第5話 461さん、配信者に誘われる。
〜ダンジョン配信者 天王洲アイル〜
461さんがリレイラと会う数時間前。
──都立第二ダンジョン高等学校。
「え〜2019年。異世界より魔族で構成された魔王軍が侵攻。彼らの大規模魔法によってこの世界の現代兵器は全て消滅しました」
世界史の鮎川先生の授業を受けている間もスマホのバイブは鳴りつづけていた。
「2019年末、魔王軍との交渉の末この世界はダンジョン実験場となりました。しかしこの条件を受け入れることで人類に生き延びる道が生まれたのです」
ブブッ。
また鳴った。もう、全然止まらないじゃない。
「2020年1月、ダンジョンはこの世界の建造物に融合する形で出現。異世界から転移して来たのです。それと共にダンジョン管理局が設立され、魔族による探索者の管理、サポートが行われるようになりました」
こっそりスマホを取り出す。ツェッターの通知欄は99+。今まで見たこともないカウントが表示されてる。
「我ら人類のダンジョン探索データを魔族が収集、そのデータを活用することで彼らの世界のダンジョン強化をし……」
はぁ……授業が全然頭に入らないわね……。
「……とこのような理由からダンジョン管理局は各国にダンジョン探索を義務付けました。敗北した人類に抵抗する余力はありませんでした」
通知が止まない。昨日からずっとツェッターもDチューブのコメ欄も書き込まれ続けてる。
「現在、ダンジョンとダンジョン管理局が存在するのはアイスランド、デンマーク、アイルランド、ニュージーランド、オーストリア、ポルトガル、スロベニア、チェコ共和国、シンガポール……そして日本の10ヶ国であります」
アーカイブの再生数も300万回突破してるし……今まで経験したことなんて「バズ」じゃなかったと思い知らされるわね。
「その他各国は出現したモンスターの駆除に苦労しており……現代兵器を全て失った人類には手の負える相手ではなく……」
1番大きかったのはドラゴンゾンビをDランクの461さんが倒したこと。それも、Bランクのラルゴが一撃でやられたボスを……っていうのがダンジョン配信ファンには衝撃だったみたい。
これが配信界隈を大きく騒がせた。今までランク差を覆した人間なんていなかったから。
「2020年9月。大量にダンジョンが出現した東京から政府は撤退。東京は観光産業と首都機能を失ったのであります」
私にも「461さんは次出るのか?」っていうコメントが連投されてるし。あの時ラルゴから逃げる為に仲間だって言ったから……。
「これにより都内から人口が流出。2019年時点で969万人だった人口が現在の657万人へ減少し……ってこら!」
突然、鮎川先生が私を注意した。クラス中の視線が私に集まってしまう。
「今日で何回目だ桜田? スマホの電源は切っとけって言ったよな?」
「は、はい……」
「配信者活動もいいが、授業は真面目に受けなさい」
「すみません……」
(また桜田だよ。数学でも怒られてたよな)
(昨日バズってたからねぇ〜羨ましい)
(元々登録者数多いのにさらに増えそう)
(いいなぁ……アタシも配信者やってるけど底辺中の底辺だもんなぁ)
ザワザワと声が聞こえる。
この学校では私がダンジョン配信者「天王洲アイル」をやっていることは知れ渡っている。学校経由でダンジョンの管理局へ許可を取る流れでダンジョン配信者としての活動を知られてしまう。
まぁ……どうせ顔出ししてるし、何やってもバレるのには代わりないけどね。
……。
昨日の配信だけで登録者数が40万から80万人まで増えた。1日で登録数は倍増。これまでの苦労が嘘みたい。
でも……。
まだ足りない。もっと有名にならないと。
お父さんに……あの人が世界中のどこに居ても、私のことを分かるようにしないと。そうしたら……帰ってきてくれるかもしれない。
だから私はもっと高みを目指す。絶対トップ配信者になってやるんだから……っ!
……。
ブブッ。
学校が終わってスマホの電源を入れると、連続でバイブが鳴る。Dチューブの管理画面を開くと、またコメントが来ていた。
『次は461さん出る?』
461さんは出るか? 461さんは何者か? そんなメッセージで溢れかえる。
その注目のされ方にちょっと嫉妬しちゃうけど……。
やっぱり私が高みを目指す為には必要ね。あの人が。
ツェッターで461さんの目撃情報を探すとすぐに見つかった。どうやらあの鎧のまま活動しているらしい。
どういう神経してるの? でも、そのおかげで見つかったから複雑ね。
場所は渋谷周辺。目撃時間も少し前だったので急いで渋谷へと向かった。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……っ」
目撃情報を元に渋谷を走り抜ける。109の前を通り過ぎて道玄坂方面へ。
く、苦しい……サングラスが曇る……マスクが邪魔……っ!
けど、顔出ししてしまってるから着けざるを得ない。苦しみながら走っていると、鎧の男が目に入った。
「461さん……っ!」
フリューテッドアーマーにあのフルヘルム……っ!? 間違い無い。
私の幸運の象徴! 絶対逃がさない!
全力で追いかけて、461さんに抱き付いた。
「み、みつけだぁああああ!!」
「うわっ!? なんだアンタ?」
「アンタとは何よ!? 昨日会ったでしょ!?」
周囲を確認してからマスクとサングラスをズラす。
「あ、昨日の子かよ。制服だから誰かと思ったぜ」
そ、そうだ。まずはお礼言わないと。
「昨日は、その、助けてくれてありがとう……」
「それを言いに来たのか? 別に気にすんなって」
そのまま行こうとするヨロイさんをギュッと抱きしめて引き留める。
「あ、ち、違うの! それだけじゃなくて!」
誰も見てないわよね? 今しかチャンス無いわ。次の配信日予告しちゃったんだから!
声を潜ませ461さんに耳打ちする。
(ヨロイさん。私と配信者ユニット組んで!!)
「はぁ? 配信者ぁ?」
「そう! アンタがバズったの私のおかげでもあるでしょ!? だからお願い!!」
「んん? バズりってなんだ?」
キョトンとするヨロイさん。その様子に急に頭が冷静になる。
「……あれだけ話題になったのに知らないの?」
「話題? 何が?」
スマホで昨日の配信のアーカイブを再生し、ドラゴンゾンビ戦を461さんへ見せる。彼にツェッターでバズりまくっていること、再生数も300万回を超えたことを告げる。しかし、461さんは私の話を聞いていないかのように真っ直ぐ画面だけを見つめた。
「ねえ。ちゃんと聞いてるの?」
「ああすまん。ドラゴンゾンビの動きを客観的に見れる機会だなと思ってさ」
「ちょっと私の話を聞いてってば」
「しっ。ちょっと集中させてくれ」
461さんがスマホを食い入るように見続ける。
「あの尻尾薙ぎ払い攻撃……攻撃に入る前に空中で尻尾を2回揺らしてたが、左の前足も動かしてたのか。これなら次戦う時はもう少し有利にできるな。そうなると前足周辺が安置になる訳だからショートソードなら3回斬り付けられ」
……聞いて無いわ。
完全に自分の世界に入ってる。こんなの配信者ユニット組むなんて無理ゲーじゃない。
「おおっ! これギリギリだったなぁ〜下手したら全身バラバラじゃん!!」
自分の動画を見て1人で盛り上がる鎧の男。なんなのこの人? ダンジョン探索にしか興味ないの?
……待てよ。
そうじゃない。この前といい、この人ダンジョン攻略以外に興味が無いのよ。
じゃあ、それを突いてあげれば……。
「ねぇ。私とパーティになりましょうよ」
「パーティ?」
「そう。貴方と私が一緒に冒険する。その様子を私が撮影する。そうすれば貴方は何回でもモンスターの分析できるでしょ?」
「分析かぁ……」
初めてヨロイさんが私の意見に反応を示す。
これはイケるかも!
「そう! 分析すれば次戦う時にも役立つでしょ? 私がアーカイブしていつでも見れるようにしてあげるから!」
「おぉ!? そりゃいいアイデアかもしれないな!」
ヨロイさんのテンションが一気に高くなった。
いい感じかも! あと少し押せば……。
「でしょ! だから私の配信……いえ、パーティメンバーになって!」
ヨロイさんが、真っ直ぐに私の顔を見つめる。
「いいぜ。パーティでの探索ってのも興味あったんだ」
「やった!」
よし! 上手く行ったわ!
そうだ。ファンに変な勘繰りされないように461さんと私の設定ちゃんと考えないと……。
男女関係を匂わす時ファン離れを起こすかもしれないから……うぅん。親? にしては若すぎるか……。
ならどうしよう? 歳の離れた兄妹が1番無難かな?
今後のことを考えていると、461さんのフルヘルムの奥……彼の目がビカリと光った。
「じゃ、パーティメンバーの実力も知りたいし、次のダンジョン行かないとな」
「? その口ぶりだともう行き先決まってるみたいね」
「決まってるぜ。ダンジョン管理局にも連絡済み」
461さんがスマホの画面を見せて来る。そこには、リレイラというダンジョン管理局担当者へ宛てたメッセージが表示されていた。
「次に挑むダンジョンは代々木公園の迷いの森さ」
次回、新たなダンジョン「代々木公園迷いの森」へ挑みます。果たしてどんなボスがいるのか……どうぞお楽しみに!