第6章
バルコニーの一件を見ていたシオンは、良かったな友人。 アナスタシア嬢にも試す様な事をして悪い事をしたな。
両想いの彼達に何が出来るだろう。
あっ! シオンは閃いた! 彼は早ぎ自室に戻ると手紙をしたためた。 国王宛にカガミとアナスタシアの婚約を勧めた。
舞踏会の翌日、神殿の執務室で仕事をしていたアナスタシアは国王に呼ばれた。
昨日の舞踏会で、シオン殿下のダンスのお誘いを断ったからだと確信した。 どうしよう…。
アナスタシアは玉座の間に通されると、王、王妃、第二王子シオンが座っていた。 アナスタシアが一礼をすると国王は カガミ殿と婚約するのは本当か?いやめでたい!
アナスタシアは国王が何を言っているのから分からず、ぼかんとした。
王妃は美男美女でお似合いだわ!と幼子の様にはしゃいだ。
シオン殿下は、微笑みながら おめでとう!僕は君達を支持するよ!
益々訳がわからないアナスタシア。
その頃、神殿の執務室ではなく資料室で 神殿に使える神官達から アナスタシア様とのご婚約、おめでとうございます!と祝福ムードにカガミは困惑した。
こんな根回しをするのは奴しかいないと カガミは金の魔法陣を足元に瞬時に出すと玉座の間に空間移動した。
♢♢♢
金の閃光が玉座の間を一瞬で照らすと、そこに現れたのは――カガミ。
尻尾がぶんぶん、耳がぴん、としていて、普段より明らかに神気が漏れまくっている。
「──おい、シオン!!!」
その声に玉座の間が一瞬凍りつく。
王妃が「まあまあ素敵なご登場♡」と拍手しかけるのを、王が手でそっと止める。
シオンはというと、まるで悪戯が成功した少年のような笑みで、
「おぉ、きたきた。やっぱり転移してくると思ってた。ね?父上、母上、カガミも来てくれたからこれで全員揃ったね」
カガミは、玉座に向かって礼をとることもせず、そのままアナスタシアの前へと歩み寄る。
「アナスタシア」
その声が思いのほか静かで、アナスタシアは胸の奥がきゅっとなる。
「……すまない、勝手な騒ぎになってるみたいだが、一応……君の意思を、まず聞かせてほしい」
アナスタシアは一度王と王妃を見やり、ふたたびカガミへと視線を戻す。
そしてゆっくり言葉を選ぶように口を開いた。
「……“婚約”という言葉に、私はまだ驚いています。ですが…」
言葉が途切れたとき、銀の尻尾がふわりと揺れるのが見えた。
アナスタシアは顔を赤くしつつも、まっすぐに彼を見て微笑んだ。
「……でも、これが“神と巫女見習い”じゃなくて、“カガミ様と私”の話なら。──前向きに、考えてみたいです」
その瞬間、空気がほどけた。
「うむうむ!めでたい!今の聞いたぞ!」
「あらもう!これでやっとロマンスの花が咲いたのね~♪」
「いやあ、恋の導き役ってやってみたかったんだよね、僕」
カガミは少し呆れたように笑い、ぼそりと呟く。
「……これが“結ばれる縁”ってやつなのか……まったく、手順は無茶苦茶だったが……」
そしてこの騒がしくも温かな空間の中で、アナスタシアは胸にそっと手を当てながら思った。
──”神様”じゃなく、“あなた”として……私も、少しずつ歩いていけたら──
この話は、あっという間に国全体に広がり「仮初の婚約」が周囲を動かし始め、国全体のお祭りムードになりつつあった。
そんな国全体のお祭りムードのなかで、当人のアナスタシアは。
「仮初って言ったはずなのに……何この国を挙げての祝賀モード……」
しかし周囲の「祝福」や「期待」のなかに、なぜだかほんの少しだけ、誇らしくて、照れくさくて、胸の奥があたたかくなる感覚が芽生えていて…
(……このままでも、いいかも)なんて、まだ認めたくない思いが胸の隅で微かに囁いていた。
そしてカガミは──
本人は国中の浮かれ具合にやや参っているけれど、アナスタシアが笑ってくれるならそれでいいかと、尻尾を垂れ気味に優しく揺らしながら、「仮初」でも「奇跡」でも、彼女との時間を大切にしようと静かに決意をしていた。