RPGじゃなくて箱庭ゲームだった!?
「それで、試練て言うのは一体どういうものなの?」
私はイーリスに訊ねる。
協力するとは言ったものの、内容がわからなければどうしようもない。
「そうですねぇ、カナミはどこの土地が好き?嫁の希望を叶えるよぉ。」
イーリスがそう言って書類を渡してくる。
その書類には、各地の特徴が簡単にまとめられていた。
「えっと、どういう事かな?後、嫁じゃないって言ってるでしょ?」
「うぅ……カナミは優しさが足りなぁい。もっと甘やかせぇ……!!」
イーリスがじゃれついてくる……が、話が進まないので、マイナちゃんに放り投げ、マリアさんに説明を求める。
「えー、試練の内容なのですが……。」
マリアさんが少し困ったような表情で、視線を逸らしながら説明を始める。
……結論から言うと、騙された……いや、嵌められたというべきかぁ。
一応騙してはいないもんねぇ……説明不足なだけで。
イーリスの受ける試練というのは「ある地域を治め、一定期間の間に結果を出すこと」だった。
具体的に言えば、任意の場所を選んで、3年~5年以内に、その地域を発展させるというもの。
つまり、試練に協力するってことは、その期間ずっとイーリスに付き合うってことになるのよ。
……流石にこれは読めなかったよねぇ。まさか、こんな罠が隠されていようとは……。
「なお、期間中、カナミ様には『代行補佐官』の地位についてもらい、リィズ様には『親衛隊隊長』として、イーリス様とカナミさまの護衛の任に、そしてマイナ様には『料理長補佐』として調理に携わってもらいつつ、イーリス様、カナミ様専属のメイドとして働いてもらう事となります。」
そう言うマリアさんと、報酬や待遇など、詳細を詰めていく。
一度やると決めたのだから、ここに居たってグダグダ言うのは建設的じゃない。
それより、今の状況を前向きにとらえる方がいいよね。
それに、これはチャンスかも……。
と私は考える。
以前、女神マァルが、ボソッと漏らしたあの言葉……。
アレはセンパイがこの世界にいるって事を示唆してるのでは?
私だって異世界召喚なんてものでここに居るんだから、センパイがいてもおかしくない……よね?
本当は今すぐセンパイを探しに行きたい……だけど、あてもなくやみくもに探すのは無駄な行為だという事もわかっている。
だったら、センパイの方から来てもらえばいい。
現代日本人には馴染が深いものを流通させ、「私はここに居るよ」と喧伝すればいい。
今回のイーリスの試練は、そういう意味では、非常にありがたいとも思える。
それに、私の為に行う事は、この世界にとっては未知なる事が多くなる……つまり、イーリスの望みにも沿う事になる。
「Win-Winだからいいよね?」
そう呟く私をイーリスがジィーッと見ている。
「えっと……何かな?」
「浮気者……。」
「えぇぇ……。」
「他のオンナの事考えてる。」
「いや、センパイは男だよ?」
「キィィッ!お姉様を男になんか渡すものですかぁっ!決めましたぁっ!決めましたよっ!その男を必ず見つけ出して、目の前でカナミの唇を奪ってやりますっ!惨めな負け犬の姿をさらしてあげますわっ!」
「あ、ウン、ありがとね。」
なし崩しに、センパイの捜索を伯爵家がしてくれることになったみたい。
まぁ、手は多い方がいいからね。
「それより、イーリスが担当する場所ってどんなところなの?」
「そうですっ、先ずはそこから相談にのってもらいたいのですよぉ。」
そう言って、イーリスはマリアさんが抱えていた書類の束を机の上に並べる。
「私が選べる中で、この3つまでは絞り込んだんですけどぉ……。」
イーリスが選んだのは「オディッセア」「ペルセイア」「イーリシア」の三つの地方。
それぞれに特徴があり、いい面悪い面もあるため、選びきれないとの事。
「んー、じゃぁ、先ずイーリスちゃんから見てそれぞれの特徴とメリットデメリットを教えて?」
ここで私が選ぶのは簡単だ。だけど、これはイーリスの試練だから、最終的にはイーリスの決断が必要になる。
私はその決断の後押しをしてあげるだけ……。そう考えながらイーリスの言葉に耳を傾ける。
まず、イーリスが上げたのはペルセイア。
大きな街と街の間に位置し、街道も整備されていて、人の行き来もある安定した商業都市。
安定した商業都市。
「すでにそれなりの発展を遂げていますからぁ、統治するには楽なんですよぉ。余程の失策をしない限りは、失敗はないと思うんですけどぉ……。」
イーリスの歯切れが悪い。
「気になる事でもあるの?」
「はいぃ……安定してる分、これ以上の発展が見込めないというか……これ以上どうすればいいか全く思いつかないんですよぉ。」
……なるほど。ちゃんと気が付いているみたいね。
資料によれば、ペルセイアは安定した待ちであり、十分程度に発展を遂げている中堅都市だ。
初心者が統治の基本を学ぶには良案件ではあるが、「発展」という面において言えば、非常に難しいといえる。
すでに発展を遂げている分、既得権益など、すでにシステムが出来上がっており、ここから新たな試みをなそうとすれば、それらが邪魔になる事が多いからだ。
そう言う所まで気づかずに、安易にここを選ぶと大変な目に合う。……中々考えられてるね。
「成程ねぇ。じゃぁ、コッチは?」
「オデッセアですねぇ。ここは冒険者さんたちに人気なんですよぉ。」
オデッセアは 周りを樹海に囲まれた厳しい土地。広さは三つの内最大なんだけど未開地が多く、なにより魔獣の害が酷い。
それだけに、街は堅牢な要塞都市であり、また、魔獣素材が安定して狩れることから、大きめの冒険者ギルドがあり、冒険者たちが数多く訪れるのが特徴……なんだけどねぇ。
冒険者って、ガラの悪い人たちも多いから、治安がいいとは言えないのよ。
それでも、魔獣素材が多く取れること、ダンジョンが存在すること、そして未開地が多く残っている事などから、やりようによっては大きく発展させることが出来そう……。一番可能性のある場所よね。
ただ……。
「多分、私が行っても舐められるだけですよねぇ。」
イーリスが少し肩を落とす。
そう、力がすべてと思っている冒険者たちをまとめ上げるには、それなりに力を示さなければならない。
ただ伯爵の娘というだけのイーリスには、荷が重いと思う……。
「じゃぁ、イーリス的にはここ?」
私は最後に残った、イーリシアの資料を手に取る。
「そうなんですけど……何もないんですぅ。」
領地の最東端にあるイーリシア。街道からも外れており、二方が海に面していて、一方は森に囲まれているという、領地の中のどん詰まり。
イーリシアの街以外には寂れた村が数か所あるのみで、特産品と言えるものもない。
街そのものに魅力がないため、若者の街離れも酷く過疎化が進んでいる典型的な田舎町。
唯一幸いなのは、まだ開拓する土地が、十分に余っているという点ぐらい?
ただそれも、人手不足の現状では、あまり慰めにならない。
多分、余程しっかりとしたプランがなければ、三か所の中で一番難しい場所であることは間違いない。
「まぁ、悩むのもわかるけどねぇ。ペルセイアはナシでいいかな?イーリシアがいいと思ったのはなぜ?」
私はイーリスに訊ねる。
「えっとですねぇ。名前が私に似てるから親近感がわいたって言うのもあるのですが……ここには、他にない「海」があるのですよ。」
イーリスは少しだけ自信なさげに続ける。
「海があれば、お塩が採れるので……。」
「この国の調味料事情は?」
「あまりよくないですよぉ。お塩も、大半はお隣の帝国からの輸入ですぅ。だから、イーリシアでお塩が取れれば勝てると思うのですよぉ。」
……少し、イーリスちゃんを見下していたかもしれない。
まさか、これだけの判断が出来るなんてね……。反省しなきゃね。
私はイーリスを抱きしめ、頭をなでなでする。
「ふぇっ、な、なんですかぁ?」
「うん、イーリスは頑張ってるねぇ、って思ったから甘やかしてみた。」
「くふっ……そ、そうです、私は頑張ってますからもっと甘やかしてぇ……ふにゃぁ……。」
「カナミ様。お話が進まないので、その辺で……。」
「あ、はい。」
マリアさんに止められ、私はイーリスを解放する。
「それで……どうですかぁ?」
イーリスが少し不安気に尋ねてくる。
「うん、イーリシアでいいと思うよ。全面的にバックアップしてあげるから自信もって。」
私がそう宣言すると、イーリスは破顔して飛びついてくる。
結局その日もお泊りが決まるのだった。
と言う事で、イーリスちゃんの計画通りに、試練に付き合う事になったカナミです……が、勇者業はいいのですかねぇ?
プロット的には、結構早い段階で魔王と邂逅するはずで、その結果として、カナミが色々と悩む……はずだったんですが、完全に破綻してますねぇ。
お陰で魔王様の暗躍を描くことになりそうです……。><
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