エピローグ2 大切な人 ージークリードー
時間神エモリアを倒してから3ヶ月後。
シィーリアの屋敷
〜ジークリード〜
異世界の魔王の元で働いているシィーリアから、休みを貰って一時帰国すると連絡があった。日時は今日の午後。本当に急な話で、鎧と天王洲もダンジョン攻略中……考えた俺は救出任務をアイツに頼む事にした。
俺は……どうしてもシィーリアを待たせたくなかった。シィーリアは時間神の一件で不安になっているはずだ。そんな彼女が帰って来るんだ。少しでも早く迎えたい。早く迎えて、シィーリアの居場所は揺るがないと伝えたいから。
本来なら、救出任務を何よりも優先しなければならないのだが……最近は色々と考えるようになった。「信頼できる誰か」なら、託しても良いんじゃないかと。アイツらは俺がいない間の秋葉原を守ってくれたんだから。
『……いやぁ阿佐ヶ谷のダンジョンのボスが東洋龍みたいなヤツやとはなぁ。遭遇した時さすがにビビったで。まぁでも? 俺にかかれば初見ボスでも楽勝や!』
スマホのビデオ通話の先で武史が気持ちの良い笑い声を上げる。彼の隣にいたエルフのフィリナがヌッと画面に顔を出した。
『ふふっ。武史さん、連絡受けてから到着するまで阿佐ヶ谷ダンジョンの事すごく勉強していましたもんね♪ それはもう移動中も熱心に……』
『フィ、フィリナ……その事は言わんといてくれ……』
「武史君、そんなに真剣に対応してくれたんだねぇ」
スマホを覗き込んでいたミナセが両手をパンと叩く。嬉しそうな笑み。最近、新宿迷宮の攻略メンバーと集まる機会が無かったから、武史達の顔が見れて嬉しかったのかもしれない。
『そ、そうなんやミナセさん! 俺もA級になったことやしな。恥ずかしい攻略はしないようにしてるんや! なははははははは!!』
『え? 「俺に依頼したジークさんに恥をかかせる訳にはいかない」って言ってませんでした?』
『お。おいフィリナ……ちょっと静かにして貰えへんか……?』
ミナセが突然吹き出す。彼女は笑みを浮かべながら中庭のテーブルへ向かってしまった。
『ま、まぁという訳で救出任務は無事こなしたで。ヨッさんやシィーリアさんにもよろしく言っといてくれ』
「ありがとう武史、フィリナ……パララもん達が留守にしている間に頼み事をしてすまなかった」
『気にすんなって! 俺らも暇してたしな!』
『2人ともCMの撮影で忙しいですから。またなんでも言って下さいね♪』
2人にもう一度礼を言って俺はスマホの通話を終えた。スマホを探索者用バッグへしまうと、奥のテーブルでニヤニヤ笑みを浮かべているミナセと目が合った。片肘を付いて、イタズラをするような顔でコチラを見る彼女。ミナセは、少し嬉しそうに声を上げた。
「なんで笑ってるんだよ?」
「ん〜? カズ君、武史君に慕われてるなぁって思って」
「慕われるほどか? 新宿を共に攻略した仲間だとは思っているが……」
「ううん。アレは色んな感情が混ざってるねぇ。いいよいいよ〜! もっと仲良くなってミナセちゃんをニヤニヤさせて欲しいな♪」
腕を組んで考え込んでしまう。ミナセは何を言っているんだ?
「か、カズ君も鎧さんに負けず劣らずの天然さんだね……」
今度は何故かガックリと肩を落とすミナセ。彼女は、急に真剣な顔になって指を指す。彼女の指は、まっすぐ俺の眼帯を指していた。
「その眼帯。みんなが言ってるよ。ジークリードは自分の身を犠牲にしてでも誰かを助けてるって」
「ん? 別にこれは救出任務で付いたものじゃ……」
言おうとした時……ミナセは静かに首を振り、俺の眼帯を真っ直ぐに見つめた。
「ううん。その眼帯は……左眼は、カズ君の覚悟をみんなに教えたの。ジークリードは本気なんだって。お金や人気の為に誰かを助けてる訳じゃないって」
真剣な表情になるミナセ。彼女がさらに言葉を続ける。
「カズ君はすごいよ。色んな人に色んなことを言われても、心まで折れても……誰かの為に立ち上がったんだから。それを見ていたみんながカズ君のことを好きになってくれたんだよ?」
「……だとしたら、ミナセがずっとそばに居てくれたおかげだ。俺だけの力じゃない」
「そ。そんなこと、ないよ?」
言った瞬間、ミナセの顔が赤くなる。
ミナセが以前言っていた。俺の活動を配信するのはみんなに俺を知って貰う為だと。恐らく、配信する事で俺はネットで色んな事を言われただろう。
俺の足りない言葉では見ていた者に勘違いされる事や、誹謗中傷もあったかもしれない。でも、その事を俺に気付かせないようにしてくれていたのはミナセだ。俺が誰かを守る時、ミナセが俺を守ってくれていた。俺はそう思う。
「だから、ありがとうミナセ。お前は俺の最高の相棒で……そ、その、か、か、か……」
言おうとして恥ずかしくなる。ミナセが期待するような目で見つめてくる。そんな彼女の姿に心臓が跳ねるような感覚がして、だけど、これだけは伝えたいと思って、俺は言葉を搾り出した。
「さ、最高の……彼女だ、と思う」
「そう言われるとうれしいな」
沈黙が流れる。なんと言っていいか分からず考え込んでいると、ミナセが大きく伸びをした。
「あ〜ユイがダンジョン攻略中で良かったぁ。モモチーに感謝だね。あの子いたら絶対こんな雰囲気にならなかったもん」
「梅田ダンジョンだったか?」
「そ。大阪唯一のダンジョンだって。私達も行ってみたいよねぇ」
シィーリアの帰りの連絡があった時、既にユイはダンジョンへと入ってしまっていた。彼女は残念そうにしていたけど、シィーリアの休みが突然決まったから仕方ない。
だが、ユイも楽しそうで良かった。九条商会も解散して、アイツも自分の道を歩き始めた気がする。
ユイについて話していた時、声が聞こえた。俺達を呼ぶ声。振り返ると、この空間に入るための入り口、丘の上に少女が立っていた。
見た目は小学校高学年ほどだが、頭に2本のツノを生やした、妙に大人びた表情の彼女……シィーリアが。
「あ、お母さん帰って来たみたい」
ポツリと呟いたミナセ。その言葉に一瞬驚いてしまう。聞き返そうとした時にはもう彼女は駆け出していた。
「シィーリア〜!」
……母さん、か。
色々な事が脳裏をよぎる。俺がもうダメだと思った時、いつも手を差し伸べてくれたシィーリア。この眼帯の時も……心が折れた時、シィーリアの声が聞こえたから、俺はまた立ち上がれた。
ミナセも、シィーリアも、ユイも。俺を守ってくれて、信じてくれて……慕ってくれる。だから俺は戦える。
誰かの為に。
俺も誰かに想われているから。俺は弱いから……彼女達が必要なんだ。
「カズ君〜シィーリア泣いてるよ!」
「う、うるさいの! ジーク!! 早くこっちに来るのじゃ!!!」
大切な人が俺を呼ぶ声がする。
俺は、彼女達の元へ歩き出した──。
お久しぶりです。約1ヶ月ぶりになりますでしょうか? 今回ジークリードのエピローグを書かせて頂きました。
本作における彼は、初期のやらかしも含めて本当に色々言われる事の多かったキャラクターでした。
ですが、そんな彼も物語の中で様々な人に支えられ、影響を受け、成長したかなと思います。彼を最後まで見守って頂いた読者様に、彼の事を好きだと言って頂いた時は嬉しかったですね。そういったお礼も込めて、その後の彼の様子をお届けしました。
このような形で本編完結後も定期的にエピローグもしくはその後の話を描けたら良いなと思っています。まとまった量の話も書きたいなぁ……それではまた会いましょう。
最後に新作告知です。ただいまカクヨムにて新作異世界ファンタジー
悪徳ギルドマスターに転生した俺、保身のために組織改革したらうっかり最高のギルドを作ってしまい、最強冒険者が集まってしまう。
を連載中です。2025年10/29現在カクヨム週間総合ランキング4位の作品です。総合1位を目指して書いた作品ですのでぜひよろしければ評価や作品フォローなどで応援下さい。よろしくお願いします。




