第279話 A級パラライズ
ユイ達がリザードマンを倒した頃。
──都道437号線、秋葉原駅方面。
「ググ!!!」
「ググッグ!!」
リザードマンがパララもんへ飛びかかる。彼らの剣が彼女を捉えた時、リザードマンの目の前に大剣を背負った男、鉄塊の武史が飛び込んだ。
「おおっと! そんな攻撃通す訳無いやろ!!」
リザードマンの剣撃を受け止める武史。彼の肩にリザードマンの剣が叩きつけられた瞬間、スキル「鉄壁」が発動し、彼らの剣はピタリと止まった。それはリザードマンがどれだけ力を込めても動かず、武史のスキルはリザードマンの攻撃を完全に無効化していた。
〈ひゃだ武史よ!?〉
〈武史がパララもんを守ってるわ!?〉
〈タンクよ!タンクタンクよ!〉
〈肩に戦車乗せてんのかいっ!〉
〈嫌いじゃないわ!!〉
〈コメントにネキ達が沸いてるw〉
〈ヒェ〉
〈武史のファンなのだ〉
〈いつもこんな感じなのだ〉
〈モンスターより怖いのだ〉
〈パララ三兄弟失礼で草w〉
「グ?」
「ググア!!」
2体のリザードマンが攻撃を止められた事に戸惑いの表情を浮かべる。その隙を突いて武史は背中の大剣を抜き、横に薙ぎ払った。
「だらぁああああああ」
「グギャ!?」
「グッグアアア!?」
上半身と下半身を真っ二つにされるリザードマン。彼らの背後にいた魔法職のリザードマンが焦ったように杖を構える。彼らが電撃魔法を放った瞬間、アスファルトから無数の木が伸び、盾のように絡みあい電撃魔法を防いだ。
「魔法職もいるとは、新宿にいた個体とは異なる種族のようですね」
〈フィリナちゃん!!〉
〈相変わらずクッソ美人〉
〈エルフいいなぁ……〉
〈パララもんには負けるのだ〉
〈僕はフィリナさんも好きなのだ〉
〈裏切り者が出たのだ〉
〈ソイツは偽物なのだ〉
〈なんでバレたんだ!?〉
〈自白してて草〉
〈素直な子ね!嫌いじゃないわ!〉
〈ヒェ〉
フィリナがその手の杖で前方を指し示す。その先には裏路地から探索者達が追い込んだ無数のリザードマンが。武史達の背後を守っていたポイズン社長がその光景を見て即座に声を上げた。
「数が多いな……よし、パララは新技を使え。フィリナは援護。武史は石流岩烈斬の準備な。逃したヤツは俺がやる」
ポイズン社長が剣を構え、新スキル「神経毒の牙」を発動。漆黒の楔形魔力が複数現れ、彼の周囲に浮かんだ。
「準備いいぜ〜!!」
〈なにかやるみたいだな〉
〈作戦立てるなんてやっぱりイケメンね!〉
〈あの発動したヤツ新技か?〉
〈猛毒の牙と色が違うのだ〉
〈修行してたのだ?〉
〈きっとパララもんも強くなってるのだ!〉
〈楽しみなんだ!〉
〈良いところで配信にこれたお!〉
〈モモチーの方は終わった?〉
〈向こうは落ち着いたぞ〉
〈人増えてきたな〜〉
パララもんがトントンと地面を飛び、フィリナを横目で見る。
「フィリナ、練習したヤツ頼むのだ!」
「はい!! ツリーピア!!」
フィリナが杖を天高く掲げ、魔法「ツリーピア」を発動する。パララもんの足元に魔法陣が浮かび、1本の大樹が勢い良く伸びる。それに吹き飛ばされるようにパララもんが空中へ飛び上がった。
「のだああああああ!!!?」
〈!!?!?!?!?〉
〈飛んだw〉
〈パララもん涙目やんw〉
〈出目金みたいになってたおw〉
〈ワザとなのだ〉
〈新技なのだ〉
〈雑談配信で言ってたのだ〉
〈頑張ってるんだ!〉
〈ひゃだ!?小可愛!?〉
〈なんやそれw〉
「お〜綺麗な放物線描いて飛んでいったで」
「パララさん、防御ステータスのスキル上げてから割と無茶するようになりましたね」
「ま、いいんじゃね? 本人も楽しそうだし」
ポイズン社長がくつくつと笑う。新宿迷宮から帰って来てから、この2人は自分の腕を磨いていた。それを見ていた武史とフィリナは、ポイズン社長の方が妹の成長を楽しんでいるのだろうと感じた。
「群れの中心は……ここなのだ!!」
仲間に見守られながら空中に飛び上がったパララもん。彼女は腰からダガーを引き抜き、それを両手に構えて地面へまっすぐ飛び込んだ。リザードマンの群れのど真ん中へと。
「麻痺撃波!!!」
剣先が地面へ触れた瞬間、金色の光の衝撃波が周囲に巻き起こる。それはパララもんを中心に波紋のように周囲へ広がり、リザードマン達を飲み込んだ。
「グギャババババババババババババア!!!!?」
〈!!?!?!?〉
〈リザードマン倒れまくってるお!?〉
〈麻痺の範囲攻撃?〉
〈威力高すぎぃ!?〉
〈さすがA級だお!?〉
〈可愛いけど漢らしいわ!!〉
〈さすがなのだ:8666〉
〈修行の成果なのだ:8666〉
〈お祝いなのだ:8666〉
周囲にいた数十体というリザードマンが全身を痙攣させ地面をのたうち回る。その隙間を縫うようにパララもんはその場から全力で逃げ出した。
「後は頼むのだ〜武史〜!!」
「おう! フィリナは威力が逃げんようにしてくれや!!」
武史が大剣を背中にかつぐように構える。彼の全身から魔力が噴き出し剣へ集約されていく。大剣を叩き付けながら、武史は技名を叫んだ。
「石流岩烈斬!!!」
大剣から発生した衝撃波が地面を砕き、アスファルトを巻き上げながらリザードマン達へと迫る。それに合わせるようにフィリナが「ツリーウォール」を発動。倒れたリザードマンの周囲を半円状に生えた木々が取り囲み、そこへ武史の放った衝撃波が直撃する。
「グギャアアアアアアアアアア!!?」
大量のリザードマン達がレベルポイントの光を溢れさせながら上空へ吹き飛ぶ。だが、麻痺撃波から逃れ、かろうじて範囲攻撃から生き延びたリザードマン4体は、目の前を逃げていたパララもんを追いかけた。
「ひゃ〜!! まだ生きてるヤツがいたのだ〜!!」
「グギャギャ!!」
「ググッア!」
「ググアググア!!」
「グギ!!」
逃げるパララもんを追うリザードマン。その時、リザードマンの首筋に黒い楔が打ち込まれた。
「グ……ア゛……!?」
「おっと、パララに手出しはさせないぜ〜?」
リザードマン達がバタリバタリと倒れ込む。彼らの首筋に刺さっていた黒い楔……神経毒の牙が霧のように掻き消える。その攻撃は毒ダメージが極限まで強化された一撃。それはもはや、並のモンスターでは一撃で葬れる威力となっていた。
〈強えぇぇ!!〉
〈ポイズン社長もパララもんもめちゃ強くなってる!?〉
〈武史も強くなってるわよ!〉
〈フィリナさんもナイスフォローだお!〉
〈みんなすごいんだ!〉
〈感動なのだ!〉
〈拡散するのだ!〉
〈もっと見てほしいのだ!〉
ポイズン社長が周囲を確認する。
「ふぅ、これで片付いたかな? 武史、フィリナ、電気街方面の路地に逃げ込んだモンスターがいないか確認頼む」
「分かったで。ミネミちゃん達の所に戻るか」
「ふふっ。あの子、ずいぶん武史さんを慕っておりましたね」
フィリナの言葉に武史が顔を赤くする。彼はブンブンと頭を振ると、フィリナと共に電気街通り方面へと走っていった。
「線路沿いはアイツに任せてるから大丈夫か。いや、やる事だけやったら俺らもそっちへ行った方がよさそうだな……」
ブツブツと考え込むポイズン社長。そんな彼の肩をパララもんがトントンと叩く。
「ポイ君、アイルちゃんに頼まれた事やっていい?」
ポイズン社長は何かを思い出したようにドローンを操作した。
「お、そうだな。今が1番ベストタイミングだろうしな」
ポイズン社長の言葉を受けて、パララもんがドローンへ向けて両手を開く。
「みんなに告知があるのだ!! 2日後! 461さんパーティと鯱女王が東京パンデモニウムのボスへ挑むのだ!! アイルちゃんのチャンネルでボス戦を配信するから絶対見てほしいのだ〜!! SNSでも拡散してね!」
〈!!!?!???!?〉
〈は!?〉
〈東京パンデモニウム!?〉
〈嘘!?〉
〈ひゃだ!? 難関ダンジョンよ!!〉
〈新宿と合わせて2大難関ダンジョンなのだ〉
〈すごいのだ〉
〈クリアしたら東京完全攻略なのだ〉
〈しかも461さんパーティと鯱女王のコラボかよ!?〉
〈やっば拡散しないと!〉
〈私も仲間に言って色んな所で拡散して貰うわ!!〉
〈僕はモモチーに聞いたんだ!〉
〈もう拡散済みなんだ!〉
天王洲アイルからモモチーとパララもんへ頼んでいた事……それはこの秋葉原での戦いで注目を集め、東京パンデモニウムでの戦いを大々的に告知する事だった。
時間神エモリアとの戦いを世界の命運を賭けた戦いではなく、最難関ダンジョンのボス攻略として拡散し大量の視聴者を集める……これがエモリアを攻略する為の必須条件。パララもんは、その役割を果たすことができて胸を撫で下ろした。
「はぁ……これで大丈夫のはずなのだ」
「461さんにも感謝されるかもしれないぜ〜?」
「……うん。みんな大丈夫だよね」
パララもんが微笑みを浮かべる。その様子が以前より大人びていることに、兄は少し嬉しい気持ちになった。
探索者達が戦う中、裏で蠢くモンスターの姿があった。緑の小鬼ゴブリンの影。奴らが秋葉原の外へ出ようとした時、あの男がやって来る。赤いアイツがやって来る。
次回
461さんバズり録 第280話「赤い通り魔」
勝者ファイッ!!!