これがホントの「ネズミーランド」???
「リィズっ!下がってっ!」
私は、リィズがバク転をしながら、コッチに戻ってくるのを確認すると、手にした火焔瓶を前方に投げつける。
ガシャッ!
地面に落ち、瓶が割れると、流れ出したオイルに着火し、辺り一面を炎の海へと帰る。
「逃げるわよっ!」
私はマイナの手を取り駆けだす。
リィズは後からついてくる。背後の確認をしてくれるようだ。
迷路のような地下水路を駆け抜けて、少し広い場所で止まる。
「はぁはぁはぁ……。とりあえずここで休憩にしましょ?」
私は広間のスペース四隅に結界石を置き魔力を流す。
これで、この中は一応安全。
一応と言うのは、結界石の限界魔力以上の魔物が来たら、抑えきれないからだ。
とはいうものの、いくら安物とはいえ、バーサクベア相当の魔物じゃない限り大丈夫。
ここに出るのは基本大ネズミばかりなので、先ず問題はない……はず。
「はぁはぁはぁ……このまま……帰る?」
リィズが息を整えながら聞いてくる。
「そうしたいんだけどねぇ……『ブック』」
私は女神の手帳を開きページをめくる。
そして該当のページをリィズとマイナに見せる。
そこには、この地下水路のマップが描かれていた。
と言っても、大半が黒く塗りつぶされており、私達が通った場所だけがハッキリと描かれている。
「私たちが入ってきたのがここで、いまの位置がここ……。戻るためには、さっきの場所を通らなきゃいけないわけだけど……。」
さっきの場所へ戻るという事はあの謎の巨大ネズミを相対するという事になる。
「クレージー・ベアラット」
大ネズミが突然変異し、巨大化した魔獣。
巨体の癖に素早さは損なわれておらず、寮力が上がり、タフなのが特徴。
攻撃手段は牙と爪。毒性があるため、攻撃を受けると毒を喰らう。
毒・麻痺・病気のブレスを吐くこともある。
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女神の手帳で調べるとこんな感じだった。
数多くの取り巻きがいる中でベアラットと対峙するのは、出来れば避けたいところ。
私がそう言うと、リィズも頷く。
「私が足を引っ張ってるから……。」
マイナが少し寂しげにつぶやくがそんな事はない。
「マイナ、これは適材適所ってものよ。マイナが治療してくれるからリィズも思い切って戦えるの。決して足手まといじゃないからね。」
私は、USO時代、いつも前線に飛び出して言ってた時の事を思い出しながら、マイナを諭す。
うん……今から思えば、ヒーラーさんにかなり負担かけてたよなぁ。でもヒーラーさんがいたから、あそこ迄思いっきりやれたわけだし。
そう、ゲームでもリアルでも一緒。それぞれに役割があるんだから、それを一生懸命やればいい。誰が偉くて、誰が足手まといだとか、論ずる方がおかしい。
私はそう思うのだけど、リィズやマイナちゃんの話を聞くと、この世界では違うらしい。
とにかく火力がすべて。
敵を打倒せる力……剣技でも、魔法でも、とにかく相手を倒す力が求められる。
回復と言うのは戦闘が終わってからするもので、戦闘中は、回復する暇があったら敵を倒せ!という考え方なんだって。
だから、治癒魔法の使い手は、魔法とは別に、メイスなどの攻撃手段を持つという。
……そりゃぁ、回復魔法の使い手が少ない訳だわ。
私はガンスさんに聞いた話を思い出す。
ガンスさんのパーティも、治癒魔法が使える人がいなかった。
理由を聞いたら、治癒魔法が使える人は、冒険者になるより神殿に行くから、と言ってたからね。
今の話で納得したわ。
そう言う扱いを受けるなら、危険を冒して冒険者になるより、安全な教会でお布施を貰って治癒した方がいいに決まってるよ。
「うん、他所はそうかもしれないけど、ウチは違うからね。マイナが落ち着いて回復できるように私たちが護るよ。その代わり、しっかりと治してね。」
私がそう言うと、マイナちゃんもようやく笑顔を見せてくれる。
「とりあえず、こっちの、まだ行ってないところに行こう。」
私の手帳を見て、考え込んでいたリィズが言う。
リィズも、今の状況で、ベアラットと戦うのは避けた方がいいと思ったようだ。
まぁ、アレが1匹しかいないとは限らないけどね。これ言うとフラグが立ちそうだから言わないけど。
リィズの提案を採用した私達は、たっぷり休息をとってから未踏地へと歩を進めたのでした。
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「いーい?開けるよ。」
そう言いながら扉に手をかける。
この地下水路は、街中の地下に張り巡っているので、点検口など街の各所に、出入りできる場所がある……はずなのだが、なぜか見つからない。
代わりに、目の前にあるような、如何にも訳アリです、といった扉に出くわす。
ぎぎぃぃ……。
きしんだ音を立てて扉が開く。
大広間だ。
床に水路は入っておらず、ここだけがどこか隔離されたようなミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
「ん、お客人かえ?」
どこからともなく声が響く。
と同時に広間の中心がぼぅッと照らし出される。
そこにあるのは魔法陣……その中央から声が聞こえてくる。
「お客人は中々の魔力の持主のようじゃな?どれ、この魔法陣の横に宝珠があるじゃろ?そこにチョイッと魔力を注いでくれんかね?」
「魔力を注いだらどうなるの?」
一応そう訊ねてみる……まぁ、大体の予想はつくけどね。
「そうじゃな、儂の封印が解けるだけじゃ。」
「そう、じゃぁ、さようなら。」
「待て待て待てぃっ!!」
私が扉を閉めようとすると、声の主が慌てたように引き止める。
「ワシは高貴なる悪魔公爵であるぞ。封印を解いてくれるなら、世界の半分を与えよう。どうじゃ?」
「あ、そう言うの間に合ってますので。」
私はそう言って、リィズとマイナを先に外に出し、ぱたんと扉を閉める。
「待つのじゃぁ……不老長寿に、若返り、巨万の富も……」
扉を閉めるとき、なにか喚いていたようだけど気にしないことにする。
「はぁ……ここも外れね……少し休憩しましょうか?」
私は、少し広くなった場所を見つけると休息を宣言する。
「はぁ……この街は何なのよぉ。」
私は座ると同時に顔を膝に埋める。
「えっと、「瓶詰の邪妖精」に「棺桶から出られなくなったエルダーリッチ」、それから「体半分が石の中に埋まっている、吸血鬼の真祖」だっけ?」
「それに今の「魔法陣に封じられた悪魔公爵」……いったい何がどれだけ封印されているってのっ!」
「ねぇ、おねぇちゃん……これって……。」
マイナがマッピングしている用紙を見せてくる。
「あー、少なくとも後一つか二つは封印されてるねぇ。」
「どゆこと?」
私の呟きに、リィズが何事かと聞いてくる。
「あ、ウン、これ見て。」
私はリィズに、マイナがマッピングしていた用紙を見せる。
「ほら、ここが邪妖精で、ここがリッチでしょ?」
「うんうん。」
「で、ここにヴァンパイアがいて、さっきのデーモンがここ。で、まだ行っていない区域を線でつなぐと……。」
「なるほど……ペンタグラムかぁ。」
「もしくはこうすればヘキサグラム……どちらも、儀式用魔法陣では有名よね。」
「お姉ちゃん……偶然ってことは……ごめんなさい、何でもないです。」
マイナは言いかけて止める。まぁ、気持ちはわかるんだけどね。
「で、どうするの?行ってみる?」
「まさか。」
私はリィズに、行くわけないでしょ、と答える。
なんでわざわざ面倒ごとに飛び込んでいかなきゃならないのよ?
女神様だって「なにもするな」って言ってるしね。
私がそう言うと、マイナが少しだけ考えこみ、そして口を開く。
「ねぇ、お姉ちゃん。あの人たちの封印を解いて協力してもらうのはダメなの?」
「うーん、素直に協力すると思う?」
「え、でも、例えば妖精さんは「3つ御願いを叶えてくれる」って言ってたよね?だから「ここから出たい」ってお願いすれば……。」
「うーん、マイナは素直だよねぇ。」
ずっとそのままでいてね、とギュッと抱きしめる。
しばらくマイナちゃんの抱き心地を堪能してから、そっと離して、マイナちゃんに言い聞かせる。
「あのね、邪妖精が素直にお願いなんか聞くわけないの。さっき言った「ここから出たい」てお願いしたら、殺されるかも知れないよ?」
「何で?どうしてそうなるの?」
マイナが信じられないという表情を見せる。
「あのね、私達を殺して、細切れにして水路に流せば、ここから出れるでしょ?」
「そんなぁ……。じゃぁ、生きてここから出たいってお願いすれば……。」
「その場合は、なぜか奴隷商か誰かが現れて、捕まるでしょうね。それで生きて出れるけど、奴隷落ち、ってところかな?で、奴隷は嫌だ、解放してなんてお願いすれば殺される……死んじゃったら解放されるからね。」
「何で……どうしてそうなるの?妖精さんは私達に死んでほしいの?」
マイナちゃんが泣きそうな顔で訴えてくる。
流石に脅しすぎたかな?でも、まぁ、間違ってないと思うんだよねぇ。
「あのね、邪妖精たちは契約に縛られているの。「封印を解いたもの御願いを叶えよ」って。それは分かる?」
「うん。」
「でね、封印が説かれても契約で縛られている以上、御願いを叶えないと自由になれないわけ。だから手っ取り早く御願いをかなえようとするんだけど……。」
「けど?」
「マイナちゃん、3つ御願いを叶えるって言われて、すぐに思い浮かぶ?」
「……浮かばない。」
「でしょ?お願いをいつまでもいってくれないと、ずっと縛られたままになるから、一番手っ取り早いのは封印を解いた相手が死ぬことなの。御願いを叶える相手がいなくなれば無効になるでしょ?」
「そっか……。なんか悲しいね?」
「そだね。そう言う事だから、「御願いをかなえてあげる」って言われても、ホイホイとのっちゃダメだゾ。」
私がそう言うと、マイナちゃんは、はーいと少し元気を取り戻した声で返事をする。
ウンウン、このまま素直に育ってね。
「と言う事で、少し休んだら、ベアラット退治よ。」
私の言葉に、リィズが、だよねぇ、と頷く。
まぁ、他に方法はないからね。
リィズを膝枕しながら、私は、対ベアーラット戦に向けて、アイテムの点検を始めるのだった。
街の地下は危険がいっぱい……という話です。
すでにプロットが崩壊しつつあり、執筆ペースが落ちて……というよりネタがないです。
週末に1週間分書き溜めるというスタイルなのですが、少し厳しぃ……。
そして、脳内はエロ方面に……。
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