死闘!!一角うさぎ?? ウサギに負ける勇者ってどうなのかなぁ?
「はい、じゃぁ、今夜の分ね。」
コミィに、ポンっと、薬草が積まれた籠を渡される。
これだけの薬草を使っても、出来るポーションは3~5本。
腕のいい薬師なら5~7本は作れるらしいのだけど、この村にはコミィ以上の腕を持つ薬師はいないらしい。
私は、この薬草をすりつぶす、という作業をすることで、宿泊費と食事代を賄ってもらっている。
たかがすりつぶすだけ、と思わないでよね。
細かく要求に沿うまですりつぶすのはかなりの力が必要なのよ。
その日の分のすり潰しを終えて、ようやく眠ることが出来る。そして朝になると、コミィが作った朝食を食べてから、私はいつものように村の外へと出かける。
少し前までは、草原の湿地帯でスライムを相手にしてたんだけど、最近は森へ行くことが多い。
その理由は……
「モモ、今日はこれだけ……どう?」
籠一杯に積んだ薬草を、スライムのモモコに捕食させる。
『うぅ……もう無理っす。』
まぁ、5杯目だからね。こんな所かな?
「初日は籠1杯で限界だったのにね、頑張った、偉いぞ。」
私はモモコを軽く撫でる。どうやらこのスライムは褒めて伸びる子らしい。
『うん、頑張ったっす!』
「それでどうかな?」
『えっとポーションの元になる回復草が三種、毒薬、毒消しに使えそうなのが12種、後は、麻痺や睡眠などの状態異常系が計4種ってところっす。』
「そう、じゃぁいつものように、篭一杯分の回復草を出して。」
『了解っす。』
モモコがもぞもぞと動いて、ペイッと篭一杯に詰まった回復草を吐き出す。
これが今日持ち帰る予定の分だ。
「残った分で作れそうなのは?」
『劣化ポーション8本かポーション3本と、毒消しもしくはレベル3の毒薬が8本、解痺薬か麻痺毒薬が4本と、睡眠誘導薬が12本ってところっす。』
「そっかぁ……どうしよっかな?」
ここのところ毎日ポーション類を作っているため、今言ったものはそれなりにストックできている。
かといってコミィの手前、これらのポーション類を村で売るのは躊躇われるし……。
『姐さん、さっき吐き出した回復草を使えば、劣化万能薬が出来るっす。』
「ホント?」
劣化とはいえ、あらゆる状態異常に対応できる万能薬はいくらあっても困るものではないのよねぇ。
しかし、この篭一杯の回復草は、コミィに届けるものだし……。
最近森に行っているとコミィに告げたら、ついでに回復草を摘んできて欲しいと頼まれたの。籠1杯分で3Gもらえるからばかにならないのよ。
因みに、これを村の雑貨屋に持っていくと、買取は2Gで、一束8Gの薬草が売りに出される。篭一杯分の回復草で大体10束分の薬草になるから、ボッタクリもいいところだよ。
尚、コミィの場合、調子が良ければ薬草二束分でポーション1本ができ、そのパーションは教会で、1本20Gで販売される。
薬草より効果が高いことを考えれば、良心的と言えなくもないけどね……モモコなら薬草一束分でポーション1本か劣化ポーション2~3本作れるようになった今では、なんとなく複雑な心境なのよ。
「まいっか。劣化万能薬お願い。」
私はそう言って籠の中の回復草をモモコに捕食させる。
まだ時間はあるから、これから回復草を摘めばいい。
「さて、この間に……。」
モモコが再構築するまで、まだまだ時間がかかる。その間、ぼーっと過ごすのはあまりにも勿体ない。
だから、この間に回復草を摘めるだけ摘んで……っと!
私はパッと飛び退き、スラナイフを構える。
茂みから覗く二つの紅い輝き……。
角ウサギだ……と私が認識した時にはすでに相手が飛び出してきている。
「っ!!」
角ウサギの突進を辛うじて躱しながら、スラナイフを振る。
茂みがざわめく。風の音に混じって、かすかな爪音。
「……来る」
私は息を詰め、スラナイフを握り直した。
次の瞬間、白い閃光が地面を裂くように飛び出した。小さな体に似合わぬ加速力、地を蹴るたびに土が弾ける。突き出した角がまるで槍のように迫り――
「くっ!」
横へ跳んだつもりが遅れた。脇腹に焼けるような痛み。浅く切られたらしい。背中を冷たい汗が伝う。
振り返る間もなく、二撃目。
ナイフを振るが、あっさりとかわされる。速い。目で追っているつもりでも、次の瞬間には死角にいる。
――しまった。
足を払われたような衝撃で転倒。視界がぐるりと回り、口に砂の味。頭を上げると、もう一度突進の姿勢。
転がってかわす。地面に擦れた膝が悲鳴を上げる。
息が上がり、腕が重い。握力が抜けそうになるのを必死にこらえた。
「負けるもんですか……!」
自分に言い聞かせる声が、やけに遠く聞こえる。
ウサギは低く身を沈め、目が光った。
真正面から来る――いや、フェイントだ!
横へ飛ぶが、逆方向から角がかすめ、肩に衝撃。血がにじむ。
「ぐっ……!」
痛みで視界が白く弾ける。
このままでは確実に押し切られる。頭の片隅で冷静な声がした。
(動きを読むのよ……必ず突進の瞬間があるわ……)
地面に転がる葉や石を見て、わずかな起伏に目を止める。あそこに誘導できれば――。
次の突進、私はわざと背を見せて走った。足がもつれるが構わない。
背後から風を裂く音。距離が詰まる。あと数歩――。
「今よっ!」
私は急転回をし、直角に横にずれる。身を低くして構えながら振り返る。
「えっ!」
それはとっさの判断だった。
本来であれば、つられて突進してくるウサギの横腹を切り裂くはずだった。しかし……。
私は反撃に出ようとするのをやめ、目の前にスラナイフをかざす。
同時に、角ウサギの角の先端からスパークが弾ける。
「ウソっ、電撃??」
突撃してくるはずのウサギが足を止め、その角の先から電撃が走る。
回避は間に合わないっ!……電撃が私を襲い、身体を痺れさせる……筈だった。
私も当然覚悟をしてた……のだけど……。
その電撃は、かざしたスラナイフが全て受け止め吸い込む。
やがてスパークがすべて消えると、私は反射的に、呆然としている角ウサギに向けて、飛び込んでいく。
角ウサギが慌てて身を翻そうとしたそ瞬間、足元の石が崩れ、わずかに体勢が崩れた。
その瞬間を逃さず、逆手に構えたスラナイフを切り上げる。
硬い感触の奥に柔らかい抵抗。血飛沫が散った。
だが勢いは殺せず、私はそのままつんのめり、岩壁に背中から叩きつけられ、息が詰まる。
……動けない…けど……。角ウサギもすでに動くことはなく、小刻みに痙攣し、やがて沈黙した。
私はしばらく呼吸さえ忘れ、ただ空を見上げていた。
やっとの思いで起き上がり、ナイフを握る手を見る。血と土で真っ黒だ。
痛みが一気に押し寄せ、全身が重い。足も肩も、まるで鉛のように重い。
「……危なかったぁ……。」
声が震えた。自分に言い聞かせるように、何度も心の中で繰り返す。
(スラナイフ……いい武器なんだけどなぁ……。間合いが短いのが難点ね……中距離から遠距離の……いえ、その前に防御かしらね?)
「はぁ……一匹でこれだもんねぇ。こんなのが群れで来たら……」
胸がざわつく。恐怖というより、悔しさだ。
私は唇を噛み、立ち上がろうとしてまた崩れた。
「……ダメね……まずは……生き延びることが先かぁ……」
視界が暗く揺れ、土の匂いが強くなる。気を失う直前、ナイフだけは離すまいと強く握り締めていた。
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「……ん?」
『姐さん、気が付いた?』
「……ん……ここは?」
『しっ!声を出さないで、動かないでっ!』
モモコの逼迫した思念に従い、私は息を潜める。
(それで……なんなの?)
『怪しい一団が近くにいるっす。たぶん、奴隷商とかいう奴らっす。』
モモコの話では、私はウサギと死闘を繰り広げた後、その場で倒れて意識を失っていたらしい。桃子はそのうち起きるだろうと、様子を見ていたところ、日が暮れかけた頃に怪しい人影が近寄ってきたらしいのね。
でも、こんなところに村の人以外が来るのは、如何にも怪しいから、モモコは、その身体を拡げ、気を失っている私に覆いかぶさるようにして擬態して隠してくれたというの。
結局、その怪しい人たちは、一旦その場から立ち去ったけど、しばらくしてから団体で戻ってきて、少し向こうの洞窟付近で集まっているらしい。
連れていた女の子の首に、ごつい首輪がついていたから、きっと奴隷商だとモモコは言うのだけど……。
『ブック』
私は、少し離れた場所まで移動してから女神の手帳を開く。
『奴隷について』
・この大陸の80%で奴隷は認められている。
・奴隷には「犯罪奴隷」と「一般奴隷」に分かれていてそれぞれの立場で扱いが違う。
・犯罪奴隷は刑罰の結果であり、人権は剥奪され、重い課役が課せられる事がい多い。
・一般奴隷は、借金の肩代わりや身売りなどによる、契約によってなる奴隷の総称であり、基本的には契約時に、条件を決め、人権も保障される。当然、条件次第で価格が大きく変わる。
注: 一般奴隷であっても、条件なし、人権無視して無制限に扱える奴隷が存在する。これらは大抵の場合、本人の本来の意思に反して契約を結ばされた場合が殆どである(脅迫や詐欺など)
これらの奴隷を一般的に「裏奴隷」と呼称し、「裏奴隷」を専門に扱う業者を「闇奴隷商」という。
・奴隷契約の流れ
奴隷契約を結び、隷属の首輪を装着することで仮契約となる。隷属の首輪を嵌めた者は、その時点で奴隷と同等の扱いとなる。
仮契約後、所定の場所で奴隷登録をすることで本契約となり、どのような理由であれ、登録された奴隷は、所定の条件を満たして解放されない限り、奴隷のままである。
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奴隷について、つらつらと書かれているけど、私は途中で読むのをやめた。
なんかねぇ、気分悪いよぉ。
そう思うのも、私が奴隷なんてものが存在しない平和な日本で暮らしてきたからなんだろうけど……。
そう言えば、センパイが「サラリーマンなんて社畜という名の奴隷みたいなもんだ」ってってたっけ。
「まぁ、そんな事より問題は、あの女の子たちが、真っ当な手段で奴隷になっているかどうかよね。」
とはいうものの、アイツらは闇奴隷商だと思う。
根拠はこんなところで隠れるようにして野営しているからよ。
例え奴隷商人と言えども、真っ当であるなら、あの村なら迎え入れてくれるはずだからね。
村に行かず、こんなところにいる時点で、後ろめたい事やってますって言ってるようなもんよ。
私は、スラマントに魔力を通し、認識疎外能力を最大にして、そっと洞窟へと向かう。……どうするのかは、確認してから決めよう。
うーん、ずれていく……。
最初は角ウサギとの戦いを経て、カナミが強くなるために頑張る……ってプロットだったんですけどねぇ。
そこから、気づけば、角ウサギとの死闘の後、気絶したカナミは、奴隷商に捕まって……という流れに行きかけ、流石に無理があり過ぎる、という事で、何とか今の形に収まったんですが……。
カナミちゃん主人公にすると、予想外の方向へ突き進みます。
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