第267話 パーティの記憶。
──上野、不忍池ダンジョン「辯天堂」。
〜シン〜
不忍池中央にあった寺。そこから地下へ続く階段を降りてダンジョンへ潜った僕達。そこはアラタの言う通り、ボス部屋しかないダンジョンだった。
広大な地下空間。その中央に白い鳥型モンスターが待ち構えていた。
純白の孔雀のようなモンスター、ヴォークノスが。
ヤツは全高20メートルはあり、尾羽から広範囲の氷結魔法を放つ。461さんと賢人の2パーティに分かれて距離を詰めることでヴォークノスにダメージを与えたけど、翼を広げて飛翔したヴォークノスは僕達から再び距離を取ってしまった。
……。
「キュオオオオオオオ!!!」
ヴォークノスが尾羽を広げる。扇のように広がった尾羽。そこに無数に描かれた瞳の模様。そこから無数の氷の礫が放たれる。
「蒼は炎廻魔法で道を作ってくれ!」
「よーし!! やっちゃうヨ〜!!」
蒼さんが魔法を放つ。彼女の杖から放たれた炎が螺旋状に渦を巻き、ヴォークノスの氷弾を燃やしていく。それは雨のように降り注ぐ氷弾の中にできたトンネルのように、ヴォークノスへと道を作った。
「蒼は残って遠距離から援護してくれ! 賢人は頭部を頼む! バーンは俺と腹部を攻めるぞ! 賢人の存在に気付かせるな!」
「いっぱい撃っちゃうもんネ〜!」
「しゃあっ!! 頭部は任せとけ!!」
「行くぞ……!!」
蒼さんが連続で火炎魔法を放ち、アラタと賢人、そしてバーンさんがボスへ突撃していく。このメンバーの戦闘指示役はアラタで、それが上手く機能してパーティとしての強さを底上げしてる。12年前でここまで一体感のある戦いができるなんて……。
「ボーッとしておってはいかんぞシン! 左から賢人達が狙われておるのじゃ! フォローせい!」
シィーリアさんの言葉で我に返る。ヴォークノスの左側面を見ると、尾羽が湾曲し、そこに描かれた瞳が賢人達に向けられていた。461さんが僕の背中を叩いて走り出す。彼はチラリと背後を見ながら叫んだ。
「タルパ! 飛竜達でヤツの氷攻撃を妨害しろ! シンは俺と一緒にヤツの足元へ仕掛けるぞ!!」
「了解です!」
「はい!」
全力で461さんを追いかける。タルパちゃんの作り出した3体の子飛竜。彼らが僕の真横をすり抜けて、クルクル回転して飛び上がった。
「プキュキュキュ〜!」
「キュアアア!!」
「プキュ〜!!」
回転しながら電撃を吐き出す3体。それがヤツの尾羽に直撃する。魔法攻撃を放つ直前を狙われたヴォークノスは、電撃の威力に大きくのけ反った。
「ギュオオオオオ!?」
「助かったぜ〜!!」
「賢人! ヤツの気を逸らせてるんだから目立つ事するなって!」
奥から賢人が紫電の剣をブンブンと振る。アラタはそんな賢人に文句を言って、連続でヴォークノスの腹部に斬撃を放った。
「バーン!!」
「おう……っ!!」
アラタの連撃終わりにバーンさんが大剣での一撃を放つ。ヴォークノスは完全に2人に狙いを定めて怒り狂う。
ふと見ると、賢人がボスの背中をよじ登っているのが見えた。
「援護するなら……脚だな」
461さんがポツリと呟いてヴォークノスへ向けて駆け抜ける。そして、賢人達へ追い付くとヴォークノスの足元へ滑り込んだ。僕もそれに続いて足元へ飛び込む。
「シン! 関節を狙え!!」
「はい!!」
461さんと2人でヴォークノスの関節へ攻撃を加える。ヤツの脚がガクガクと不安定になるともう一方の脚へ走る。
「ギュオオオオオッ……!!!」
ヴォークノスは再び尾羽を広げて遠方へ氷の礫を放った。真っ直ぐ遠方へ飛んで行く無数の氷弾。アイツ……!? タルパちゃん達を狙うつもりか!?
「蒼!! 炎壁魔法で防御しろ!! 他の者も守ってやってくれ!」
アラタの指示で蒼さんが杖を構える。
「タルパちゃんとシィーリアちゃんは私の後ろに隠れてネ! 炎壁魔法!!!」
杖から放たれる炎壁魔法。炎の壁が、氷の礫から彼女を守る。しかし、氷を飲み込む度に炎の壁が小さくなってしまう。
「わわっ!? これじゃ消えちゃうヨ〜!!?」
「私の子達なら……!!」
タルパちゃんが手を高く上げると、子飛竜達が炎の壁へ小さな火炎ブレスを放つ。子飛竜達の火炎ブレスは炎壁魔法を大きく燃え上がらせた。電撃の次は火炎? あの子飛竜達、魔法を自在に操れるのか?
「シン、タルパ達は大丈夫だ。自分の役目に集中しろ」
「すみません……自分の役目に集中します!」
461さんに言われて右脚を攻撃する。途中で発生する踏み付け攻撃をローリングで躱して、連続でダガーで斬撃を加えていく。強固な皮膚が剥がれ落ち、傷口が開いた所で461さんはアスカルオを大きく振りかぶった。
「ゥオラァ!!!」
ヴォークノスの関節へ突き刺されるアスカルオ。ガクンとバランスを崩した白い孔雀。その胴体へバーンさんとアラタが一撃を加える。そして、ヤツの頭部に登った賢人が紫電の剣を叩き付けた。
「これで終わりだクソ孔雀野郎!!!」
ヴォークノスの額に突き刺される紫電の剣。次の瞬間、紫電の剣から流れ出した電流がボスの全身を巡った。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
一際大きな叫び声を上げて、ヴォークノスはゆっくりと地面へ倒れ込む。
「いよっしゃああああああ!!!」
賢人がヴォークノスの頭部から飛び降りる。倒れている途中という事もあり結構な高さだ。アラタとバーンさんが慌てて賢人を抱き止め、賢人は笑いながら2人の肩をバンバン叩いた。
「やったなぁおい! あのヴォークノスを討伐できるなんてよぉ!!」
「喜ぶのはいいが少しは落ち着けよ。賢人が怪我したら楓に怒られるのは俺なんだからな」
「この前も相当怒られたからなぁ……アラタは」
「わ、笑い事じゃないんだよバーン! バーンと蒼は良いよな……! 2人には優しいし、楓のヤツ」
ガヤガヤと騒ぐ賢人達。蒼さんもその中へ飛び込んで彼らに抱き付いた。
「うわあああああん!! 怖かったヨ〜!!」
「お前が1番ボスから遠かっただろ!!」
「俺が炎壁魔法の指示してなかったらどうするつもりだったんだ?」
「もうちょっと自分の頭で考えろよなぁ……」
「みんな酷いヨ〜!!! 蒼頑張ったのにぃ〜!!」
ワンワン泣き出す蒼さんに、賢人達がバツが悪そうな顔をする。しかし、蒼さんのは泣き真似で、夕飯を奢って貰おうとしていたと分かってまた3人から怒られていた。とにかく騒がしいパーティだ。騒がしすぎて収拾が付かなくなっていく。
──そうだ、いつもこんな感じだった。東京に来る前は小田原ダンジョンを攻略していたんだ。そこで賢人が今回みたいに飛び降りて骨折して……楓に死ぬほど怒られたんだったな。
懐かしそうに独り言を言う九条。その声に耳を傾けていると、肩を叩かれる。振り返ると461さんが僕の肩を叩いていた。
「良くやったぜシン。よく俺について動いてくれたな」
「あ、ありがとうございます」
「これ! 全体を指示していた妾のおかげじゃぞ〜!」
遠くでシィーリアさんが飛び跳ねて、タルパちゃんと子飛竜達がそれを宥めている。僕らも賢人達と似たような物かもしれないな。
──……ネギ女がお前の事チラチラ見てるぞ。
う、うるさいな! 今タルパちゃんの所ヘ行こうとしてたんだよ!
──ちっ。めんどくせぇヤツ。
「お前にだけは言われたくないって!」
僕と461さんはタルパちゃんとシィーリアさんの所ヘ駆け出した。
……それぞれのパーティに、それぞれの思い出や、物語がある。
もしかしたら……九条の雰囲気が柔らかくなったのも、その思い出を、空気を、目の当たりにしたのかもしれないな。
次回は461さん視点でお送りします。賢人パーティに攻略の打ち上げへ連行された461さん達。そこで461さんは賢人とある会話を……?




