味方がいる時に撃退した方が楽だし、恩も着せれるでしょ?
だから、今まではとりあえず駆けつけて、手助けをして……というか、ほとんどの場合、手助けしなくても何とかなりそうなことばかりだったから今回も……………今回ばかりはちょっとばかし敵が多いかもね?
「マイナ、急ぐよ?」
私はそう言って走る速度を少し上げる。
私もマイナも、女神さまの加護があるから、身体能力は少し高め。だから、リィズが走っていってから、ほどなくして現場に辿り着く。
「うーん、手出しの必要はなさそうねぇ。」
リィズに聞いた時は15対5とのことだったけど、今の感じだと8対6?護衛の5人がそれぞれ一人を相手に切り結んでいて残りの3人をリィズがあしらっている……あ、リィズの相手が一人倒れた。
「カナおねえちゃん、私、馬車の方に行くね。」
マイナは治癒魔法が使えるから、ケガ人がいたら治したいと思ったのだろうけど……。
「ちょっと待って。」
馬車を見ると、死角から一人馬車を狙っている男がいた。
きっと形勢不利と見て、馬車の中の人を人質に取ろうとしているのだろう。
「させないよ。」
私はスラナイフを抜いて、剣先をその男に向ける。
『ライトニング!』
スラナイフの先から電撃が飛び出す。
今にも馬車に飛び移ろうとしていた男に見事命中し、不審な男はその場に崩れ落ちる。
スラナイフから飛び出た魔法、ライトニング。
これは、新たに発覚したスラナイフ……というか、私の力……なのかな?
この『ライトニング』は実は、ライジングホーンという、角ウサギの上位希少種の固有能力。
リィズたちと出会う前に死闘を繰り広げたあの角ウサギが、実はライジングホーンだったというわけ。
あの最期の時、私は無我夢中でスラナイフを前面に押し出した……あの時にね、スラナイフに備わっていた「捕食」が発動して、ライジングホーンの「ライトイング」を捕食したみたいなのよ。
女神の手帳によれば、スラナイフ固有の付与能力「捕食」は、スライムの種族特性みたいで、なんでも吸収するらしい……と言っても、普通のスライムは、魔法を捕食なんてできないから、私の力が過分に作用しているんだろうね。
で、色々検証した結果、スラナイフの「捕食」は、「魔法やスキルなどを吸収」することが出来、吸収したものを「解析」し「効率化」したうえで、「放出」することが出来る、という事が分かった。
簡単に言えば、相手が放った魔法を吸収して打ち返すことが出来るってわけ。
まぁ、貯めておくのも限界があるらしいから、何でもかんでもって訳にはいかないみたいだけどね。
「マイナ、手伝って。」
私は、辺りに敵がいない事を確認すると、マイナと共に馬車に駆け寄る。
そして、倒れている男を縛り上げ、隅へと転がす。
その間にマイナは馬車へと声をかけ、怪我をしている人がいないか確認をする。
そうこうしている間に、戦いも終わりリィズが駆け寄ってきた。
「カナミ、こっちに1人逃しちゃってごめん。」
「あ、ウン大丈夫だったよ。」
私はそう言って、転がしてある男を指さす。
更にリィズから話を聞こうとすると、ガタイのいい男が歩み寄ってきて、にかっと笑った。
「いやぁ、助かったよ。嬢ちゃん、動きがキレッキレじゃねえか。」
リィズは腕を組んで視線をそらす。
「別に……普通ですよ。」
「普通であれかよ。」
男は豪快に笑い、後ろの護衛たちも「すげえな」とひそひそ。
「いやほんと、俺たちだけじゃ押しきれなかった。礼を言わせてくれ。」
「……勝手に出しゃばっただけ。お礼ならカナミに。」
口ではそっけないけど、耳の先がうっすら赤い。
私はその横顔を見て、ちょっと胸が熱くなる。
――リィズてれてる?可愛いなぁ、もぅ。
「それにしても嬢ちゃん、代わった武器だよな?」
リーダーが感心したように首をかしげる。
「そう?ごく普通の武器だよ。」
ぶっきらぼうな返事。でも足先が小さく揺れているのを私は見逃さなかった。
「……ふふ。」
思わず笑みがこぼれる。
リィズがちらっと私を見る。
「なに笑ってるんですか。」
「ううん、なんでもない。リィズは可愛いなぁって。」
「うぅ、抱きつくなぁッ!」
リィズが慌てて私を引きはがそうとして、ますます耳が赤くなる。
その様子を見て周りの護衛たちが苦笑したり、にやにやしたりしている。
うんうん、その気持ちよくわかるよ。リィズは可愛いもんね。
その空気を少し収めるように、ガタイのいい男――護衛のリーダーが咳払いした。
「――あー、仲が良いのは結構だが、改めて礼を言わせてくれ。」
彼は一歩前に出て、真面目な表情になる。
「お二人が駆けつけてくれなきゃ、被害はもっと出てたはずだ。特にあんた――嬢ちゃんが、あの手練れ4人を引き付けていてくれなければ、俺達はやられていた……本当に助かった。」
視線はまっすぐリィズに向けられている……ひょっとして惚れた?でも駄目だよ?
あと、今馬車の中にマイナが入ってるから見えなかったのだろうけど、私たちは3人だからね。
リィズはそっぽを向いて、肩をすくめる。
「……別に、助けるつもりで来たわけじゃないです。」
「それでも助けてくれたのは事実だ。」
リーダーが口元をゆるめ、しかし頭を下げる仕草はきっちりしている。
「護衛一同、心から感謝している。」
リーダーが深く頭を下げる。
「改めて名乗らせてもらうぜ。俺はガンス――冒険者パーティ『暁の銀杯』のリーダーだ。こっちは仲間たち。」
後ろの護衛たちも次々と軽く手を上げて自己紹介する。
「で、お嬢さん方は?」
「私はカナミ、こっちが――」
「リィズです。」
リィズはそっけなく短く答える。
和やかに言葉を交わしていると、がたん、と後方の馬車の扉が開いた。
数人の男女が順に降りてくる。その中央に、小さな影――。
「……おや?」
ガンスが振り返る。
降りてきたのは、上質なドレスを着た10歳ぐらいの少女だった。栗色の髪にリボンを結び、仕草はどこか堂々としている。
護衛たちが自然と道を開ける様子からも、彼女がただ者ではないとわかる。
「イーリス様、足元にお気をつけて。」
付き添いの女性が小声で注意する。
――イーリス。どうやら貴族の娘らしいね……面倒毎になるかなぁ?
私とリィズは顔を見合わせた。
ガンスが手短に説明する。
「俺たちの依頼人だ。イーリス様を無事に街まで送り届けるのが今回の仕事でな。」
イーリスは私たちを見上げて、興味深そうに首を傾げる。
「あなたたちが……さっき助けてくれた方?」
声は幼いのに、どこか気品が漂っている……流石貴族様だねぇ。
イーリスは裾をつまみ、私たちに向かって丁寧に一礼した。
「さっきはありがとうございました。あのままだったら、きっと護衛の方々も……それに、マリアも――」
彼女の視線が侍女に向く。妙齢の女性が少し離れた場所でマイナに手当てを受けていた。
「……マリアが怪我をしたとき、すぐに治してくださったのです。」
マイナが控えめに呟く。
「はい、少しの切り傷でしたから。もう大丈夫です。」
声が少し硬い。怪我人を見つけて慌てて駆け寄ったけど、相手が貴族とわかって緊張している……そんな感じだね。
「本当にありがとう。」
イーリスはぱっと顔をほころばせ、再びこちらに向き直った。
「助けていただいたこと、絶対に忘れません。」
その小さな声には、不思議なほどはっきりした響きがあった。
私は慌てて手を振る。
「ううん、私たちはたまたま通りかかっただけだよ。気にしないで?」
っていうか忘れてもらっていいよ?うん、忘れてね。
「……そういうわけにはいきませんわ。」
イーリスは頑なに首を振る。
「お名前を教えてください。お礼をしたいのです。」
「カナミです。こっちは――」
「リィズ。」リィズはそっけなく答える。
イーリスはリィズをじっと見て、小さく微笑んだ。
「カナミ様にリィズ様……そしてあちらにいらっしゃるのがマイナ様ですね。助けて頂き、ありがとうございます」
イーリスは再び、深々と頭を下げるのだった。
◇
「……ねぇ、皆様も冒険者なの?」
「え? うーん……まぁ、そんな感じかな?」
私はとりあえずそう言っておく……まぁ、これから冒険者登録するから間違ってない……よね?
私達は、馬車を直すまでの間、イーリスの相手をしてほしいとガンスさんと執事さんに頼まれ、木陰で持参のおやつを食べながらイーリスとお話をしている所なの。
本音を言えば、さっさと逃げ出したい。だけど、貴族様のお願い事をおざなりにするわけにもいかず、馬車が直るまでの辛抱だ、とこうして相手をしているのよ。
「やっぱり! あんなに強いんですもの!」
「別に……普通。」
リィズがそっけなく言うと、イーリスは口を尖らせた。
「そんな言い方しなくてもいいのにぃ。かっこよかったですよぉ!」
リィズは一瞬だけ言葉に詰まり、そっぽを向いて小さくつぶやく。
「……別に褒められてもうれしくないし。」
その耳が赤いのを、私は見逃さなかった。
イーリスはそんなリィズの反応を面白そうに眺めると、急に真剣な顔になる。
「ねぇ――お礼をしたいの。だから、このまま街まで一緒に来てくれませんか?」
「だが断る。」
リィズがきっぱりという。……ってか、何でそのネタ知ってるのよ?
イーリスはリィズの言葉にショックを受け、その瞳に涙が浮かぶ。
うぅ……罪悪感半端ないけど、私もリィズと同じ気持ちなんだよね。
下手に貴族様と係わり合いになると、面倒毎に巻き込まれそうだしぃ。
だから、私は顔を背け、そっと後ずさるのだった………。
属性特盛妹系お嬢様のイーリスちゃん登場です。
一応すれ違うだけのモブとして出したんですが……いやな予感しかしません><
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