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旅に出ます、探さないでください……

バーサクベアーを(リィズが)倒してから1週間が過ぎた。

村長からは喜ばれ、、司祭様からはありがたいお褒めの言葉を頂き、ついでに、奴隷にされそうだった娘たちも、村での生活におちつきだしたから、そろそろ旅に出ることを真面目に考えることにしたの。


というのもね、まず、司祭様が顔を見る度「王都に向かうのじゃ、気を付けてな」と言ってくるし、村長は、隙を見ては歓迎の宴を開こうと言ってくるし……。

多分、村長は、また無理難題を吹っかけようとしているのだと思うけどね……。おかげで、村で出される食事を素直に頂けなくなっちゃったよ。


「はぁ……こんなもんかな?」

旅装備を確認していると、背後から声が掛けられた。

「ようやく出発?」

リィズだった。

「うん、これから出ようと……って、リィズ、その恰好まさか……。」

「ん?一緒に行くよ?」

それが何か?というような顔で見上げてくる。

「えっとね、旅は危険なのよ?」

「……それ、私が言うセリフ。」

呆れた様に言うリィズ。確かに、リィズの方が旅慣れてるし、戦闘力も高い。

「でも……。」

「私は「勇者」様の「従者」なんでしょ?一緒に行かない方が不自然だよ?」

「ぁぅぅ……そうだったぁ……。」

私はガクッとひざを折る。


あの時……バーサクベアーを倒したと報告しに行った時、どうやって倒したのかと訊ねられ、つい「従者のリィズが頑張ってくれた」と言ってしまったんだよねぇ。

あの時は、リィズが倒したのだからカナミは何もしていない、と言われるのは避けたかったから、つい「従者」って言っちゃったんだよね。

従者の功は主の功ってね。それに、元奴隷の娘たちはリィズが保護していた、という事になっているから、彼女達の為にも、リィズが従者になったという事にしておいた方がいいと思ったんだよね。流石に勇者の従者が保護していた人たちを邪険にはしないでしょ?という打算的な考えなんだけど……。


まぁ、そのおかげかどうかは分からないんだけど、皆落ち着いた生活が出来ているみたいだし……ま、いっか。


「はぁ……。リィズの準備は良いの?」

「私はいつでも……。」

「私も行くっ!」

リィズの言葉を遮るように飛び込んできたマイナ。

「えっと、……行くって?」

「私もカナおねえちゃんと一緒に行くのっ!」

「あのね、マイナ……。」

私は何とかマイナを説得しようと試みる……が……。


「カナおねえちゃん……旅の間中、食事はどうするの?」

「うっ……。」

痛いところを突かれる。

私は正直に言えば料理はかなり得意な方だ。センパイの胃袋を掴むために頑張ったし。

ただ、それはあくまでも、()()()()()での事なんだよね。

コンロもレンジもないこの世界、調味料だって数少なく、火加減一つとってもよくわからないこの世界では、私のスキルはほとんど役に立たない。

因みに、リィズは調理と言えば、肉に塩を振って焼く、以外の事を知らない。


つまり、リィズと二人で旅する場合、食事は壊滅的だという事。だったら自分は役に立つ、とマイナは言っているのだ。


「仕方がない、マイナも一緒に行こ。」

「ちょっと、リィズっ!」

「私は美味しい食事を欲す!」

「そうだけどぉ、そうなんだけどさぁ……。」

私の葛藤を無視してリィズはマイナに話しかけている。

「いーい?旅の間、ちゃんと私とカナミの言う事を聞くんだよ?勝手にどっかに行ったりしない事。」

「うん、大丈夫。」

「怪しい人影を見たらすぐ報告。」

「うんうん。準備して殲滅するんだよね」

「男を見たら痴漢と思え。」

「うん、急所を蹴るの……ちゃんと練習してるよ。」

「それから……。」


……なんか偏ったことを教えてるみたいだけど……まいっか。

私は説得を諦め、代わりにマイナの旅立ちの準備をする為、市場に繰り出すのだった。



「ふぅ……これで取りあえずはいいかな?」

「そうね。でもカナミのその袋、便利よねぇ。」

リィズが言っているのは、勇者旅立ちセットが入っていた革袋だ。

正式名称は「勇者の道具袋」で、見た目以上のものが入る魔道具だったりする。


正確に言えば、最大で99種類のモノが各99個収納できるというのだけど、今現在は10種類、各10個しか収納できない。


でも、これには裏技的な使い方が出来て、同じ大きさの「革袋」なら、中身が入っていてもいなくても、「革袋」という1種類として扱われるのよ。

つまり、例えば、ポーションをそのまま入れた場合、劣化ポーション10本、ノーマルポーション10本、ハイポーション10本、解毒ポーション10本、解痺ポーション10本、毒ポーション10本、麻痺ポーション10本、睡眠ポーション10本、劣化万能薬10本、万能薬10本……10種類各10本で、他に何も入らなくなるんだけど、このポーション100本を革袋に入れ、同じモノを10個用意すると、革袋1種類10個として認識されるの。

つまり、1種類分しかスペースを消費しない上に、持ち運べるのは各ポーション100本と10倍にまで増えるってわけ。


同じように保存食なんかも、干し肉や野菜くずなどバラバラで持ち運ぶより、一つにまとめて10セット用意した方が数多く持ち運べるのよ。……まぁ、予算の関係で、いっぱい持っていくことはできないんだけどね。


現在、私の革袋の中は「お金」「食材」「水」「保存食」「ポーション」「装備(衣類含む)」「道具類」「器具類」「素材」と9種類の革袋が入っている状態。数的には余裕があるけど種類的にはほぼいっぱい。余裕がないのよ。

実は、この問題を解決する、ある計画を考えてはいるんだけどね。それには少し時間がかかりそうだから、今回は見送り。

それより問題なのは……。


「ねぇ、リィズ。」

「何?」

「恥を忍んで聞くけど……あなたいくら持ってる?」

「……10G 」

「ちょ、ちょっと、あなた、バーサクベアの報奨金、結構あったよねっ!?」

バーサクベアを持ち帰った後、その遺体は、素材の権利共々村長に渡した。そのお礼として報奨金が300Gほどあり、その内の半分をリィズに渡したはずなのだけど……。

「それはカナミも同じ……いくら残ってるの?」

「50……ううん、ここの支払いを考えると32G……。」

私達は今、買い物を終えて、市場の片隅で食事をしている所。

この後は教会に行って、リィズとマイナのギフト授かりの儀を執り行ってもらう予定なのよ。

勿論タダというわけにはいかない。お布施という名の代金がかかるのよねぇ。

相場は一人10G からなんだけど……


「はぁ……ギリギリかぁ……。」


私達の当面の目標は、アイランド王国の王都アイン。

そこで王様に謁見して勇者として認めてもらい、魔王討伐の旅に出る……というのが、私の知ってるカンタラクエストのストーリー。

でも、似て非なるこの世界で、流れに沿う必要はないと思っている……けど、これからどうするにしても情報は必要。だから大きな街……王都に向かうのは悪くない選択だと思っている。


問題なのは、この村から王都に向かうまでの行程。

ここから王都までに、三つの街があり、その他複数の村が存在する。

村は基本的には排他的なところが多く、1泊程度の滞在ならともかくとして、長期で滞在するとか、情報を得ようとするにはあまり向かない場所だ。対して街は、長期滞在に向いているけど、入るのに入街税がかかる。


食事をしながらリィズと相談して決めたのは、まず、一番近い街「ダイチ」に向かい、そこで冒険者登録をする。

依頼を受けながら冒険者としての実績を積みつつ、情報を集めるとともに旅の路銀を稼ぐ。

路銀と情報が集まったら、その先のルートを決める……多分、次に近い街「ニノ」に向かう事になるだろう……という所まで。


問題になるのは、ダイチの入街税と冒険者登録の初期登録料。それぞれ、2Gと3G……一人当たり5Gが必要になる。

3人で15G。私達の手持ちが、3人合わせて25G(予定)

「……はぁ、マイナが一緒に来てくれるのは正直助かるよぉ。」

この村からダイチの街まで、約1週間かかる。

その間の食事を全て保存食で賄おうとするとかなりのコストがかかる。

その点、食材を持ち歩くのであれば、かさばるし、傷みやすいけど、1週間分であれば保存食の1/10以下のコストで済む。マイナが料理担当という事で、食材の方を用意したのだが、マイナがいなければ、保存食を買うしかなく、1週間分も用意できなかっただろう。


ってか、勇者を本当に旅立たせる気あるのかっ!


プンプンとオコ状態で教会に向かう。

二人がギフト授かりの儀を受けている間に、私は私で女神様に祈りを捧げる……。



……気づけば、真っ白な世界に私は立っていた。

……ここって、先日女神様とお話した場所?


『そうよ。なんであなたは言う事聞いてくれないかなぁ?』

幼女女神、ミィルがプンプンと怒っている。

『奴隷なんて放っておけばよかったでしょ。なんで首をツッコむかなぁ?』

……なんで、って言われてもねぇ?


『まぁまぁ、ミィルちゃん。あそこにリィズちゃんがいたんだから、仕方がないよ。』

ミィルとよく似たもう一人の幼女女神がミィルを慰める。


『あ、カナミ、はじめまして、私は愛と美を司っているわ。だから、カナタとの事も応援してるからね。』

『マァルっ!』

『えっ?あっ、ごめぇーん……またねぇ。』

マァルは失言した、と口を塞いで逃げるようにして去っていった。

「どういうこと?なんでセンパイの名前が?」

『いいからっ、気にしないでっ!あなたは何もせず、大人しくしてればいいのっ!わかったっ?』

ミィルはそう言って、姿を消していく。

「ちょ、ちょっと待ってよっ!センパイはっ?この世界にセンパイがいるのっ??』

しかし、私の声は白い空間にかき消され塗りつぶされていくのだった……。





意味深な言葉を残して伏線を張りまくる女神たちです。

壮大な裏設定の上に成り立つこの世界。

まぁ、今のカナミには関係ないのですけどね……多分。



ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

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