差別ダメっ!絶対!!
「亜人って……カナミ本気なの?」
イーリスは小さく吐息を漏らした。
「この国じゃ、亜人に対する差別は根強いのよ。人族は彼らを見下してるし、亜人だって人族を信用してない。そんな状態で、街に迎え入れるなんて……」
「大丈夫かどうか、なんて聞かれたら――大丈夫じゃないよ?」
私はにっこりと笑いながら言う。
「えっ……」
イーリスは思わず目を瞬く。
「でもね、それでもやるしかないとおもうのよ。街を発展させたいなら、人族だけじゃ絶対に足りない。専門の知識を持った人材が必要なんだよ。大工、医者、技師、商人……その中には必ず亜人だっている。差別して排除したら、最初から半分の力しか使えない。そんな街に未来があると思う?それにね、亜人さんたちにしか伝わっていない知識や技法などもあると思うの。それを取り入れることが出来れば、さらなる飛躍につながるわ。」
「……理屈は分かるわよ。でも!」
イーリスは胸に手を当てて、苦しげに視線を落とした。
「そんな簡単に偏見や憎しみが消えるとは思えないの。積み重なった歴史があるのよ……」
「もちろん簡単じゃないのは分かってる。」
カナミは首を振る。
「むしろ難しい。だからこそ挑む価値がある。そして、亜人たちと手を取り合う事が出来れば……、誰もしなかったことが出来れば……それは大きな自信につながるでしょ?」
「……」
イーリスは言葉を失った。カナミの瞳に映る決意の炎は、揺らぎ一つなかったからだ。
「ねえ、カナミ。あなたは……怖くないの?」
「怖い?何で?」
私は不思議そうに聞き返す。
「いーい?新しい事をやる時は、楽しまなきゃダメ。亜人さんとの交流だよ?エルフはやっぱりエロフなのかなぁ?ドワーフの女の子は合法ロリ?それになんていっても、もふもふ天国の獣人達……期待が広がるわぁ。」
――――カナミの楽しそうな様子は、不思議と頼もしく見えて――イーリスは胸の奥が小さく震えるのを感じた。
夕陽が差し込む森の中で、イーリスはそっと唇を噛んだ。
「……やっぱり、私は怖いわ。人族と亜人を平等に雇うなんて……本当に共存できるの? 失敗したら、街全体が危険に巻き込まれるかもしれないのよ……」
イーリスの声はかすかに震えていた。胸の奥にあるのは不安と責任の重さだ。
そんな彼女に、私は微笑んで見せた。
「……分かってる。イーリスが不安になるのも当然だよ」
「カナミ……」
「でも、安心して。ちゃんと考えはあるんだから」
「ほんとに……?」
イーリスは目を瞬く。
「うん。全部をいきなりしようとするから難しく思えるんだよ。まずは少しずつ、互いに信用できる人材から組んでいけばいい。小さな成功を積み重ねて、周囲に見せていけば――やがて『共にやれるんだ』って証明になる・・・・・・はず」
だけど、イーリスはまだ不安げに視線を揺らす。
「……そんな簡単にうまくいくかしら」
「簡単じゃないよ?」
私は正直にそう言う。
ハッキリ言って、何をどうすれば成功する、なんて答えはどこにもないのだ。
だから、出来ると思う事をする……成功を信じて。
「けど、少なくとも無謀じゃなく、やれる方法を考えてあるわ。」
カナミは、少し声を落として打ち明けるように言った。
「――次の街で、亜人の奴隷を買おうと思ってる」
「……え?」
イーリスは思わず声を出す。行っていることが違うじゃないか?と。
「もちろん、そのまま雇うんじゃない。解放するのよ。同時に宣言する。『この街では種族を分け隔てなく受け入れる』って。解放された亜人たちが実際に働き暮らすようになれば……少なくとも、言葉だけじゃないって証になる。そして、その亜人たちが里帰りをして話を広げてくれれば……うわさを聞き付けたほかの亜人たちが来てくれれば……そうやって時間をかけて共存の輪を広げていくの。」
私は真剣なまなざしてイーリスを見つめる。
「雇い主がイーリスだからね。あなたのその誠実さと、真摯さ、そして可愛らしさがあれば、説得も何とかなる……はずだわ。あなたなら、できる、がんばれっ!」
イーリスは固まった。次の瞬間、顔を真っ赤にして声を荒げる。
「ちょ、ちょっと待って! 私が説得するのっ?一番大変じゃないのっ!?」
叫んだものの、その頬はどこかほころんでいた。
さっきまでの不安に曇った表情はもうない。代わりにあるのは、呆れと、ほんの少しの覚悟。
「当たり前じゃない。あなたの街でしょ?あなたのために働きたいって思ってもらわなきゃ。」
私はイーリスの表情を見て、これなら大丈夫かな?と安心する。
「……まったく、あなたって人は……」
イーリスは小さく息を吐きながらも、心の奥に差し込んだ光を感じていた。
「大丈夫大丈夫、イーリスならできるよ。私も応援するからね。あ、そうそう、勿論、人族側にも意識改革は必要だわ。だから、亜人に対して差別意識が強い人には、最悪出ていってもらう。能力もないのに口だけ出す害悪は、この際一掃するわよ。」
「えぇぇ……それが一番大変じゃないのよぉ。」
イーリスがぼやく……が、その顔はどこか嬉しそうな様子だった。
「そうと決まれば、明日にはシキの街につけるように頑張ろうね。」
私がそう言うと、イーリスは嬉しそうに頷く。
ただ、終始マリアさんの顔色がよくないのが気にかかるところだったけど……、
シキの街についたのは、その日の夕方近く、街の門限までもうすぐ、という時間帯だった。
昨夜野営をした場所からなら、ゆっくり移動しても、昼過ぎには付けるはずだったのに、大きな誤算である。
理由?
そんなの、野盗が襲ってきたからに決まってるじゃない。しかも二組も。
結局、道中襲ってきた野盗は計7組、総勢90人。
その90人は、ももこに作ってもらった、護送用荷車……簡単に言えば、格子状の箱に車輪を付けたもの……に詰め込んで運んできたから、門番に訳を話して引き取ってもらう。
とりあえず、色々取り調べがあるから、三日後に奴隷商のところへ金を受け取りに行ってほしいといわれた。
私はその奴隷商の場所を聞きつつ衛兵さんに注意を促しておく。
まず、この野盗たちにh職jを与えていないこと。最初に襲ってきたものは三日ほど水以外を口にしてないはずだから気を付けてね。と。
それから、一部の野盗が伯爵家の名前を出すかもしれないけど、それはイーリスを陥れるための罠だということを、イーリスに、伯爵家の紋章を出してもらいながら告げておく。ついでにイーリスはお忍びなので、あまり口外しないようにとも伝えておいた。
諸々の手続きを終え、ようやく町中に入るころには、門が閉められ、街中はすっかり夜の雰囲気となっていた。
「とりあえずは宿を探しましょうか?」
私は皆にそう言う。
正直私たちだけなら、適当な宿で構わないけど、今回はイーリスがいるからね。ちゃんとしたそれなりの宿を探さないと。
幸いにも、シキの街レベルになれば、お貴族様の出入りも多く、お貴族様相手の宿はいくつかあった。
そのうちの一つに部屋を取り、ここで数日を過ごすことを決める。
あてがわれた部屋……というかフロアは、さすがに貴族向けにふさわしく、広いリビングを中心に、寝室として使える小部屋が6つ用意されていた。
マリアさんによれば、主人であるお貴族様のほかに、お供が数人連れ添うことは当たり前なので、その者たち用に寝室が用意されているという。
さらに、簡易的なキッチンと湯あみをする場所まで用意されている。
これっていくらなんでも……。
私は恐る恐るマリアさんに一泊のお値段を聞いてみる。
マリアさんは「やっぱり田舎ですのでお安いですわ。」とお値段を教えてくれた。
そのお値段、なんと1泊銀貨3枚。一人ではなくルームチャージ……つまり部屋に対する宿賃なので、一人でも5人でも変わらない。
しかし、安いといわれても……。
ここ一泊の値段で、マリーの村の黒パンが5000個買えるかと思うと……。
それに、忘れていたけど、私勇者だったんだよねぇ。
その勇者の支度金が50G ……個々の一泊のお値段の1/20.……。
………うん、深く考えるのはやめよう。
とりあえず、一人一部屋場を決めてから食堂で食事を頂いき、部屋に戻ってから順番に湯あみを済ます。
色々動くのは明日から……といって、この日はそれぞれ部屋に行き眠りにつく……筈だった。
こんこんこんこん……
小さなノックの都がする。
私は「入っていいよ」と声をかけ、ベッドから身を起こす。
マイナちゃんかな?それともイーリスが夜這いに来た?
そんなことを考えていると、静かにドアが開き、ティーセットを持ったマリアさんが入ってきた。
「どうしたの?眠れない?」
「えぇ、恥ずかしながら。それでカナミ様に少しお付き合いをしていただきたくて。」
そう言いながら、小テーブルにティーカップを置き、瞬く間にお茶の用意を済ませてしまう。
私は勧められるがままにお茶を一口頂く。適温の少しミルク多めのミルクティー。寝る前のお腹にやさしい……こういう気づかいができるのがマリアさんのいいところなんだけど……。
「それで?」
「え?」
「何か話があるんでしょ?……亜人のことかな?」
マリアさんがこんな時間に訪ねてくるなんて、よほどのことがない限りあり得ない。
「………カナミ様は何でもご存じなんですね。」
「そんなことないよ。私はわからないことだらけだよ?」
嘘じゃない。異世界から来た私にとって、この世界のことは何から何まで未知の世界なのだ。当然、この世界の人の考え方についても、根本にある常識が違うのだから理解できないことが多い。
現に、リィズやマイナちゃん相手でも、理解しがたい考え方の違いというのが多々あるのだ。
ただ、今回に関してはマリアさんがわかりやすすぎた、ただそれだけのこと。
「やっぱり、マリアさんは、亜人を雇うのに反対?」
「亜人というより……獣人族を……ですね。奴隷であっても、きつく当たらずにいられる自信がありませんし、まして対等ともなれば……。」
話を聞くと、マリアさんは規模は小さいが子爵家の令嬢だったという。
ある日、王都に向かう途中、獣人族に襲われ、目の前で両親が殺された。その凶刃がマリアに振るわれようとしたとき、近くを通りがかった伯爵家の護衛によって、獣人たちは倒され、生き残った者は捕らえられたという。
その時の伯爵家というのが、アイゼンブルグ伯爵であり、その関係で、今日までイーリス付きの側女として仕えてきたという。
「ですから、いくら違うといわれても、獣人を目にすると……、」
「なるほどねぇ。でも、リィズはどうなの?普通に接しているように見えたけど?」
そう言いながらも、よくよく思い返してみれば、私やマイナほどリィズに接してるところを見たことはないし、会話をしているところを見かけたこともなかったことに気づく。
「リィズ……様は……一応、命の恩人でありますし、カナミ様の奴隷と思っていましたから……。」
「なるほどねぇ。」
この世界では、奴隷は主人の「所有物」という価値観だ。
いくら気に入らなくても、他人の持ち物を、故意に傷つけることは許されない。
だから、私の持ち物であるリィズに対しても、必要最低限の礼儀をもって接することが出来た。
しかし、これが自分の主人の所有物であり、その所有物の管理を任される、となれば話が別である。
イーリスに害をなすかもしれない、という思い込みで、獣人に対してどのような行動に出てしまうか、自分でもわからないという。
それでも、相手が奴隷であれば、まだ堪えることが出来る。奴隷が主人に対して牙を剥くことは許されないからだ。
しかし、奴隷でもなく対等な関係ともなれば……そんな相手に平静でいられる自信はないという。
「うーん……難しい問題だよね。私から色々助言はできるけど……所詮は他人の言葉だからね。最後はマリアさん次第。私から言えるのは、イーリスにも話をして、実際に獣人たちと接してみて……それでもダメなら、マリアさんだけダイチに帰るか、何か方法を考える……ってことぐらいかな?どちらにしても、このことに関しては、少なくとも、イーリスを交えて話をしないとね。」
「そうですね……明日にでもお時間を作って……。その時にリィズさんとマイナさんにも同席していただきたいと思います。」
「いいの?」
「えぇ、どういう形に収まるかわかりませんが、この先長くお付き合いしたいと考えていますから……、」
そう言ってにっこりとほほ笑むマリアさん。
「はぁ……そういう風に考えられて笑えるマリアさんなら、何も問題ないと思うけどねぇ?」
私はそう言いながら、もう一杯ミルクティーを頂くのだった。
マリアさん関連のお話で少し長くなりました。
……が、実際一話の長さってどれくらいが妥当なんでしょう?
なろうで投稿を始めたころは、一話の文字数は1万文字前後にしていました。
だけど、これが結構大変で、さらに言えば、他の作品の一話がもっと短いことを知り、次の連載からは5千~6千文字程度に変更しました。
それからさらに時がたち、どこかで「一話の文字数は3千文字ぐらいがいい」みたいなことを目にし、それ化r3千文字を目安にしています。
……まぁ、ノクターンなんかでは、それにプラスしてR18 表現が4千から6千文字ぐらいはいるんですけど(><)
まぁ、そんなことを言いながら、結局はなんも考えず書きたいように書くんですけどねwww
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