エピローグ 未来への手紙
未来の私へ。
ビックリした? 「全部終わった〜」って思ってる時にこの手紙が出てきたらビックリするだろうなと思ってこれを書いたの。
5年後の私を見送った後に「メモアプリを見ろ」って、通知が出るようにしておくとか我ながらビックリでしょ? 探索者用スマホって便利よね。クラウドに引き継ぎ内容が残されるからスマホのリマインダーもメモも残しておけるんだって。リレイラに教えて貰ったわ。
もしずっと覚えてたら恥ずかしいんだけど。まぁ、その時はその時よ。死ぬほど恥ずかしいと思うけど許して?
先に真面目な話。今これを書いてる私はエモリアを倒してから3ヶ月後の私。アナタが元の時代に送り返してくれた「天王洲アイル」として書いてるわ。
アナタのいる未来に起きた出来事とわたしが見聞きしたみんなの現状に相違無いかチェックして欲しくて……少しでも間違ってたら未来が書き変わってるのかな? そうなったらそもそもこのメモ通りになってるから、アナタはいないかもしれないけど……私はそこまでは分からない。自分ができる事は全てやったつもりよ。もしこれが届いていたら、アナタが判断して。
何から書こうかな……あ、そうだ。シンとタルパちゃんの話からするわね。
エモリアを倒した後、シンはスージニアを助けて、事情を知らないみんなに九条の事を話したの。何もかも全部。ジークとミナセさんは複雑な顔をしてた。でも、最終的にね、ジークが言ったの。
「九条が俺を見定めると言ったように、今度は俺がお前を見定める」って。ミナセさんも同じ気持ちみたい。
九条はね、九条商会を解散したの。それから自分が傷付けた人達への贖罪をすると言っていたわ。今まで稼いだお金を使って、色んな人達の所を回るって。シンとタルパちゃん、それにスージニアもそれに付き添うといっていた。九条はね、全部終わったら管理局に保管されているレベルドレインを受けて消えるつもりみたい。
シンの状態でレベルドレインを受けて、時壊魔法を消せば……九条は消えて、シンに体を渡せるから。シンは全部終わってから決めればいいと言っていたけどね。アナタのいる未来ではどう? ……いいえ。これは私の目で最後まで見届けるわ。あの人の事は最後まで見守れないから。せめて、ね。
あの人……次にイシャルナの話をするわね。イシャルナはね、罰を受ける事になった。リレイラの世界の魔王がこの世界にやって来て、彼女を裁く裁判が開かれたの。その間に魔族の研究者達が時の迷宮を調べて、時空の歪みをつなぐトンネルを作った。魔族ってすごいわよね。なんでもできるんだもん。
イシャルナは来週にはそのトンネルの中へ旅立つわ。過去に発生した全ての時空の歪みを消すこと……それが彼女に与えられた罰だって。これから彼女は時空の狭間の中を何百年も何千年も旅をするの。過酷な旅になると言っていたわ。
それを告げた魔王……イシャルナの弟さんも辛そうだったわ。本当に慕っていたんだって……その場にいた私にも分かった。
私ね、あれからイシャルナと沢山話をしたの。捕まっているイシャルナの所へ毎日通って、彼女がどんな人生を送って来たのか聞いた。私からはとても想像できないようなひどい話だった。彼女が「ツノ無し」として生まれた事で迫害されて、魔王が彼女を助けだしたけど……結局、一部の魔族達からの差別は無くならなかったみたい。
このまま行けば、魔王の側近としての役割を剥奪されそうだったらしいわ。色々な事に彼女は絶望して……最終的に時間神エモリアの伝説に縋ってしまった。私には彼女を責める事なんてできないわ。
でもね。魔王が異世界に帰る時、言ってたの。「姉上が罪を償うまでずっと待っている」って。だから……私はきっと大丈夫だと思う。だって家族が待っているんだもん。きっと……大丈夫。
私も友達になれたと……思うしね。もし私が生きている間にイシャルナが帰って来るようなことがあれば、また会いたいわ。
シィーリアは魔王と一緒にイシャルナがやったことの収拾をつけるために動いてるみたい。今回の事件をきっかけに、今までツノ無しの人達をどれほど苦しめていたかを全部明らかにするって言っていたわ。イシャルナと同じような苦しみを抱えている人達が、少しでも楽になれる事を祈ってる。
……ごめん。暗い話ばかりになっちゃったわね。いい話もするわ。
何を話そうかな……あ! ナーゴの話からね。
ナーゴはね、自分のお店を出すために色々準備してるの。物件を探して、勝者マンが食材を届けて、冒険家Bのマスターとメニューを開発してる。毎日楽しそうよ。DチューブのチャンネルはBANされちゃったみたいだけど、ツェッターのアカウントは残ってるからすごい話題になってるわ。凄い美人だから話題性もあるものね、名護さん。
次は……モモチー達ね。
モモチーとユイさんは正式に配信者ユニットを組んだわ。キル太も今はマスコット的な人気だし、それになんと! 撮影スタッフに高輪ゲートガーディアンズが付いてるの。
分かる? 撮影スタッフよ! 撮影チームまでいる配信者なんて前代未聞よ! 企画力が高いってすごく話題になってたわ。いずれ海外のダンジョン攻略も視野に入れるって言っていた。モモチー、「アイルさんが日本を制すなら、私は世界を制しますわ!」ってすごく息巻いてた。
ユイさんも文句ばっかり言ってるけど、楽しそうよ。九条の事を聞いてた時はしばらく落ち込んでいたけど……最近は「九条が帰って来たら1発ぶん殴ってやる! だからそれまでアタシは目一杯楽しむ!!」って笑ってた。2人とも、これからどうなるか楽しみだわ。
え〜と結構書いたけど、まだあるわね。
次は……パララもん達か。
パララもんとポイズン社長はね、あれからCMとかコラボとかオファーが殺到してるみたい。2人はおじいさんの家の事があって、東京を離れられないと最初は断るつもりだったみたいなんだけど、武史とフィリナさんがね、2人の家を見てるから好きな事をやればいいって背中を押していたわ。
どうするかはあの2人次第だけど……仲が良いあのパーティのことだもん。きっと良い形に収まると思う。それにここだけの話……フィリナさん最近凄いのよね。単独で雑談配信も始めて個人チャンネルの登録者数ドンドン伸ばしているの。武史もA級探索者になって凄い活躍してるし、もう完全に人気パーティね、あそこは。
次は鯱女王。
鯱女王はヨロイさんと同じく、今はSSランクに上がるために海外のダンジョン管理局から与えられた試験を着々とクリアしてるわ。どれも指定されたダンジョンでボス討伐に時間制限付けられたり、アイテム禁止だったり大変そうだけど、本人は楽しそう。「縛りプレイみたいなものだし」って余裕そうだった。
あ、それと……最近よく鯱女王から相談受けるようになったのよね。なんと恋愛相談! でも、内容がね〜小中学生の恋愛相談みたいな感じなのよ。笑えるでしょ? 鯱女王って意外に中身はピュアなのかも!
最後は……私達ね。ジークは最近凄いわ。以前よりもずっと強くなってるし、救出任務も1人で何人分もこなしてる。2人ともスッゴイ人気よ。なんだか本当にヒーローみたい。この前なんてネットで小さい子がジークとミナセさんのコスプレしてたし。2人に見せたら、2人とも泣き笑いみたいになってて面白かったわ。
あ、でもその反面、ジークは私生活の方は完全にミナセさんに主導権握られっぱなしみたいだけどね。2人とも相変わらずだなって思うわ。
あとね、時の迷宮から回収した紫電の剣……お父さんの剣は、ジークが私に譲ってくれたわ。「これは天王洲が持つべきものだ」って。
……だからアナタが持っていたのね。私もこれから剣の練習を頑張るわ。アナタみたいになれるように。
私達は……相変わらずね。リレイラはシィーリアが異世界に行っている影響もあって部長代理として忙しそう。あ、でも2人のフォローはまかせて。絶対ユウちゃんが生まれるようにしないと。あ〜早く会えないかな。ヨロイさんにはもっと積極的になって貰わないと!
あ! 当然ダンジョンの方も任せといて! これからみんなで嵐山ダンジョンも攻略するし、ヨロイさんがSSランクに上がるのも見届けなきゃ!
みんなの様子はこんな感じかな。
最後に。
カナ、アナタがいてくれたおかげで私達は今こうやって過ごせてる。私はヨロイさん達のようにお父さんに会えなかったけど……でも、私はアナタやユウちゃんに会えた。だから……後悔は無いわ。
私も、アナタと同じ立場になったら絶対やり遂げてみせるわ。本当に、ありがとう。アナタが私に言ってくれた言葉……一生忘れないわ。
無駄じゃなかった。
私がやって来た事は無駄じゃなくて、ヨロイさんやリレイラ、ユウちゃんやみんなに繋がったの。それをアナタが教えてくれた。だから……ありがとう。
それじゃあ……またね、私。
◇◇◇
──2037年。
〜桜田カナ〜
2032年から来たアイルを過去に送り届けて、渋谷ダンジョンを出た時にスマホのリマインダー通知が表示された。内容は「メモ帳にある『未来の私へ』を見ろ」だった。
そこには、書いた覚えのない5年前の私の近況報告があって、彼女が無事にやり遂げたんだと分かった。それと同時に実感が湧く。私達の世界は、ついにエモリアの呪縛から解き放たれたんだと。
「はぁ……終わった……」
アイル……頑張ったわね。ありがとう。私が今ここに存在している事が、アナタが全て上手くやってくれた証拠よ。
そんな事を考えていると、スマホが鳴る。発信相手を見ると、私の「相棒」からだ。
何? 今日の夕方までは出られないって伝えてあったのにもう連絡して来たの?
私は、笑いを噛み殺して電話に出た。何も気兼ねなくダンジョンを攻略できるワクワク感が私を包み込む。
『アイル。今裏ダンジョンの52階層まで来たんだが、おもしれーボスがいてよ。すぐ戻って来れないか?』
「何? 相棒がいなくてもう寂しくなっちゃった訳?」
『お前がいなかったらつまらねぇだろ? リレイラさんに転移魔法の使用許可は貰ってるからよ。頼むぜ』
「分かったわ。今すぐ戻る」
52階層か。どんなボスなんだろう?
私は、急いで駆け出した。みんなが待つ場所へ。ヨロイさんが待つ場所へ。
空は晴天。風も気持ちいい。
「よーーーし!!! やってやるわよ!!!」
私達の冒険は、これから始まるんだ!
461さんバズり録──完。
これまで461さんとアイル、そしてリレイラさん達の冒険を見守って頂きましてありがとうございます。これにてこの物語は完結となります。
しかしですね、このお話……自分でもまた書きたいと思うのです。さらなるエピローグ的なお話や劇場版的なお話を。
ですので皆様、ぜひブックマークはそのままで。いずれ新たな更新通知が行くかと思いますので……。
もし「地元にダンジョンに向いてる場所があるよ!」という方は教えて下さい。いつか461さんの仲間の誰かが行くかもしれません。
また、もしまだ評価(【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に)を頂けていない方がいらっしゃいましたらぜひお願いします。完結ご祝儀だと思って……!作品への熱いレビューなどもお待ちしております(切実)
加えて最後に宣伝を。
この作品、過去編にあたる「461さん踏破録」を公開しております。これは、プロローグでありながら本編読了後の方にはエピローグにあたる作品となっております。まだの方、まだまだ461さんワールドに浸っていたい方はぜひよろしくお願いします!
461さん踏破録
https://ncode.syosetu.com/n9573jz/1/
それではみなさん、また会う日まで一時の別れ。
さようなら。