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いざ、出立



「さてさて! 懐もたんまり潤ったし反撃にでるとするか!」

「むみょー、うれしそう」

「まったく……」


 夜朱雀は不満げだがだが、そう怒るなと言いたい。

 オレはこの上なく機嫌がいいのだ。


「まさかこの袋がこんなにたくさん入るとはな」


 使われない迷宮の宝の山、金貨やら昔の刀剣類がまとめてこの袋の中に入ったのだ。おかげで宝物庫の中は絵画を残してすっからかんだ。

 異空間を内包する袋を『隠し袋』といい陰陽師でも迷家で手に入れた者は自慢し合っていた。それに、陰陽寮でもここまでの大きさの容量を持つ隠し袋はなかなか無いだろう。


「ふふ、これもすべてハルのおかげだな」

「むー? 何もしてないよ?」


 不思議そうに首をかしげるハルの頭を撫でながら感謝を告げる。

 戦闘で遅れを取ったのは、オレの不出来以外の何者でもない。

 しかし、こうして命を二度もつなぎ、宝物庫にまで巡り会えたのはこの子の幸運のおかげだろう。

 まさに座敷童子様々である。


「そなたはまことに幸運の女神よ」

「ハル、めがみ! むふー」


 得意げに鼻息を荒くするハルに微笑んでいると、夜朱雀がひときわ大きなため息をついた。


「幸運を司る座敷童子……悪しき者に利用されないようにと思っていけど、まさか主が悪しき者と一緒なんて」

「おいこら、誰が悪しき者か」


 ハルの力をあてにはしているが、別にこの子が座敷童子でなくてもオレの対応は変わらんというのに。


「それより、傷はもういいのか?」

「そうね、人に化けれるくらいには力はあるけど……戦闘はまだ厳しいわ」

「ならば天津に帰り療養すればよかろう」

「あら? 主も随分と面白いことになっているじゃない。ここは仕える四神の一柱として見届けないと」


 こいつ、オレやハルのことを心配と言っている割に、随分と楽しそうではないか。

 まあ悠久の時を生きた神鳥からすれば、人間として現界するのは新鮮なのだろう。

 その気持はわからなくもない。


「私を呼ぶのも随分と久しぶりだったし……もしかしたら、また会えなくなるかもしれないからね」

「……まあ、そうならないように気をつけている」

 

 意地の悪い笑みを浮かべながら、ハルの頬をムニムニと弄んでいる夜朱雀。

 態度はふざけているが、その指摘は鋭い。


「──わかっているさ。オレもこんなところで終わるわけにいかんのだ」


 それは遠い記憶。なきじゃくる彼女の顔が脳裏に浮かんだ。


「さあ、この迷宮を攻略し、冒険者ギルドに凱旋と行こうではないか!」


 未発見の迷宮の攻略とこの財宝を持ち帰れば、異邦者の三人でも身分を保証してくれるだろう。何より、あらたな迷宮を紹介してもらい、この身の霊力の復活を早めたい。


「そのためにも、お前を倒さねばな」


 振り返りざまに絵画に一瞥を送る。

 険しい視線を送る老紳士が、先日の無双と重なり知らず闘争心に火が着いた。


「主……何やら楽しそうなところ悪いけど、ここの迷宮主を倒す力はあるの? 見るも無惨に弱体化しているようだけど……あおが知ったら襲いかかってきそうね」

「くくく、心配するな夜朱雀。武器をもう揃っている。それに他の四神は呼ばないからヤツの話はするな」


 あいつを呼べば、夜朱雀の言った通りこちらに襲いかかってきそうだ。気性の荒い龍神であり、オレに己を従える力なしと判断すれば容赦なく牙を剥くだろう。


「まあ主に勝算があるならいいけど……この子のこと、ちゃんと守らないと駄目よ?」

「わかったからそう心配するな。まったく、いつから母性に目覚めたのだ」


 うふふ、と妖しく笑う夜朱雀はハルの手を掴んで離さない。

 はたから見れば年の離れた姉妹のように見えるほど、彼女の距離感は近い。


「おるる、怒ってる?」

「ふふ、大丈夫よハル。不甲斐ないとはいえ、これでも主は──」

「夜朱雀、そんな話はいいからそろそろ行くぞ」


 不甲斐ないという言葉は今のオレを体現している。

 こんな状態では彼女の前になど、とても立てない。


(幸い、時間だけはまだあるな)


 急ぐことではないとはいえ、この人生が終わる前になんとしてでも、もう一度──。


「では、反撃の時といこうではないか」


 滾る気持ちで、ほんの少し浮かんだ焦りを誤魔化し、オレは宝物庫から外に繋がる扉に手をかけた。

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