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第1章

 両親はアナスタシアをお茶会に連れて行かなくなった。


 アナスタシアは寂しさにかられたが極力気にしない様にした。

 「魔物に魅了された令嬢、“魔物令嬢”」と陰口を言われるのは両親にとって不本意だからだ。

 王太子妃候補に上がっていたのに…。

 嘆く両親。


 候補から外されると、同じ屋敷内にいるのに、次第に両親と顔を合わなくなっていったが、アナスタシアは気にしなかった。寂しい気持ちはあるが、寂しさは本を読む事で気を紛らせているうちに本の世界にのめり込んでいった。


 彼女の好む本は主に恋愛小説だ。

 素敵な出会いをして結ばれる主人公。なんて羨ましいのだろう。


 「貴族の私は…駄目ね、”魔物に魅了された”なんて言われているのだから。例え婚約出来たとしても政略結婚の駒だし、家から飛び出しのだから結婚出来るからどうかも分からない…」


 そう考えると悲壮感に襲われるが、恋愛小説を読む時だけは世界が広がった気がした。

 そのうちアナスタシアは結婚以外の道を考える様になった。


 16歳のある日、カガミ・ローレンスが自分に使える巫女を探していると耳に入った。


──カガミ・ローレンス──


 彼は公爵だが猫又神の神官長=責任者だ。

いつまで経っても結婚しないし外見も全く衰えない。

 確か自分が幼い頃、母に連れられて行ったお茶会に幼い第二王子と一緒に出席していたのを見かけた事があった。

 美丈夫だが無口で面白みに欠ける印象しか残っていない。

 彼は王族と懇意(こんい)にしているが果たして何処までの関係なのか。ただ、知っているのは神に使える神官だという事だけだ。


 ちなみにこの国では古書に王族の祖が”猫又”と交流があった記述があり、国の成り立ちに深く関わっている”猫又”は妖怪から神に神格化し、今では神の存在であり民衆からの熱い信仰心の対象とされていた。


 アナスタシアは自立するチャンスだと思い、巫女になりたいと父に話してみたが、「婚期が遅れる。それでなくても悪いウワサの為に相手が見つかるかどうか…」と猛反対された。

 このまま父に従っていれば彼女の未来にあるのは政略結婚。それに自分の(うわさ)から察するに、まともな相手ではない事は想像に(かた)くない。

 誰かの飾り(など)ではなく自分の力で外の世界を制限なく見てみたい!

 そして自分を必要とされたいと思っていた。


 父に反対されたが、アナスタシアは諦めなかった。

 後日、直接、カガミ・ローレンスに手紙をしたためた。

 返事は意外と早く来た。


「直接面談をするので、王宮の離宮に来てほしい、日にちと時間は──」


 なんと明日ではないかっ!

 何故、王宮で面談?


 考えても仕方がないので、

こんな時は寝てしまうに限ると早々にベッドに入る。

 案外、自分は図太い性格なのかもしれないとベッドの中で思いながら眠りについた。


♢♢♢


 早朝、次女が数人早々と自室へやってきた。

アナスタシアは眠い目をこすながら質問した。


「ふぁ…。こんな朝早くに一体どうしたの?出かけるには、まだ早いわよ?」


 今日は王宮で面談があるが、父は知らないハズだし、時間はまだあると考えていた。

 欠伸をしながら次女の答えを待っていると次女は余程慌てているらしく肩で息をしながら


「おおおお、王宮の馬車がお嬢様をお迎えに来ております!ささ!早くお支度を──」


 と言い終わらない内にベッドから追い出され、湯浴みからの肌の手入れ、香油や髪結、化粧、ドレス等の着付けをフルコースでされたアナスタシアは、「一応、何とかそれらしくみえますねっ!」と次女達に満面の笑みを向けられた。

 アナスタシアは(一応って、私は侯爵令嬢なのだけど…)と思いつつ次室から出ると父が玄関ホールで立っていた。


「……どうしても行くのか?」


 父の表情は硬い。どうやら王宮に呼ばれた理由を知っている様子だ。


「王宮からのご招待に出向かなければ、この家が何と言われるか…」


 少々芝居がかってはいるが筋は通るだろう。


「何があっでも帰ってこい!でなければお前はレステリス侯爵家から籍を外す!この意味はわかるな?」


 父は何としてもアナスタシアを貴族令嬢のまま何処かの貴族に嫁がせたい様だ。だが父の裏の考えを考察すると、アナスタシアを何処かの政治的勢力のある貴族と結婚させパイプを作りたい事は見え見えだ。

 それはごめん被りたい。


 アナスタシアは父に返事をしないまま後ろは振り返らず馬車に乗り込んだ。


 もう後戻りは出来ないし、するつもりもない。

 面接が落ちたら、どうにか仕事の口利きをお願いしてみよう!

 我ながら甘ちゃんな考えではあるが…。

 前だけを見て、これからは自分の事は自分で決めたいと決意も新たに馬車に揺られて王宮に向かった。


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