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第258話 唯一無二の天敵

 〜天王洲アイル〜


 桜田カナ(未来の私)と名護さんの車に乗って、私は未来のリレイラの所へ向かっていた。桜田カナの説明で色々な事が分かった。


 もう1度、頭の中でおさらいしてみる。


 まず、ここは私達が時間神エモリア(イシャルナ)を倒して5年が経過した世界。


 私はエモリアの時間魔法を受けて、この5年後に飛ばされた。



 そして、私は未来の彼女達からエモリアの攻略法を聞く事で、エモリアを倒す。その具体的な方法は私が自力で思い付かないといけない……っと。ここまでシンプルに考えればなんとか状況は理解できるか。


 ま、まぁ失敗した時の事は今は置いておこう。


 でも私は今、猛烈に不満な事がある。


「ね、ねぇ? この時代のヨロイさんどこに……」


「その質問何度目? 言えないって言ったでしょ。私が聞いた事ない事を話したら時間軸が変わる可能性があるの。ちょっとは考えなさいよ」


 この未来の私(桜田カナ)の態度だ。何かに付けて馬鹿にしたような態度を取って来てめちゃくちゃ気分が悪い。私を助ける気あるのコイツ……!?


「ぐ、ぐぬぬ……腹立つ〜!!!」


「怒ってもしょうがないでしょ?」


「アンタのスカした態度が腹立つのよ! 「ちょっとは考えなさいよ」とか言う必要ある!?」


「はぁ……昔の私ってこんな子供だったかな」


「ムキーーーー!?」


 あからさまにため息を吐く桜田カナ。掴みかかろうとしたら頭を抑えられてギリギリで手が届かなかった。


「甘すぎ。リーチ考えなさいよ」


「ムキキーーーー!!?」


「まぁまぁ、2人とも落ち着くにゃ。カナちゃんも煽らないの。アイルちゃんが可哀想でしょ?」


「ナーゴ……さん。ありがとう〜!!」


「ナーゴはいつだってアイルちゃんの味方にゃ♡」


 名護さんのおかげでイライラしていた気持ちが収まる。さっき名護さんの事も教えて貰ったけど、それもビックリしたわね。


「名護さんがナーゴって事もビックリだけど、探索者まで引退してるなんて」


 名護さんは運転しながら、おかしそうに笑い声を上げた。


「私ね、ダンジョンの出現で無くなった料理とか、かなり再現できるようになったから自分のお店を出したんだ!」


「お店!? すごいわね!」


「ふふっ、ありがと! お店は毎日やってる訳じゃないからね、時間がある時みん……あ、ううん。カナちゃんのサポートをしてるんだ」


 そっか……ナーゴ、やりたい事をやりながら探索を手伝ってくれてるんだ……。


「探索者は辞めても私達仲間でしょ? だから何かしたかったの」


 微笑む名護さん。バックミラー越しにその顔を見て安心した。ここがいい未来なんだなって分かったから。


「すごいわ。私の時代のナーゴがお店出したら絶対行くからね!」


「ありがとにゃ♡」


 名護さんのおかげで随分気が楽になった気がする。


「名護さん、それ以上話すのは止めてくれる?」


「あ、ごめんね。カナちゃん」


 桜田カナが会話を打ち切ってしまう。なんだかピリピリしてて怖いわね。そこまで気を使わないとエモリアを倒す事はできないのかな?


 でも、桜田カナも今の私と同じ状況になったってことよね? 彼女も未来へ飛ばされて、そこで未来の私にエモリアの攻略法を聞いて……ああぁ……訳分からなくなって来たぁ……。


 でも、これだけは分かる。この世界は今の私にとっても理想的な結末を迎えた世界。だから、桜田カナはこの未来にたどり着くようにしたいって事ね。


 なら、話してくれないけど、きっと今のヨロイさん達も元気に暮らしてるハズ……! 流石に自分の言う事は疑いたくないし。


 ヨロイさん、心配だけど……きっと大丈夫よね? 私は、私のやるべき事に集中するよ。ヨロイさんと一緒に生きていきたい。生きていくって決めたから。




◇◇◇


「よっし! 着いたにゃ!」


 車で走って30分ほど、私達は霞ヶ関のダンジョン管理局へと到着した。名護さんがダンジョン管理局の地下駐車場へ車を止めて2人について階段を登っていく。



 入り口の職員に桜田カナがカードみたいな物を見せる。すると職員が私達を最上階へと案内してくれた。「執務室」と書かれた部屋。その中から声が聞こえて来る。


「リレイラ部長(・・)、この処理ですが……」


「ああ、探索者を力量以上のダンジョンへ送った件だな。明日、担当のユースタリアへ執務室に来るよう伝えておきなさい、私が直接指導しよう」


「え、ですが部長にそこまでさせなくても……」


「構わないさ。こういう事は直接でなければ伝えられないからな」


 ……リレイラ、部長になっているのね。でも優しそうな声は変わらないわ。



 だけど、桜田カナがドアをノックしようとした時、急に部屋に入るのが怖くなってしまった。



 私……1人で時の迷宮へ行っちゃったし、私のせいでヨロイさんが過去に飛ばされちゃったし……リレイラが怒ってたらどうしよう。ううん、嫌われていたら……。


 俯いていると、カナが私の頭にポンと手を置いた。見上げると、彼女は私から視線を逸らした。


「……心配しないの。リレイラよ? 怒る訳無いじゃない」


 少しだけ優しい声。さっきまで私を煽って来たのが嘘みたいだ。もしかしてワザとやってた?


 ……そういえば、イライラして怒ったら悲しい気持ちとか無くなったし。


 ま、まぁ少しだけ見直してあげるわ。


「いい? 入るわよ?」


「うん」 


 カナがドアをノックする。女性の管理局員とすれ違いに中へ入ると、そこにはリレイラが座っていた。


「アイル君……懐かしいな、その髪型」


 微笑んでくれる彼女。メガネはかけているけど、私の知ってるリレイラそのものだ。でもなんだろう? 少し違う気がする。私が知っているリレイラよりもっと優しそうというか……物腰が柔らかいというか……なんでだろう?


「こちらへ」


 リレイラに言われて来客用の席に座る。私の隣の名護さん、向かいにカナが座って、最後にリレイラが座った。


「ねぇ、シィーリアは?」


 聞こうとしたらカナにジトリと睨まれる。それで聞いちゃいけない事だと分かって口を閉じた。リレイラは私の事を見て笑って、そしてタブレット端末を差し出してくれた。


「アイ……カナ君。この子と話してもいいかな?」


「いいわ。その代わり、私が止めたらそれ以上は話さないで」


「そんなに気を張らなくても大丈夫だと伝えたろ?」


「ダメ、絶対に失敗できないの。それはリレイラも分かってるでしょ?」


 リレイラさんはやれやれというように肩をすくめて私を見た。その顔はとても優しげで、なんだか一緒にいるだけで安心するような気持ちになった。


「5年前……私は君に何もしてあげられなかった。だから、沢山用意しておいたよ。君の役に立てるように」


 リレイラがタブレット端末を操作すると神の姿が映し出された。


 全身プラチナのような色をした、翼の無いドラゴン。代わりに虹色のヒレが6枚。竜に似た顔に、額に埋め込まれたイシャルナの上半身……見間違えるはずがない。私が見た時間神の姿が。


「イシャルナ……」


「いや、これはもはやイシャルナ様では無い。イシャルナ様を取り込み、その願いを叶える為だけの存在……時間神エモリアだ」


 そこからリレイラはエモリアの事を教えてくれた。元々はリレイラ達の世界を作った原初の神の1人だという事、創生神エリオンが去った後もエモリアは残って、魔族達を見守っていたという事を。


「エモリアは我ら……エリオンの子供達を見守る内に愛情を抱いたようだ。だからこそ、いつかエリオンの子供が全てをやり直したいと願った時、やり直せるよう時間魔法を残した」


「愛情を? その為に危険な魔法を残すなんて厄介な神様ね」


「まぁ、気持ちは分からなくはないが……」


 ん?


 なんだろう? リレイラの様子が変。さっきも思ったけど、私の知ってるリレイラと雰囲気が少し違う。前より大人っぽくなったというか、どこか達観してるというか……なんでだろう? 部長になったからかな?


「すまない、話が逸れたな。次はエモリアの能力について説明しよう」


 リレイラがタブレット端末を操作して、時間神エモリアの持つ力を端的に解説をしてくれた。


 エモリアの能力は4つ。


 1つ目、時間魔法。


 これは私達を飛ばした能力に加え、自分自身の加速や、対象を遅くするといった自壊魔法(タイムクラッシュ)のような使い方もできるらしい。


 2つ目、次元魔法

イシャルナが使っていた魔法……彼女を取り込んだエモリアもこの魔法が使える。亜空間の門での回避能力に、一撃必殺の攻撃……イシャルナと戦った時の脅威がそのまま継承されてるなんて……厄介だわ。


 3つ目、ヒレと尻尾による物理攻撃。

 これは私も受けたから分かる。あのヒレは炎渦魔法を一瞬で消し飛ばすほどの威力だ。それに、あの尻尾攻撃も……食らえばただじゃ済まないだろう。


「そして最後の能力。これが最も厄介であり、これがある限りヨロイ君にエモリアは倒せない」


 リレイラが端末を操作し、エモリアの顔を拡大する。そこには目元にある10本の触角が写っていた。


「これだ。思念受信器官。元々は言葉を話せない生命と意思疎通を取る為の物らしいが……これが戦闘において圧倒的な脅威になる」


「それがある限りヨロイさんは勝てない? どういう事?」


 リレイラがメガネを外して私を見つめる。


「アイル君……ヨロイ君の強さの源泉とはなんだと思う?」


「え、経験じゃないの?」


「それもある。だが、それだけじゃないだろう? 彼の隣でずっと探索をして来た君なら」


 それだけじゃ、無い?


 ヨロイさんとの探索の日々を思い出す。


 ヨロイさんはいつも私達を引っ張ってくれた。初めて戦うモンスターも応用を効かせて、私にモンスターの倒し方を教えてくれたり指示をくれたり。パーティの時もそうだ。ヨロイさんを中心にみんなは動いて……ヨロイさんの、作戦で……。


「あ……分かった。ヨロイさんの強さって、「考える事」なんだ」


「そうだ」


 自分の戦闘経験をベースに相手を見極めて、弱点を探って、それを突く。ただの経験じゃない。考えて考えて考え抜いてヨロイさんはいつも戦っているんだ。


「だから、思考を読むエモリアはヨロイさん唯一の天敵なんだわ……」


「そう、流石ヨロイ君の相棒だな」


 そんな相手、倒せるの? 思考を読んで来る相手を倒すなんて、そんな事……。


「だからヨロイ君1人でエモリアには勝てない。君がやるべき事は、エモリアの思考受信能力を突破する事だ」


 思念受信能力の突破……か。どうしたら……。


 沈黙が訪れる。時計の音だけが響く中、うんうん唸っていると、リレイラが「さて」と言って立ち上がった。


「定時も過ぎた。まだ時間はあるからアイル君もゆっくり考えるといい。準備をするから少し待っていてくれ」


「え、願いの中心を見つけるのは?」


 今日中に見つけるんじゃないの? それにゆっくりって……。


 戸惑っていたらずっと黙っていたカナが私の肩を叩いた。


「明日の朝一で渋谷ダンジョンに行くわ。今日は私達の家に泊まって行きなさい」


 泊まるんだ……私、未来の世界で寝泊まりするの? そんな想定してなかったんだけど……!


「私が送って行くよ!」


「後は大丈夫よ名護さん。チャイルドシート積んで無いでしょ?」


 名護さんの申し出を、カナは申し訳なさそうに断った。


「しまったにゃ!? うぅ……せっかくユウちゃんを送るチャンスが〜!!」


「明日店が終わったら遊びに来てよ。私もお礼したいし」


「そうするにゃ! カナちゃんとも約束したし美味しいケーキを作ってお土産にするにゃ!」


 ん? 今なんだか聞き慣れない名前が聞こえたような……。


 その時、コートを来たリレイラが戻って来た。


「アイル君に合わせてもいいのだろう?」


「まぁね、私も会ったし」


 カナとリレイラがヒソヒソと何かを話している。リレイラが帰る前に寄る所があるというのでついて行く。どこに寄るのか尋ねたらリレイラはイタズラっぽい笑みを浮かべた。カナや名護さんを見ても、なぜか2人ともニヤリと笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。



 ……。



 訳も分からず1階までついて行き、妙な部屋に辿り着く。黄色や赤、青みたいなファンシーな色で彩られた部屋。リレイラ達と一緒に中へ入ると、エプロンを来た女の人がリレイラに挨拶をする。


 すると、部屋の奥から小さな影がパタパタと駆け寄って来た。



「ママ!!」



 黄色いダウンジャケットに、水玉のズボン……それに、赤い髪。小さな子供がリレイラに抱き付いた。リレイラがその子を抱き上げて私の方を向かせる。



「ほらユウちゃん、ごあいさつ」


「ごあいさつ? カナだよ?」


「ユウちゃんのお姉さんはそこにいるでしょ?」


「? あれ? なんでー?」


 目の前の子供が不思議そうに私とカナを交互に見比べる。



 え、どういうこと?



 え、え?



「え……ふぇ?」



 驚き過ぎて声が出ない。パクパクと口だけを動かしてしまう。



「きんぎょみたい!」



 リレイラに抱き上げられた子どもが私を見てケラケラ笑う。混乱していると、リレイラは笑みを浮かべて言った。



「私とヨロイ君の子だ」




「えーーーーーーーー!?」



 私の叫び声が、廊下に響き渡った。



 ……私、未来で驚きすぎじゃない?






 次回は一息回です。未来リレイラと未来アイルの家で一晩過ごします。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 「リレイラさんとアイルちゃんの子!?え?魔族って可能なの!?」と勘違いした、2人目で~す!  (´・_・`)ノ ヨロイさんがユウちゃんにデロデロなパパ(笑)になってるシー…
更新お疲れ様です。 もしかしてリレイラさん…?と思ったら、やっぱりお母さんになってたんですね。母になったからこそ、エモリアの気持ちに理解できる部分は有る…って雰囲気だったんですな。 最後の「私達の子…
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