実妹に妹系ギャルゲーをすすめる兄って……どうなの?
「あ、あのっ……。是非街までご一緒にっ……。」
後ずさろうとした私の腕を、イーリスちゃんがガシッと捕まえる。
「えっ、アッ……その……私達急いでるから……ねっ?」
「カナミ様たちは、ダイチの街に向かわれるのですよね?」
「あ、はい……。」
「お急ぎなんですよね?」
「ソウデスネ……。」
「だったら、このまま馬車に乗っていった方が……。」
「あ、いや、その……。」
……うぅ、うまい言い訳が思いつかない……。
私は助けを求める様にリィズを見る。
プイ……
うぅ、ナチュラルに視線を躱されたよ……。
マイナちゃんは……。
あ、今視線を逸らしたよ。……助けはないのかぁ……。
「カナミ様……うぅん、お姉さま……ダメ……ですか?」
潤んだ瞳で見上げてくるイーリスちゃん。
これは不味い……。
向うの世界にいた時……まだ、センパイがいた時……
私はちょくちょくセンパイの部屋に遊びに行っていた。
適度に散らかっている先輩の部屋には、それなりの数のゲームがあり、センパイからよくすすめられたものだ。
そのうちの一つに……ギャルゲーがあった。
女子高生にギャルゲをすすめるセンパイって……。
私は少し残念な人を見る目でセンパイを見つめたもんだ。
ハッキリ言おう!彼方センパイはシスコンだ。
鈴音もブラコンだから二人は相思相愛……じゃなくて。何が言いたいかというと、センパイが薦めてくるギャルケーはほぼすべて「妹モノ」だという事。
さらにいえば、R18のエロゲ―まで薦めてきた……ぉい、これセクハラだぞ?
……まぁ、センパイだからゆるすけど。それに、おすすめだけあって、確かに面白かったし……。
後で知った事だけど、そのエロゲ、センパイは鈴音にも勧めたのだとか。
彼方センパイはきっとアホに違いない。
時々見せるポンコツぶりが、また愛しく思えてくるから……しゃぁないかぁ。
えっと、なにが言いたいかというと、ポンコツな彼方センパイのおかげで、私は学んだの。
「妹は可愛い!」
そして
「可愛いは正義!」
という事を。
目の前で、私の袖を摘まみ、泣き出しそうな顔で、それでも必死に笑顔を作ろうとしながら……「ダメ……ですか?」と呟くイーリスちゃんを、誰が突き放せるというのだろうか?
「お姉ちゃんに任せなさいっ!」
そう言って私はイーリスちゃんをギュッと抱きしめる。
イーリスちゃんは私の胸に顔を埋め、ギュッとしがみ付いてくる。
私はその髪を優しく撫でる……イーリスちゃんは顔を埋めたまま微動だにしなかった。
……だから気が付かなかった。イーリスちゃんがニヤリと笑い、「計算通り」と呟いたことに……。
◇
「はぁ……面倒は避けるって言ってなかった?」
リィズが呆れた様に言う。
今は、私達が一緒に行くことになり、イーリスと同じ馬車にのれるように、積み荷を積み替えている途中だ。
イ―リスはその確認の為に場を離れている。その隙に、とリィズが話しかけてきたのだ。
「仕方がないじゃない……可愛いんだもん……。」
「ぶぅ……お姉ちゃんは、私とあの子、どっちが可愛いと思ってますかぁ。あの子腹黒だよっつ!」
腹黒って……。マイナ、一応、あれでもお貴族様の子女だからね。
「マイナも可愛いよ。「みんな可愛くて、みんないい」だよ。」
そう、可愛さに貴賤はない。可愛いのは正義なのだ。
勿論、この「可愛い」は容姿の事だけではない。その中身も含めての話。
イーリスちゃんが腹黒?そんな事はない、あれは「お茶目」って言うんだよ?
私はそんな事をマイナちゃんに話して聞かせる。
心なしかマイナがドン引きしてる気がした……気のせいだよね?
ガタゴトガタゴト……
馬車が揺れる……揺れる……揺れる……。
「お姉さま……大丈夫ですか?」
「だいじょばない……やっぱり一緒に行くのやめるぅ……。」
うっぷっ……きぼぢわるぅ……。
私の体調は芳しく無く……と言うか、ぶっちゃけただの馬車酔いなんだけどね……私の体調を慮ってか、一行は本日何度目かの休憩に入る。
馬車を降りたところで、リィズが警戒態勢に入った。
と同時に茂みから、数人の男たちが現れる。
「グへへっ、馬車を止めてくれて助かったぜぇ。積み荷と女を置いていきなぁ。」
野盗の集団だった。続けて襲われるなんて、この馬車……というか、イーリスもつくづく運が悪いわね。
「いえ、そんなことないですわ。むしろ運がいいのでは?」
私の呟きを拾ったイーリスがそう応える。野盗が襲ってこなければ、私と出会う事はなかったから、と。
イーリスの言葉に私も頷く
そうだよね……こいつら(野盗)が出て来たから、今私が苦しんでいるんだよね。
うん、全部こいつら(野盗)が悪いっ!
「お前らのせいでぇっ!!!!!」
私はスラナイフを取り出し、ストックしておいたサンダーストームを解き放つ。
今の私のとっておき……バーサクベアーのスキルを捕食しておいたものだ。
辺り一面を巻き込んで吹き荒れる雷撃の嵐。数秒後には立っている野盗は一人もいなかった。
……ふぅ、少しすっきりしたかな?
野盗たちはガンスさん達に任せて、馬車で少し休むことに……。
……。
………。
「……ねぇ?」
「何でしょう、お姉さま?」
「……なんで膝枕されてるのかな?」
「だって……すきでしょ?こういうの。」
……何故分かる?……イーリスちゃん、恐ろしい子。
まぁね、鈴音に膝枕してもらうのが好きだったけど……。流石に12歳の子に膝枕してもらうのは、何かが違う……。
「細かいことはいいんですよぉ。……うふ……こうしてお姉さまの好感度を稼いでいき、ゆくゆくは私の魅力でメロメロに……」
イーリスちゃんが嬉しそうな笑顔でそういう……ってか、後半もバッチリ聞こえてるよ?
うーん、イーリスちゃんはこのまま成長すれば立派な小悪魔になりそう……センパイだったら「ソレがイイ!」って言いそうだよぉ……。
……冷静になって思い返すと、センパイって結構ダメ人間だよねぇ……なんで好きになったんだろ?
そんな事を考えていると、馬車のドアが開いてガンスさんが声をかけてくる。
「イーリス様、ちょっとご相談が……。」
「このまま聞きます。何か?」
「いえ、野盗たちの事なんですがね……。」
ガンスさんの話によると、この近くにそこそこの規模のアジトがあるらしく、そこへの襲撃の許可を頂きたいとのこと。
そっかぁ、アジトが近いから、この辺りでの襲撃が多いんだね。
今後の街道の安全の為にも、今ここで潰しておきたいとガンスさんは言う。けど……。
まぁ、アレだね。本音は野盗たちがため込んだお宝。
この世界では、見つけたものは発見者のモノ。野盗のアジトで見つけたお宝は、そのアジトを潰した人達に権利があるというもの。
昔の偉い人も言ってたもんね「野盗はお財布、アジトはATM」って。
「いいんじゃない?あ、ガンスさんリィズも連れて行ってね」
30~50人規模のアジトなら、リィズがいればまず余裕で潰せると思う。
ガンスさんも自分のパーティだけで、アジトを潰せる、と判断していたのなら、それほど大きな規模のアジトじゃないだろう。だったらリィズも行けば充分保険になると思う。
「こっちは私とマイナがいるから大丈夫。」
少し不安そうな顔をするガンスさんにそう返す。
ガンスさんにしてみれば、リィズがイーリスのそばに居れば安心と考えていたのだろう。
まぁ、それは間違いじゃないんだけどね。盗賊のお宝、独り占めにはさせないよ?
私はリィズに魔道具の革袋を渡し、気付かれないように、金目のものを回収するようにと指示しておく。
……しょうがないじゃない。ビンボーなんだもん。
今回のアジト襲撃で、せめて数日分の宿代ぐらいは稼げるといいけどね。
リィズたちを見送り、私はイーリスちゃんを誘って馬車の外にでる。
特に意味はない……ただ、馬車を空にしたかっただけ……。
私は念話でモモコに指示を出しておく……これで明日からは馬車酔いすることは無くなる……はず。
私がイーリスちゃんの話し相手をしている間に、イーリスちゃんのお付きの侍女や、マイナの手によって食事の支度がされ、いつでも食べれるよう、準備が整った頃にガンスさんが戻ってきた。
ガンスさんの報告によれば、アジトの急襲は成功。野盗たちは全員捕縛済。捕らえられていた女の人たちも無事救出。ただ、貯め込んでいたお宝が想定以上に多く、かさばるものもあるため、手伝いを要請に来たという事らしい。
結局、イーリスと私、マイナと、イーリス付きの侍女を残して、他の皆は野盗のアジトへと行ってしまった。
「……お姉ちゃん……今がチャンスだとおもいませんか?」
人気が無くなり、マイナがそんな事を言ってくる。
あ、ウン……言いたいことは分かるけどね。
「イーリス様の口を塞げばいいんです。私に任せてください。」
「あ、あのね、マイナちゃん……。」
「何を躊躇っているんですかっ!急がないと護衛たちが戻ってきますよっ!残っているのはイーリス様とお付きの侍女ですぅ!こんなチャンスありませんよっ!」
「でもリィズが……。」
「クッ、仕方がないです。リィズおねえちゃんには泣いてもらうしかないです。それより急いで……。」
「何の話?」
不意に背後からイーリスの声が聞こえた。
「くッ、聞かれたっ!仕方がないですっ!お姉ちゃんっ!」
マイナがイーリスに飛び掛かりその自由を奪う。
私は仕方が無しにモモコにアレを出してもらう。
マイナは、出てきた小屋の中にイーリスを押し込む……うん、すごい手際の良さ。
「な、何をする気ですかっ!」
イーリスが怯えた声を出す。
「決まってるですよ……裸に剥くのです。」
マイナはニヤリと笑うと、イーリスを押さえつけ、その衣類を剥ぎ取っていくのだった。
・
・
・
「くすん……もぅ、お嫁に行けません……ぐすっ……。」
「人聞き悪いですっ!お風呂に入るのに裸になるのは当たり前の事ですっ!」
ぐすんと泣きマネをするイーリスに、マイナがそう言い返す。
うんうん、ホント仲良しになったよね。
一緒にお風呂に入って仲良くなることを「裸の付き合い」って言うみたいだけど、あながち間違ってないのかも?
このお風呂については、イーリスにも、その侍女にも、誰にも話さないようにとしっかり口止めしてある……みんなが寝静まった深夜に侍女さんにも使わせてあげることが条件だったけど。
男性陣にはどうしようか?って悩んだけど、明日には街に着くみたいだし、我慢してもらう……わざわざスキルを喧伝する必要性はないからね。
因みに、私とマイナがお風呂に入ったことは、リィズにはすぐバレた。
で、怒られた……まぁ、仕方がないよね。
夜中に侍女さんと一緒に入ることで何とか許してもらったけど。
余談だけど、リィズがアジトでこっそり回収してきたのは、銀貨が100枚入った革袋3つ、銅貨が100枚入った革袋が9個だった。
一気に30万Gですか……すごいお金持ちになった気分。
だけど、アジトには他にも金貨が詰まった箱とか、宝石とか希少鉱石とが美術品とか装備品とか……とにかく価値の高いものが山となっていたって話だし、全部ひっくるめれば1億Gはくだらないとか……どんだけため込んでいたんだよって話。
ある程度はイーリス様に収めなければならない(護衛依頼中の案件のため)らしいのだけど、それでも数年は遊んで暮らせるだけの稼ぎになった、とガンス達暁の銀杯の面々は大悦びだった。
勿論、リィズも参加したからその分の分け前もあるらしいから、街に行ったら冒険者ギルドに顔を出して欲しいと頼まれた。
まぁ、言われなくても、ギルドにはいく予定だったからいいけどね。
まぁ、色々あったけど、翌日の昼過ぎには、無事にダイチの街へ入ることが出来たのよ。
あ、入街税は、イーリスと一緒だったから払わなくてよかったのよ。ラッキーだったわ。
あかん、イーリスちゃんががっちり絡むプロットが出来てる……。
次回か次々回あたりに触れると思いますが、イーリスちゃんは、北方の小国イースを納める国王の姪です。
現国王の妹が、アイゼンブルグ伯爵に降嫁し、その4番目の子供として生まれました。
だから一応王位継承権はあるのですが、現国王には、正式に認められた子供が9人いるし弟もいる。その弟の子供も数人いるため、イーリスの現在の継承順位は20位と、かなり低いです。
しかも、母親は王族ではあるけど、降嫁している為、イーリスは王族ではないのです。
この中途半端な位置づけが、イーリスのこの先を……
……うん、もはや、モブには出来ませんね。
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