表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

273/303

第260話 退屈、鯱女王

 ──2032年。


 東京都、乃木坂ダンジョン周辺地区……鯱女王のマンション。



 〜鯱女王〜



 符呪の模様を傷付けないよう慎重にガントレットの装甲を開いていく。中を覗くと、水を通すノズルに細かな亀裂が入っていた。これか……イァク・ザァドと戦って以降、鯱パンチの威力が想定より低かったんだよな。この傷のせいで圧力が逃げていたのか。


『ヤッホー流花(るか)ちゃん! ちょっと聞いて聞いて!』


「……」


 思い出しただけでゾクゾクする。都庁に叩きつけられた一撃、再生の能力……そのどれもが初体験だった。僕の魂から悦びが湧き上がる感覚……しばらく寝付けなくてヤバかった。あんな敵ともう一度戦いたいな。


 手探りで箱を漁り、ガントレットの第3ノズル交換部品を取り出す。新品のノズルに交換し、別の箇所へ。


『株主総会の話したでしょ? それがねぇ〜』


「……」


 うわぁ……内部構造がどれも傷んでる。相当ダメージ大きかったんだろうな。これはブーツも全部点検しないとな。


 早く点検終えないと次の攻略に行けないじゃないか。ここ最近は近場で体の慣らしをしていたけどそろそろ生死をかけた戦いをしないと……欲求不満で僕、死んじゃうよ。


『ホント信じられない! 株主のヤツら、もうニューモデルの発表を要求して来るのよ? 革新的機能を搭載しない新製品なんて何の価値もないっていうのに!』


「……」


 ……さっきから集中したいのに、邪魔者がずっと居座ってて集中できない。僕の周囲をドローンが飛び回り、そこからホログラムが写し出される。その光の先には、僕によく似た顔が映し出されている。


 その人物は、僕がめんどくさそうにしているのもお構いなしで自分の会社の愚痴を延々と聞かせて来た。


『それでねぇ……新型ドローンの開発用に良いテスターが居ないんだけどぉ。昔みたいにやってくれない? 鯱女王(オルカ)推薦モデルって箔もつくし』


「……うるさいな。僕は忙しいんだ。ママ(・・)の会社のテスターなんてやってらんない」


『そんな事言わないでぇ〜! ほら、株式譲渡してあげるから!』


「報酬に見せかけて勝手に経営陣に入れようとするのやめなよ。僕はドローン会社なんて継ぐ気無いよ」


『はぁ……初めてドローン開発した時はあんなに素直だったのにぃ〜』


 ママは目をウルウルと潤ませて目頭を押さえた。僕と似たような見た目でぶりっ子みたいな仕草するのやめて欲しい。気持ち悪いから。


 でも僕は知っている。この人のこういう仕草は演技だ。もっと内面はクレバーで自分の事しか考えてなくて、気が狂ってる。僕には分かるんだ。じゃなきゃ当時14歳の娘に探索者なんてやらせない。


「もう切るから。請求送っといて」


『あ!? 流花ちゃんはまた!』


 ママが暴れ出す前に蒼海のスキルを発動する。ペットボトルの中にあった水が空中に飛び出し、ドローンを包み込む。水球の中に閉じ込められたドローン。水球を圧縮して包み込んだドローンをグシャリと潰した。


『流花ちゃ──』


 ママの姿がプツリと消える。部屋が静かになって、やっと落ち着いた気がした。


 それにしても……。


「通話切る度に7ケタの請求書来るのも馬鹿らしいな」


 とはいえ集中を邪魔されるのは困る。僕は一刻も早くボスと戦いたいんだ。


 ガントレットを直しながら考える。ボス自体は久々だからとりあえず選り好みしないでおこう。


 六本木ヒルズのマザースパイダーは復活したんだっけ? 461が倒したクイーン化してるといいな。女王対女王……いいじゃないか。燃えるシチュだ。後は強ければ最高なんだけど。


 ちょっと遠出して日光東照宮に行くのもいいな。あそこのボスって何だったっけ? そう、確かエレパスとか言う象に似たボスだった。生態系が変わっていなければそのままいるだろうな。


 考えながら作業していると、突然インターホンが鳴った。



 ピンポーン。



 ……なんだ? 宅配とかは頼んでいないはず。


 ったく。せっかくママを追い出したっていうのになんだよ今日は。


「変なファンかもな。無視無視」


 ピンポーン。


 ブギ君なら喜んで入って貰うけど、彼の性格だったらいきなり押しかけて来たりしないはずだ。そもそも向こうから連絡して来ないだろうし。あ〜思い出したらイライラしてきた。あの掲示板のヤツらなんで邪魔するのさ。



 ピンポーン。



 ……しつこいな。



 通報するか? いや、警察が来たらもっと厄介になる。前の家は特定されたせいでめんどくさい事になったし。できれば居留守で乗り越えたい。



 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。



「あ゛ぁ!! うるさいな!!」



 腹が立ってドアホンの画面を付けると、高校生くらいの女子が映った。薄い青髪と紫のメッシュの入ったツインテールに、黄色いローブ。それに魔導士らしい杖を持った見知った少女が。



「ん? 461の相棒の……」



 天王洲アイルだ。そういえば、彼女からメッセージが数回来ていたかもしれない。攻略と関係無いから無視してたけど。



「邪魔されたく無いな」



 ドアホンを切ろうとした時、ブギ君の言葉が思い浮かんだ。新宿迷宮を攻略した後に掲示板で言われた言葉を。




 ──みんなに囲まれてる鯱女王見てると嬉しい気持ちになるんだ!






 ブギ君……。





 


 ……。





 (*^◯^*)スキナンダ!




 ふひひっ……可愛い……www



 ……よし、全然興味無いけど、頑張ってみよう。ブギ君の為に。



 ドアホンの通話ボタンを押す。すると、天王洲アイルが真剣な表情でカメラを見つめた。というかなんで僕の家を知ってるんだ? 誰にも言ってないはずだし、細心の注意を払っていたはず。なんでだ?



鯱女王(オルカ)のマンションよね?』



「……何のよう?」


『アンタ、神様と戦いたくない?』



 神様?



 画面の向こうの天王洲アイルは不敵な笑みを浮かべる。



『そう、イァク・ザァドよりずっとヤバいラスボスと戦うの。アンタの力が必要よ』





 神様……ラスボス……?








 なんだそれ。ふざけてるのか?








 ったく。







「そんなの戦うに決まってるだろ!!!!」






 僕は初めて人を招き入れた。






 次回から過去の章です。2020年の秋葉原に飛ばされた461さん達のお話。



補足


オルカママ:暮累花(くるいばな) 優姫(ユウキ) 45歳


 ドローンメーカー「ORIKAMI(オリカミ)」の代表取締役社長兼ドローン開発者。2019年まで玩具用小型モデルから農業、ビジネス、軍事用と多種多様なモデルのドローンを開発していた。

 

 ダンジョン出現後は政府のダンジョン調査用ドローンを開発。その際のテスターは14歳の娘鯱女王が行う事になった。鯱女王と並ぶと姉妹見間違われるほど美貌を維持している。人当たりは良いがドローン開発を何よりも優先する狂人。ショタ好き。



鯱女王(オルカ): 暮累花(くるいばな) 流花(ルカ) 26歳


 14歳でダンジョン探索者となったトップ配信者。2020年当時は探索者の年齢制限も無く、彼女が最年少であった。母親のドローン開発のテスターとしてダンジョン攻略を配信。彼女のスキル特化型の攻略は瞬く間に日本中を虜にし、ダンジョン配信文化の基礎を築いた。



【お知らせ】


本作461さんバズり録がアニセカ小説大賞の一次選考を突破しました!これもみなさんのおかげです!受賞したいな〜受賞してアニメの461さんを見てみたい!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 オルカ、性格も性癖も外見もオカン譲りだったのかww 漫画やアニメには「お父さんの遺伝子どこ…ここ…?」なキャラがたまに居ますが、オルカはそのカテゴリーのキャラだったんですね(笑)…
アニセカ大賞 第一次選考通過、おめでとうございます! アニメで動く【461さん】、見たいぞ~~!!! 【○の錬金術師】とか【進撃の○人】レベルの、激しいけれど雑じゃない動きで見てみたい! 残念なことに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ