誰が駄女神よっ!
「お姉ちゃん……カナおねえちゃん……。」
マイナに身体を揺さぶられて、私はようやく意識を取り戻す。
「あ、マイナ……どうだった?」
「ぶぅ、私の事より、お姉ちゃんだよぉ。お祈りの途中で倒れたって聞いたから心配したんだよっ!」
プンプンとむくれるマイナ。もぅ、可愛いんだから。
「私は大丈夫よ。ちょっと女神様とのお話でショックを受けただけだから。」
「女神様のご神託……大丈夫なんですか?」
遅れてやってきたリィズが真剣な眼差しで問いかけてくる。
「あ、大丈夫、大丈夫。神託なんて御大層なもんじゃないから。ただ、叱られただけだよ。」
「叱られたって……。」
「うん、リィズやマイナを助けたことでね、トラブルに首をツッコむなってね。でも、マイナやリィズを見捨てるなんてできないでしょ?」
「おねぇちゃん……一生ついていくからねっ!」
マイナは感極まったように瞳に涙を浮かべ、抱きついてくる。
「ハイハイ、落ち着いてね。それでマイナはどうだったの?ギフト貰えた?リィズは?」
「まぁ、もらえたかな?」
「うん……でも……。」
あっさりというリィズに対し、マイナは歯切れ悪く俯く。
「じゃぁ、マイナの事、少し「見て」いいかな?」
「えッ。見る?いいけど……そんなことできるの?」
「うん、私の力でね……「ブック」!」
私は女神の手帳を取り出す。
とりあえず、マイナからね……
マイナ
種族:人族
カナミの巫女
スキル 料理 調合 採集 昆術 治癒魔法 聖属性
ギフト ミシェイアの加護 アスティアの加護
……加護が貰えたのね。聞いたことがない名前だけど。
それより、私の巫女?なんのこっちゃ??
一応、リィズも見てみようか?
リィズ
種族:ネコ科獣人族(亜神)
カナミの眷属
種族特性 「獣化」「瞬動」「夜目」「気配探知」「隠蔽」
スキル 双爪術 双剣術 迅速 雷化 疾風迅雷 身体強化 風属性
ギフト 風雷神の加護 カナミの加護
……特に問題ない……と言いたいけどっ!ツッコミどっころ満載よっ。
私の眷属、ってところもそうだけど、「亜神』って何よっ!「亜人」の間違いじゃないのっ??
ここだけグレーになっているのも意味深だし。
それに「カナミの加護」って言うのはっ?与えた覚えはないし、これもグレーだけど、わけわかんないわよっ!
……ふぅ、ふぅふぅ……今まで避けて来たけど……これは仕方がないわね……
私は自分を念じてみる
カナミ(水上香奈美)
種族 人族(堕女神……駄女神??)
カナタの追っかけ(ストーカー)
この世界におけるカナミの能力
勇者(一応)
制限解除 女神のノート 万物創造
ミルファースの加護 ミィルの加護 マァルの加護 エルフィーネの加護 マルスレイの加護 エファの加護……
……これ以上の情報開示はS級シークレット……
………うん、自分が一番ツッコミどころ満載だったわ。
駄女神って何よっ!
これもグレーって事は、今はアクティヴじゃないって事なのかなぁ。
っていうか、センパイのストーカーって…………あ、まぁ……否定しきれない……。
っていうかS級シークレットって?何かあるって言ってるようなもんじゃないのよっ!
「……ちゃん、お姉ちゃん!?」
「あ、あぁ、マイナ、何?」
「なに?じゃないわよっ!急に黙り込んじゃって……」
「あぁ、ゴメンねぇ。マイナについたのって女神様の加護よね?しかも二人も。よかったじゃない。」
「あ、ウン……でも……ミシェイア様とアスティア様だから……。」
「うーん、その2柱の女神様の事、私よく知らないんだけど、良くないの?」
「あ、良くないってわけじゃないよ。ミシェイア様は物理系全般の加護を与えてくれるから、防御能力が上がるし、攻撃力にも補正があるの。アスティア様は魔法系全般に足して籠を与えてくれるから、魔法抵抗力は少しあがるし、成功率も効果も少し上がるの。得意不得意関係ないから、全体的な底上げをされたって感じだね。」
「万能系なのね。いいじゃない?」
物理、魔、どちらか片方じゃなく、両方の底上げ……結構いいと思うけど、何が問題なんだろう?
「あのね……その……こんな言い方不敬にあたるかもだけど……ミシェイア様とアスティア様は「ポンコツ双子神」とか「うっかり、駄女神様」とか呼ばれてるんです。お二人の逸話に、古代文明をうっかりで滅ぼしたとか、壊したとかいうのがたくさん残っていて……。」
「……ま、まぁ、気にしない事よ。女神様がうっかりでも、加護までうっかりすることはないでしょ?」
「だといいんですが……。」
「大丈夫大丈夫。今日はごちそう作ってよ。それでぱぁっと騒ぐのよ。」
私は、努めて明るく言いながら、ひょっとして私がこの世界に来たのはそのポンコツ女神のうっかりのせいじゃないだろうなぁ?などと考えていたの。
◇
そして翌朝。
私達はコミィと、村に残る元奴隷たちに見送られながら、村を後にした。
「本当なら、街道沿いに行くのがいいんだけど、敢えてこっちに行くわよ」
私はそう言って、恵みの森を指さす。
街道は森を迂回して整備されているため、時間がかかるのだ。
移動手段が馬車じゃないから、森を斜めに突き抜ける方が大幅に時間が短縮できる。
街道沿いにいけば1週間かかるのが、森を突っ切ることで2日ほど短縮できるのは大きい。
途中途中、食べられるものや調合素材になるものを最終しながらゆっくりと移動していく。
私とマイナが採集している間は、リィズは護衛。
その護衛の合間に、リィズは角ウサギを狩ったりしていたため、初日の夕食はそれなりに豪華だった。
二日目の朝、私は二人に、今日はこの場で留まることを提案する。
「何かあるの?」
リィズが訝しげに聞いてくる。
「ううん、ちょっとね、今のうちにやっておきたいことがあって……。折角だから、二人とものんびりしてよ。」
私がそう言うと、二人は少し思案した後、各々好きな事を始めるのだった。
「さて……と。」
私は手頃な木を切り倒してはモモコに捕食させていく。
大きな岩を見つけたらそれも捕食。
手当たり次第捕食させていき、気付けば周りがちょっとした広間になっていた。
「場所もここでいいかな?」
私はモモコと念話を繋いで、イメージを投影する。
『わかったっす。』
イメージを確認したモモコは、再構築を始める。
初めての事だし、モノは大きいから時間がかかるかな?でも、きっとうまくいくはず。
そう、私は自分の情報を開示した時に気づいたんだ。「万能創造」という力がある……これは、ひょっとしたら…と。
そんな事を考えながら、時間潰しに、周りの雑草を採集していくのだった。
・
・
・
「えっと、お姉ちゃん?」
「カナミ……これは?」
戻ってきた二人は、ソレを見て呆然としている。
「お家……作っちゃったの?」
マイナがギギギ……という擬音が聞こえそうな感じで首を回す。
二人の目の前にあるのは小さなログハウスのような建物。
と言っても、それっぽい見かけだけで、実際にはただ周りを囲ったというだけのシロモノ。
「あー、お家はまた今度ね。さすがにいきなり露天は恥ずかしいでしょ?」
そう言いながら私は二人を建物の中へ案内する。
「ここで服を脱いでね。」
「えっ、まさかこの先は……。」
さすがにここまでくれば、ここが何なのか想像がついたのだろう。
二人は目の前のドアを開ける。
「やっぱり……」
マイナは感動に打ち震え、知らずのうちに服を脱ぎ始めている。
「お風呂……カナミ、こんなの作ってどうするのよ?」
リィズも、そんなことを言いながらすでに服を脱いで、いつでも突撃できる態勢になっていた。
「お湯もちょうど手ごろな温度になってるから、入っちゃおうか?」
私がそう言うや否や、二人はパッと飛び込んでいく。
ウンウン気持ちはよくわかるよ。
村にいた時は、コミィの家にお風呂があったから毎日のように入っていたのだ。
コミィも、ポーション調合する場所で汚いままで居られても困るから、積極的に湯浴みを進めていたしね。
二人だって、村に来る前までは毎日湯浴みをする、なんてことはなかったはずなのに、たった数日でお風呂の魅力の虜になっちゃったからね。旅だし仕方がないとはいえ、昨日お風呂に入れなかったのはつらかったのだろう。
この浴場、広さは脱衣場を含めて10畳ぐらい。湯船は3人が入るのはギリギリだけど、その分洗い場は広めにとってある。
お湯は、コミィの家の浴場にあった魔道具をちょいちょい……と。
具体的には、モモコに捕食させて解析し、より効率のいい感じで再構築したの。
湯船のそばにライオンの頭のオブジェを作り、魔力を流せば、その口から適温のお湯が出てくる。
排水されたお湯は、濾過浄洗されて魔道具へと戻ってくるから、最初に流す魔力以外は殆んど掛からない低コスト仕様。
もちろん洗い場にも、現代日本のシャワーを模した小型の魔道具が設置してある。
「奇麗な川が近くにあってね、後でみんなで水浴びに誘おうと思ってたんだけど、やっぱりこっちの方がいいなぁ。」
湯船に浸かったリィズが嬉しそうに言う。
「えぇ……しゃーわせですぅ……。」
マイナが蕩けている。
「しかし、こんな立派なモノ、使い捨てってもったいないねぇ。」
リィズが残念そうに呟く。
「え?使い捨てじゃないよ?」
「はぁ?こんなのどうやって運ぶんだよっ!」
「ふっふっふ……カナミ様に不可能はないのよっ!」
……はい、嘘です。
ホントは、このまま、魔法の革袋に入れられないかなぁって考えていたんだけどね、さすがに無理でした。
魔力量が原因なのか、大きさがダメなのか、またまた別の理由かはわからないんだけど、ダメという事はわかったの。
だからね、一度モモコに捕食させて、素材に戻し、使う時に、また再構築させることで持ち運び可能にしたのよ。
最初に作ったときは、1時間かかった再構築だけど、一度作ってしまえば次からは5分程度で再構築が可能になった。
マイナがさっき言ってたお家も、この手を使えば持ち運びできなくはないんだけどね……。家の場合は問題が一つ。
家具がね……。
モモコに捕食させると、中にあるものすべてが素材に戻っちゃうのよ。
まぁ、捕食させる前に家具すべてを先に革袋に入れておくというのも考えたけど、それやったら革袋の中身、家具だけで一杯になっちゃうから。
それに私が考えていたのは、家をそのまま収納できれば、普段着や食材なんかは家の中に入れておけばいいんじゃね?ってことなんだから、それが出来ない時点で、家の事は保留なの。
まぁ、お風呂が持ち運べるだけ、快適な旅ができるよね?1日つぶした甲斐があると言うものだわ。
結局、この日は、お風呂に喜んだマイナがお風呂につかりすぎてのぼせちゃったので、リィズと二人、干し肉をかじって過ごしたのよ。
8話目にして、やっと始まりの村から旅立ちました。
このペースでは、王様に謁見するまで、あと何話かかることやら……
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