冒険者ギルドと言えば……テンプレは大事なのよっ!!
カラーンカラーン……
どこか懐かしいドアベルの音が響く。
中に足を踏み入れると、複数の視線が突き刺さる。
ウンウン、新人の品定めってやつだね。
で、冒険者登録をするときに、いかにもって冒険者が絡んでくるんだよ。
それをあっさりとぶちのめすまでがテンプレ。
このイベントは外せないでしょ?
私はそう思いながら受付嬢の所に行く。
「いらっしゃませ……あら?初めてですか?」
「……あっ、はいっ。冒険者登録を……。」
私はその受付嬢の一点に目を奪われていたために反応が送れた。
……おっきぃ……大きすぎるよぉ……Fカップ?いやGカップかな?本当にこんな大きい人いるんだ。
……ってか、受付の人、皆おっきい……推定平均Eカップ?
ギルドの受付嬢は巨乳ッ!って条件があるのかな?
「はい、これがギルド証ですよ。無くさないようにね。」
私がお姉さん方の揺れる乳に目を奪われている間に手続きは終了したようだった。
私とリィズ、マイナの三人分の真っ白なギルド証。
このギルド証の色がランクを現すんだって。
真っ白なのは最下級のIランク。
いわば仮免の状態で、定められた期間内に定められた内容の定められた数の依頼をこなすことで、薄緑色のHランクへと昇級する。
Hランクになって初めて冒険者として認められるのだけど、薄緑のギルド証は初心者マーク。
ランクを上げて黄色のGランクを経て、橙色のFランクになって初めて、他の冒険者から「新人」として認めてもらえる。
その上のD・Eランクは中級冒険者、B・Cランクになれば上級冒険者と認められ、指名依頼も増えてくる。
尚、銀色のAランク冒険者は数えるほどしかいなく、世間では英雄扱いであり、その上の、金色……Sランク冒険者は、もはや伝説の存在となっているのが、この世界の冒険者ランクなんだって。
まぁ、そんな上の事は置いといて、目下、私達が気を付けなければならないのは、Hランクにあがること。
さだめられた依頼をこなせばいいといっても、逆に言えば、依頼をこなせなければ、資格なしとしてギルドから登録が抹消されちゃうのよ。
Hランクへの条件は、一ヶ月以内に3つの依頼を達成すること。
なんだけど……。
「カナミ、どうかした?」
「お姉ちゃん?」
リィズとマイナが、心配そうに声をかけてくる。
「あ、ううん、何でもないの。」
私は二人にそう答えるけど……。
おかしいなぁ……テンプレ通りなら、そろそろ絡んでくるはずなんだけど……。
仕方がないので、とりあえず依頼ボードの方へと移動する。
依頼は沢山あるけど、Iランク冒険者が受けれるものなどほぼ決まっているに等しい。
その中からどれから手を付けようかと迷っていると……
「おい、嬢ちゃん達。」
いかにも頭が悪いですっ!というようなイカレタ風貌の男が声をかけてくる。
キタァーーーーーーー!!テンプレですよぉっ!
「何ですか?」
私は笑いだしそうになるのを堪えながら、努めて平然と受け答えをする。
さて、どうやってあしらうか……ライトニングで痺れさせるのが、一番手っ取り早くて簡単だけど、折角だから派手に行きたいよねぇ。
かといって、サンダーストームを放つには被害が大きくなりそうだし……。
「嬢ちゃん達、冒険者登録したんだって?」
「それが何か?」
「そっか、じゃぁ、最初はこのエストを受けるといいぞ?」
男はそう言って、ある依頼書を指さす。
「へっ?」
「嬢ちゃん達、この街も初めてなんだろ?このクエストをこなせば自然と街の主要施設を覚えることが出来る様になっているからな。それから、道具をそろえるなら、こっちの店よりこっちの店に行った方がいい。」
男は街の地図を取り出し、色々お得情報を教えてくれる。
「へ……???」
あれ?この人親切?……あれ?テンプレは?
新人冒険者に「なめんじゃねぇぞゴルァあぁ!」ってのは?
「あのよぉ、嬢ちゃん。アンタがどんなイメージを持ってるか知らねぇけど、そんなことするバカは冒険者やってられないぜ?」
厳つい男の横にいた、モヒカン刈りのオッサンが苦笑しながら言う。
あれ?今私口に出してた?
私は慌ててリィズとマイナを見ると、二人は苦笑しながらウンウンと頷いていた。
「ごめんなさいね。この子時々おかしくなるの。」
リィズがそう言って厳つい男に頭を下げる。
「いいっていいって。俺はジョナサン。あっちはゲイルだ。」
厳つい男がそう言って自己紹介をする。
見た目、パンクなのがジョナサンでモヒカンがゲイルさんね。
その後、なぜか意気投合したらしいリィズとジョナサンの間で、クエストについての情報交換??が行われる。
マイナはいつの間にか受付のお姉さま方に甘やかされている。
仕方がないので私はゲイルさんに話しかける。
「あのぉ、さっきの話なんですけどぉ……。」
「さっきの?……あぁ、バカの話か?」
「そう、それ。本当に新人冒険者に絡んでくる人いないんですか?」
「いねぇな。まぁ、たまに飲みすぎて絡む奴はいるけど、大概は、近くのモノが止めるしな。」
「でも、「俺の方がつえぇ」「俺の方が偉いっ!」って勘違いするバカは一定数いると思ってたんだけど?」
「だから、そんなバカじゃ冒険者はやってられねぇって。」
「そうなの?」
「あぁ。いいか嬢ちゃん。絡むってことは自分より格下に見てるわけだろ?」
「そうですねぇ。」
「で、だ、自分と同等ランク相手なら、そう言うトラブルはしょっちゅう起こる。まぁ、日常茶飯事ってやつだな。稀に自分より格上に突っかかるバカもいるが、大抵の場合、引くに引けなくなったって場合がほとんどだからな、適当な落としどころを見つけて収まるもんだ。」
「うんうん」
「だけど、嬢ちゃんのいう、「新人」に絡むのは、考え無しのただのバカだ。まず、新人だから自分より格下だ、よわっちぃんだ……そう思うのは別に悪いことではない。実際その通りの場合が多いからな。ただ、そうとわかっていて絡むのは、自分は新人相手にしか威張れないと、喧伝するようなもんだからな。普通に頭が回る奴ならまずしない。それより、ジョナサンのように恩を売って、将来、いつかどこかで借りを返してもらうって考える方がはるかに賢いだろ?」
「まぁ、そうよねぇ。」
「それに、新人だからと言って、必ずしも弱いとは限らない。ギフト持ちなら相性もあるからなおさらだな。そう言う、相手の実力を測れない奴は、長生きできねぇ。いつの間にかいなくなる。冒険者っていうのは、自分の力がすべてだ。自分の能力を知り尽くして、出来ることできないことを見極め、その中で出来る事をこなしていく。誰からの援護も助けもない実力だけの世界だからな、むやみやたらと敵を作るのは自分の首を絞めてるのと大差ない訳だ。どっちかと言えば、ジョナサンのようにコミュニケーションを取って、「助けてやるから、今度助けろ」っていう方が生存戦略としては正しいだろ?」
「なるほどぉ……。」
「いやいや、ジョナサンのやり方じゃぁ、ダメだね。」
私とゲイルさんの間に割り込んでくる冒険者がいた。
「冒険者なら、やっぱり自分の強さを見せつけないとな。背中を預けるなら、強さは必要だろ?それに新人っていうのは冒険者の強さに憧れるもんだぜ。」
「いや、ちょっと待てよ。強いっていっても、脳筋じゃどうしようもない。時代はクレーバーだよ。綿密に計画をたて、その場の正確な判断で指揮をする。そんな賢いリーダーの下、一糸乱れぬ行動をとることが……。」
「イヤイヤイヤ。ここは大火力。火力はロマンだよ……。」
……あぁ……いつの間にか、近くにいた冒険者たちが口々に持論を交わし合っている。
中には胸ぐらをつかんで喚いている人たちも……。
「まぁ、こんなもんさ。」
ゲイルさんは周りの騒ぎを苦笑いで見ながらそう呟く。
要は新人に絡むのはバカ。そしてここにはそう言うバカは居ない……そう言う事かぁ。
私は出番を亡くしたスラナイフを袋にしまう。
本当は少し期待していた。
彼方センパイと、一緒に遊んでいたネトゲのUSOでも、最初にギルドに行ったときに、テンプレ通りの騒ぎはイベントとして発生していた。
それを、色々なパターンで遊びつくした私にとっては、折角のお遊びを取り上げられた気分だ。
あーあぁ……せっかくのテンプレがぁ……。
女神さま、作りこみが甘いですよぉ?
お約束は、起こさないのがこの世界での嗜み……だと思いたい。
しかし、カナミは、自分が勇者だってこと忘れてませんかね?
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




