拾っちゃった……。 捨ててきなさいっ!
「はぅ……。」
私、多分今顔真っ赤になってるよね。
目の前では、数人の男達に寄ってたかって嬲られている女の子。
でも、嫌がっているというより、喜んでいる感じだから……。
私はそっとその場を離れる。
……こっちは……っと。
奴隷商人らしき男と、護衛のリーダーっぽい男が一人の女の子を嬲っている。
コッチの子は……うわぁ……凄く嫌そう……っていうか泣いてるよ……。
思わず飛び出して殴りかかりたい衝動に襲われる……けど……。
……ここは我慢……慎重に……
私はその場をそっと離れて、女の子たちが集まっている場所へと移動する。
(あなた達は奴隷よね?)
少し離れた場所から小声で囁く。
人族より、はるかに耳がいいと言われている獣人っぽい女の子がいるから、きっとこの声は届くと思う。
「なっ……だれっ!?」
予想通り、獣人の女の子が、キョロキョロと周りを見回している。
(シィッ!……静かにしてくれないなら私はこの場を去るわ。)
「……いや、待って……。……なんの用?」
(用って言うか……、怪しい一団だからね、様子を探りに来たのよ。ただ怪しいだけで、まともな人たちであればいいけど、後ろ暗いところがある人たちなら対処しないといけないからね。)
「助けて……くれるの?」
……これには慎重に答えないといけない。
下手に助けると答え、助け出したとしても、彼女が犯罪奴隷じゃないという保証はないのだ。
女神の手帳に書いてあった情報によれば、犯罪奴隷の逃亡をほう助した場合、問答無用で犯罪奴隷にされるという。そんな事になったら目も当てられないからだ。
(……あなたは、何で奴隷に?)
「……奴隷狩りにあったのよ。」
その少女?はそれっきり何も答えない。
奴隷狩りとは、「奴隷を狩る」のではなく、「奴隷にする者を狩る」のだ。
人族よりお目こぼしがされることが多く、また、希少価値であるエルフ、ドワーフ、ハーフリングや獣人などの亜人が対象になることが多いが、質の悪いところになると、小さな村が襲撃され、村人丸々奴隷にする、という輩もいるという。
「………用がないなら、早く帰った方がいいわよ。」
しばらくの沈黙の後、そんな呟きが聞こえる。
その声音は、まるですべてを諦めたかのようだった。
(はぁ……犯罪奴隷ってわけじゃないのよね?)
「そうよ。」
(そこにいるみんな?)
「えぇ。みんな騙されたか脅迫された娘ばかりよ。」
(………合図したら、北に向かって走って。しばらく行けば泉があるからそこで合流ね。)
私は少し考えてからそう言う。
「無理よ。見つかったら首輪が締まるわ。」
(それは我慢して……と言うのは酷よね。たぶん、大丈夫だとは思うんだけど……賭けになるわ。いやなら動かなければいい……全員無事に助け出すなんて烏滸がましい事は言えないから。)
「………ん。わかった。みんなには伝える。どうするかは皆の判断に任せる……OK?」
(OKよ。じゃぁ、合図を待っててね。)
私は会話を打ち切って、そっと場所を移動する。
「モモ?」
『なぁに?』
「魔物をここまで誘導できる?」
『できるっす。でもこの周り結界が張ってあるっすよ?』
「それはこっちで何とかするから、お願い。」
『了解っす!』
私がたてた作戦はこうだ。
まず、モモにここまで魔物を連れてきてもらう。
魔物よけの結界は私が今から壊して回るから、魔物が来たら、当然パニックが起きる。
奴隷の状況など気にしている余裕はなくなるはずだ。その隙に奴隷さん達には逃げ出してもらう。
逃げずにとどまるなら……そこまでの面倒はみきれない。というか、この件について手出しするのが正しいのかどうかも分からないのだ。
「奴隷は、この世界では必要なのかもしれないけど、私は嫌。だから解放したい……。これは私の我がまま……ソレの何が悪いのよ?」
よくよく考えてみれば、勝手に召喚されて、勝手に勇者なんてのを押し付けられて……少しぐらいわがまましたって文句を言われる筋合いはないわ。
そう呟きながら私は結界石を探す。
コミィから教えてもらったのだけど、この世界では旅する必需品の一つとして「結界石」と言うのが存在するらしいの。
簡単に言えば、この結界石の範囲内には魔物が寄ってこなくなるという、虫よけみたいなものね。
この結界石、石を中心に効果があるモノ、いくつかの石を置いて、その範囲内に効果があるモノなどなど、いくつか種類があるのよね。
で、この奴隷商が今回使っているのは、複数の石を置いて結界を張るタイプ。
これは数を用意しなければならないけど、一つ一つの効果が弱くても広範囲に結界を張れるから、コストパフォーマンスがいいのね。その分範囲に応じた数が必要になるけど。
と言っても、安物だと効果範囲が限られるから、一つ見つければ……ほら。
私はそれほど時間をかけることなく、結界石をすべて回収し終える。
起動させて間もないから、まだ十分使用できるよ。儲けちゃったね。
私は結界石を革袋に入れると、そのまま身を潜めてモモが戻ってくるのを待つ。
『姐さんっ!助けてほしいっす!』
そう言って私の肩に乗るモモ。
……っていうか、なんちゅうモン連れてきたのよっ!
モモが誘導してきたのは、あの、バーサクベアだった。
当然奴隷商も護衛達も大パニックだ。
(今よっ!走ってっ!)
私は奴隷の女の子たちに向けてそう声をかけると、自分も泉へ向かって駆け出した。
◇
「はぁはぁはぁ……。皆無事?」
私は息を整えながら周りを見る。
私が指定した場所……森の中の泉の前には、すでに捕らわれていた奴隷たちが集まっていた。
いち、にぃ、さん……。
二人足りない。
「これで全員?」
私はそこにいた獣人の女の子に声をかける。
「いや……ネリィとサミィが……多分、もぅ……。」
森の中では、バーサクベアーと護衛たちの戦いが続いている……が、その音はだんだん小さくなっていく。
ネコ耳の獣人の女の子の話によれば、ネリィとサミィという女の子は、私が声をかける前に、護衛たちに連れていかれたのだという。……おそらく、あの嬲られていた娘たちだろう。
バーサクベアーが襲ってきたときに、うまく逃れていればいいが、私が見た時は、そういう趣味なのか、逃げられないようにするためなのかは分からないが、二人とも縛られていた。
だから、多分……。
「アンタが気にすることじゃないよ。どうせあのままでは、生き地獄を味わう運命だった。むしろ呪縛から解放されて喜んでいると思うよ。」
ネコ耳少女……リィズがそう言って私を慰めてくれる。
口は悪そうだけど、優しんだね。
「ところで、アンタ、なにか武器持ってない?」
「私はカナミよ。武器なんかどうする気?」
「カナミ、ね。決まってるでしょ?アイツを倒す。」
遠くに見えるバーサクベアを指さすリィズ。
「確かに、あのまま放っておけないけど……これでいい?」
私はリィズに「ヒノキの棒」を渡す。
「そうそう、これさえあればあんな奴……ってこんなんで倒せるかぁっ!」
リィズがヒノキの棒を地面に叩きつける。……ノリがいいなぁ。
「私は武器って言ったんだよっ!」
……いや、アレも一応武器なんだけどね。
だけど困った。他に武器なんて……。
一応スラナイフはあるけど、アレは人に渡したらいけないと心の奥で何かが警鐘を鳴らす。
だけど……あ、そうか。
スラナイフで思い出した。無ければ作ればいいじゃない、と。
「あ、でも金属……。」
きょろよろと周りを見回す。
おそらく、リィズが欲しがっている武器というのは、ナイフなど刃のついたものだろう。となると当然金属が必要になる。
「あ。」
目についたところに、丁度いいものが。
「モモ、やって。」
『合点承知っす!』
私の言葉に、モモコがリィズに飛び掛かる。
「わわっ、なんだっ!」
リィズが避ける間もなく、モモコはにゅるっと、リィズの首に巻き付く。
「何だっ、やめろっ!」
リィズはモモコを引きはがそうとするが、スライムを手づかみで捕まえる事などできる筈もなく……。
「はぁはぁはぁ……なんの真似?」
「えぇー、武器欲しいって言ったのそっちでしょ?その材料をもらっただけよ。」
「材料?」
リィズは、怪しげにこちらを睨みつけながら首に手をやる。
「………っ!?」
そこにあったものが無くなっているのに気付き、リィズは驚愕の視線を向ける。
その間にも、モモコは他の奴隷の首からソレを捕食し、武器への再構築を行っている。
「まさか……首輪が……。」
モモコが離れた奴隷の首元を見て、リィズは言葉を失う。
そしてもう一度自分の首に手を当てる。
「本当に……。」
不覚にも、リィズの眼から涙がこぼれる。
一度着けられてしまえば、主の命が無ければ外せないと言われている隷属の首輪。
主が死んでしまえば、外せる者が居なくなるため、定められた場所にある奴隷ギルドで主の契約更新をする以外に道はなく、そこで解放されることなどありえない。
つまり、仮契約とはいえ、一度隷属の首輪が嵌められてしまえば、二度と外せない奴隷の象徴。リィズも、もう自由になることはないと諦めていたのだ……。
「外れた?こんな簡単に……?」
驚いて動く事すら忘れているリィズに、私は出来上がった武器を渡す。
ナックルガードって言うのかな?
指抜きブローブの短い感じで、拳の凸面には晶石がついている。さらに……。
「魔力を流してみてよ。」
装着したリィズにそう声をかけると、リィズは素直に頷いて魔力を流す。すると……
シャキーンっ!
そんな音が聞こえてきそうな勢いで、三本の爪が伸びる。
「ハハッ、カナミ、アンタ、サイコーだよっ!」
リィズはそう言うと、バーサクベアーに向かって飛び出していった。
「……さて、と。」
私は呆気に取られている奴隷たちの方へ向き直り、声をかける。
「とりあえず、ソレ、外しちゃおうか?」と。
◇
「じゃぁ、とりあえず、村へ向かうって事でいいかな?」
私は、元奴隷の娘たちにそう問いかける。
リィズと、すでに亡くなった2人を含めて計8人の女の子達は、この後、王都に連れていかれ、そういう趣味の貴族たちに売り渡される予定だったという。
自由になった今、帰れるのならば帰りたいという娘たちの中、帰りたくても帰れない娘もいる。
例えばマイナという、14歳の女の子は、母親の薬の対価として奴隷になったという。
しかし、その薬を与えてみれば、母親は苦しんで亡くなった……マイナが奴隷商からもらった薬は毒薬だったのだ。
失意の中、マイナは「母親殺し」の犯人とされ、犯罪奴隷として奴隷商に引き渡されたという。
幸いと言っていいかどうかは分からないが、その街では、犯罪奴隷の手続きはしなかったらしく……おそらく、奴隷商がわざと手続きをしなかったに違ない。犯罪奴隷の手続きをしてしまうと、奴隷の行先が決まってしまうからね……マイナはまだ、奴隷として登録されていないので、首輪が無くなった今、自由になる事が出来る。
他にも、幼い妹を人質に取られて、無理やり奴隷契約を迫られたとか、借金のカタに隷属の首輪を嵌められたなど、戻っても、別の奴隷商に売られるか、脱走奴隷として捕まる可能性があるという娘たち。
犯罪そのものの手口で奴隷に堕とされたとはいえ、奴隷になってしまえば経過は無視されるのがこの世界の通例らしい。
だから、とりあえずは「森で襲われた行商人の生き残り」という事で村でお世話になりつつ、この先の事をゆっくり考えよう、ということになったのよ。
まぁ、コミィにお世話を押し付ければ面倒ぐらい見てくれるでしょ。
「それはそれとして……。リィズにお願いがあるの。」
「ん?」
「このバーサクベアーね、私の「お手伝い」で倒したって事いしてほしいのよ。」
私は、バーサクベアーの首を持ち上げながら、そう頼み込む。
「別にいいけど……なんで?」
「えっと、アハッ、訳は聞かないでほしいかなぁ……なんて。」
「…………、まぁ、いいわ。カナミは恩人だし、言う通りにしてあげる。」
「ありがとー、助かるぅ―。」
私はリィズに抱きつき頬ずりをする。……うん、このミミの周りの毛触り、さいこーね。
私を引きはがし、フゥっー!と威嚇するリィズを宥めながら、森を抜けて村へと戻る。
周りはすでに明るくなりかけていた……でも……何か忘れているような……。
私が、「何を忘れていたか?」に気付くのは、村に戻りコミィの顔を見た時だった。
無断外泊について、散々、叱られましたよ……。
ようやく、初クエストクリア?です。
……カナミは何もしてませんが(==;
次回、旅に出ます……多分。
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