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【461さんバズり録】〜ダンジョンオタクの無能力者、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまうw〜  作者: 三丈夕六


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第264話 帰還への望み

 桜田賢人と連絡先を交換して別れた後、シィーリアから連絡があった。妻恋坂交差点をまっすぐ登った先のビジネスホテル。そこの416号室と417号室を押さえたという連絡が。


 シンと2人で急いでホテルに向かい、フロントで鍵を受け取って416号室へ。ドアをノックするとタルパが出迎えてくれた。


「お帰りなさい2人とも。大丈夫でした?」


「なんとかなったけど、ずっと緊張しててヤバかったよ……」


 シンがため息を吐く。シンのヤツ、話したらボロが出そうだからってずっと黙ってたもんなぁ。その分俺が桜田賢人と話さなきゃいけないから俺まで焦ったぜ、ホント。


「いやぁ、アイテム運んだ礼させてくれって夕飯に誘われてよ、とりあえず明日一緒にダンジョン攻略するって話で納得して貰った」


 タルパと話しながら部屋の中へ入ると、シィーリアは窓から外の様子を眺めていた。


「妾の知っている伝説と合わせると……特異点が……そうなると……だが、それでは妾達は……」


 ブツブツと呟くシィーリア。窓に写るその顔は真剣で、声をかけていいのか迷ってしまう。俺達に気付いたのか、彼女はハッと顔を上げてこちらを見た。


「首尾はどうじゃ?」


「上手くいったぜ。明日一緒にダンジョンを攻略する事になった」


「ご苦労じゃったの。では状況の整理といこうか」


 ツインベッドの片方にタルパが座る。その隣にシン、もう1つのベッドにシィーリアが座り、俺は窓際に置いてある椅子へ座った。



「まず、飛ばされた時代から復習じゃ」



 シィーリアがもう1度説明してくれる。俺達は時間魔法を受けて12年前、2020年12月14日の秋葉原へ飛ばされた。



 そこでアイルの父親、桜田賢人と出会った。シィーリアによると、彼が元の時代へ帰る為の鍵らしい。



「だが、ここからが問題じゃ。ヨロイよ、妾達がこの時代へ飛ばされた時の事を覚えておるか?」


「飛ばされた時?」


 目を閉じると、俺に手を伸ばすアイルの姿が浮かぶ。ズキリと胸が痛み、頭を振ってさらにその前の事を思い出す。


 たしか、イシャルナを取り込んだ時間神……ソイツが光を放ったよな。時間魔法の光。それが広間の中心にある像へ当たって魔法陣が……。


 いや、違うな。


「そうだ、アレはたしか『紫電の剣』に当たってた」


「あ! そうですね! 確かに剣に光が当たってから魔法陣が現れてました!」


 タルパが思い出したように手を叩く。俺達の答えを聞いたシィーリアはコクリと頷いた。


「そう、紫電の剣はこの時代に飛ぶ為に祭壇へ設置されたのじゃろう。九条の願い(・・・・・)を増幅する為に」



 九条と戦った時の事を思い出す。アイツは桜田賢人の死を無かった事にする為、イシャルナに協力していた。



 という事は、俺達が帰る為に必要な「願いの中心」は……。



「5日後の12月19日。神田明神のモンスター流出事件。いや、時空の歪みによるモンスター出現が起きる。つまり……桜田賢人が死ぬ日じゃ。妾達は九条の願った日に飛ばされたのじゃ」


 桜田賢人に出会った事で察してはいたが。やっぱそうか。


「あ、あの……もし、もしもですよ? 私達が賢人さんを助けたらどうなるんですか?」


「それが問題……九条がやろうとした事と同じじゃ。もし助ければ、桜田賢人が助かった時間軸に飲まれ、妾達の時代が改変される事になる」


 シィーリアが深呼吸する。そして、今度こそはっきりと告げた。俺達に不都合な真実。帰る為に見つけなければならない願いの中心の事を。



「そして、帰る為の「願いの中心」は桜田賢人を救う事じゃろう」



 静まり返る部屋。全員がその言葉の意味を噛み締めているようだった。


 俺達のいた時代が改変される。それはつまり、守りたかったものが全部消えてしまうのと同じだ。


「今の妾達は時間魔法の力で改変は受けぬ。だが、他の者達は……ジーク達が……」


 そうなったら、向こうに残して来ちまったアイルに、リレイラさん達まで改変の影響を受けてしまう。帰った頃には、俺達の知らないみんなが向こうにいる事になる……か。


「俺達の時代が書き変わらない可能性は無いのか?」


「そ、そうです……九条と戦ってる時、九条は過去を変えても未来は分岐する。助かる世界もあると言っていました! なら、世界が分かれるだけかも……」


 すがるようなタルパの言葉。しかし、彼女の語気は話すほどに小さくなってしまう。分かっているんだ。それは九条と戦った時に俺達が否定した事だって。


 シィーリアはゆっくり首を振ったあと、スマホを取り出した。


 シィーリアがスマホのペイントアプリを立ち上げ、線を書く。「過去」と書かれた1本の線。その先に「現在=特異点」という黒丸が描かれ、そこから先には「未来」と書かれた線が無数に分岐していた。


「過去・現在・未来……この一連の時間軸は、過去と未来に明確な隔たりができてしまったのじゃ。妾達がいた時代(現在)で『時の迷宮』が起動した事によっての」


「なんだか、(ほうき)みたいな……変な形ですね」


 タルパの言葉にシィーリアがコクリと頷く。


「デタラメな形じゃろ? これが今の妾達がいる世界の姿。これが理を乱す神の力。時の迷宮が起動するまでの時間軸は1つ(・・)。過去を変えれば全てが書き変わる。じゃが、解放後は無限(・・)。無数の並行世界が生まれるのじゃ」


「その中心が時の迷宮で、その起動とあの神が出現するのだけは絶対発生するイベントってことか?」


「うむ、ヨロイの言う通りじゃ。家族や仲間を守りたいのならば、妾達に過去を変えるという選択肢は無い」


 タルパは、焦ったように俺とシィーリアを見た。


「でも、それじゃあ願いの中心は現れないじゃないですか! だって九条の目的は賢人さんの死の回避ですよね? それをしなかったら私達は帰れないんじゃ……」


「過去を変えると妾達の帰る場所が無くなってしまう。変えなければ帰れない。何か良い手を考えねば……」


 うんうんと考え込む2人。シンも先程からずっと考え込んでしまっている。



 俺が九条と戦った時、九条は死人の気持ちを勝手に決めるなと言った……ヤツの言葉には何かを感じた。悪意ではなくて、後悔のような何かを。



「なぁ、シィーリア。願いの中心がさ、口で言ってた事と違ったり、ここに飛ばされてから変わったりする事はあるか?」


「どうじゃろう……? 妾が知っている時間神の伝説ではそこまで詳細な情報は無かったのじゃ」


「そうか」


 なら……俺達はその可能性に賭けるしかないか。時間魔法は往復できるものだとシィーリアは言った。飛ばされたのが九条ではなく俺達(・・)だという事は、きっと俺達が望む通りの結果もあるはずだ。


 細い糸みたいな可能性だが、それを手繰り寄せるしかない。シンの中で眠っている九条に、生きている桜田賢人……幸い鍵になるものは全部俺達の近くにあるんだから。


「シン、九条に体を奪われないよう魔力を全部使い果たしてくれ」


 ずっと黙り込んでいたシン。彼は思う所があったのか、自分に言い聞かせるように呟く。


「分かってます。九条に体を奪い返されないようにして、アイツの願いを探るんですよね?」


 そう、今の俺達で最も答えに近いのはシンだ。シンが本当の答えを掴むか、それとも九条を説得できるかに全てかかっている。


「ああ、事件の発生までは時間がある。その間にできる事をやろう」


「……そうじゃの。この時代の九条にも接触すれば分かる事もあるかもしれんし」


「絶対掴んでみせます。タルパちゃんと一緒に帰りたいから」


「シン君……」


 タルパが熱のこもった顔でシンを見つめる。


 見つめ合う2人。部屋の雰囲気が急に甘ったるくなった気がする。居心地の悪さを感じていると、シィーリアがガックリと肩を落とした。



「はぁ……真剣な話をしておる最中にこの子らは……ヨロイ、ちと付き合え。茶でも飲みに行くぞ!」



「え、あ、シィーリアさん!?」


 タルパがシィーリアを引き留めようとするが、彼女はその手をスルリと避けた。そして俺の腕を掴んでグイグイと引っ張っていく。扉を出た所で彼女はドアの隙間から部屋の中を覗き込む。


「お主達には再会を噛み締める時間をやる。ただし! 不純な事は許さんからの!」


「僕達はそんなことしませんよ!!」

「な、何を言ってるんですか!?」


 2人の怒鳴り声が聞こえる。きっと2人とも顔を真っ赤にして怒っているのだろう。



まぁ、空気が重過ぎたからな。悩んでいても仕方がない事だし、俺達はこのくらい緩い方がちょうどいいか。



 ……俺は俺のできる事をやろう。なんとしても帰ってやる。どんな細い可能性でも掴んでみせる。絶対にな。




 次回はシンの視点でお送りします。タルパとのやりとりの中、眠っていたあの男が目を覚まします。内なる声と対話するシン。しかし、男の様子は以前からある変化が……?

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