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第246話 過去に引かれる者達

 〜天王洲アイル〜


 出発した私達は歩き続けた。中央にある神殿へ向かって敵を倒しながら先へ進む。九条とイシャルナのおかげでボスクラスの敵も難なく倒す事ができた。


 何度目かの戦闘の後、九条がしゃがみ込んで私の膝に手を翳した。


「大丈夫か?」


「大丈夫だから触らないで」


 断ったにも関わらず九条が魔法を発動する。モンスターの攻撃でザクリと切った傷。それが淡い光を帯びて何事もなかったかのように傷が治った。


「……こんなの回復薬かければ治るわよ」


「……」


 九条は何も言わない。怪我を治し終えると彼は魔力回復薬のボトルを取り出してゴクリと飲んだ。さっきも飲んでたわよね……魔力回復薬。なのにこのタイミングで回復させるって……回復は魔力消費が激しいの?


 そう思った時、イシャルナが「見えてきたぞ」と呟いた。イシャルナの立っている崖の端まで行くと、聞いていた神殿が目に入る。東京タワーの根本に融合した荘厳な雰囲気の建物。東京タワーを囲むように外壁があり、その内側には中庭と、中央に城のような神殿のような建物が見えた。


「あれが……東京パンデモニウムの中心……? あそこに行けばお父さんが……」


 崖から神殿を見下ろしていると、イシャルナに声をかけられた。


「あの神殿は真なる時間魔法を封印した場所……その力を使えば貴様の父が死ぬ事の無かった世界へと改変できるであろう」


「改変……」


 ここに来るまでに聞いていたけど、本当にそんな事ができるのかな……。


「信じられぬか?」


「……ううん、信じるわ。アナタ達魔族の魔法なら、できそうな気がする」


 歴史の授業で聞いた。魔族がこの世界の武器を全部消失させて、ダンジョンを転移させたって。そんな事ができる存在なら……時間を操作する事もできるかもしれない。


 それに……お父さんに会う方法はもうこれしか……。


 イシャルナの向こうでは九条も神殿を見ていた。悲しそうな顔……九条はお父さんの友達だと言っていた。アイツはどんな想いでここまで来たんだろう?


 急に、ミナセさん達の事が浮かんで何かが込み上げて来る。色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざって気持ち悪い。


 ミナセさんとユイさんへ九条が酷い事をしたのもお父さんのため……ジークに対しての怒り……でも本当はジークのせいじゃないと思う気持ち……お父さんに会いたい気持ち。今までの事が全部無駄だった事への虚無感。それが一気に押し寄せて来て、上手く頭が回らない。


 でも、あの神殿に行けば、全部なんとかなるような気がして、私はここまで来てしまった。ヨロイさんに何も言わずに……。


「うっ……」


 気持ち悪くて吐きそうになる。ごめんなさいヨロイさん。ごめんなさいみんな……。



 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。



 四つん這いになって、吐き気が治るまで頭の中で謝り続けた。大切な物を自分でグシャグシャにしてるみたいで、ずっと泣きそうで気持ち悪くて、でもお父さんには……会いたい。会いたいの……。


 しゃがみ込んでいるとイシャルナに背中を撫でられた。


「何も考えずとも良い。あそこに行けば苦しみも終わる。あと少しの辛抱だ」


「う、うん……」


 その時、空を見上げた九条が呟いた。


「ペラゴルニスの群れがこちらに迫っている。早くこの崖を抜けるぞ」




◇◇◇


 そこからさらに丸1日かけて東京パンデモニウムの中央、神殿へと辿り着いた。


 外壁の周囲を確認して、中に入れそうな入り口を見つける。そこを通り抜けて中庭へ。中庭ではモンスター達が無数に蠢いていた。黒い人影のような、不気味な存在。それが苦しげに呻いている。


「あ、あれ……何……?」


 あんなモンスター見たことがない。あの数を相手にするのは危険かも。


 イシャルナが一歩踏み出す。


「あの者達は深淵を歩く者(アビスウォーカー)と呼ばれている」


深淵を歩く者(アビスウォーカー)?」


「我らも正体を突き止めようとしているが、未だ掴めておらぬ。1番有力なのは死んだ者の思念。亡霊と言った方が良いかもしれぬ」


「それって倒せるの?」


「奴らは実体化している。頭部を切り離せば無へと帰る」


「切り離せば……ってあんな数どうやって……」


「我の魔法ならば可能だ」


 そう言うと、彼女が中庭へ入って行く。深淵を歩く者(アビスウォーカー)達がワラワラと彼女の元へと群がっていく。


「哀れな者達よ、消え失せるがいい」


 イシャルナが右手を上げる。すると、どこからともなく光の球体が彼女の右手に現れる。その球体を握りしめ、彼女は魔法名を告げた。



次元魔法・刃ディメンシオ・ブレイド



 次の瞬間、彼女の右手から真っ黒な剣が現れる。彼女がそれを薙ぎ払うと、中庭にいた深淵を歩く者(アビスウォーカー)達の首が一瞬にして消え去った。文字通り消えた。彼女の放った黒い斬撃に当たると、元からそこに無かったみたいに首だけが消失していた。


 バタバタと倒れる深淵を歩く者(アビスウォーカー)達。アイツらは少なくとも30体はいたはず。それを一瞬でなんて……。


「あ、アイツらの頭はどこへ行ったの!?」


「ここではない亜空間へ。彼らの頭部はこの世界から完全に消滅させた」


「この世界から……消滅……?」


 もし、自分がそんな攻撃を受けたら……体が震える。すると、イシャルナは私の肩に手を添えた。


「恐るな。それよりも……道は開けた。九条、伝えた通りに頼む」


「ああ」


 九条が中央の建物へ歩いて行き、扉へと手を当てる。大きな扉。その上部には時計のようなモニュメントがあり、長針と短針が3時15分を指していた。


「アレは資格を確かめる為のものだ」


「資格?」


「そう、九条の時壊魔法はあの扉を開ける鍵となる。時間魔法が後世に伝わった事の証を示す事で時の神より聖域へ入る許しを得る」


 九条が上を見上げて魔法を使う。するとモニュメントの長針が逆回転を始めた。


 2つの針が0時0分を指すと、周囲に大きな鐘の音が聞こえる。それに合わせるように、扉がゆっくりと開いた。


「さぁ行こう」


 私はイシャルナに背中を押されて神殿の中央へと入った。




◇◇◇


 扉の先は普通のダンジョンのような構造になっていて、モンスターを倒しながら最深部を目指した。神殿内を徘徊する深淵を歩く者(アビスウォーカー)達を倒し、「巨人ステルペスとブロンテス」という2体の1つ目巨人をイシャルナが消滅させて、さらに奥へ。



 長い通路を抜けると広間に出た。最奥に巨大な女性の石像と、その手前に祭壇が設置された空間。そこは静かで少し埃っぽい。イシャルナは聖域と言っていたが、まさにその通りの場所だなと思った。


「大きい……何これ……」


 目の前の像は、悲しげな顔で床を見つめている。座った状態で天井にまで至るその大きさに、思わず後退りしてしまう。


「時の神。この神殿に封印された時間魔法は彼女の力だ」


 イシャルナに導かれるように像の前へ歩いていく。石像の前には祭壇が設置されていた。


「この祭壇は時間を跳躍する者の望む時代を強くイメージさせるための物……剣はこの上へ」


 九条がその手に持っていた紫電の剣を祭壇の上へ乗せる。


「人は? 祭壇に捧げるのは人でも良いと聞いたが?」


「……石像の前へ」


 イシャルナに連れられて石像の前に立つ。上を見上げると巨大な石像と目が合った。哀れむような瞳に、また気持ち悪さが込み上げる。


「ここで待て。後は我がやろう」


「イシャルナ……さんはどうするの?」


「我はこの遺跡の力を起動する」


 そう言うと、イシャルナは石像へ向けて球体を掲げた。


「時の神よ、其方(ソナタ)へ竜王の宝玉を捧げよう」


 球体がまばゆいほどの光を放ち、石像の中へ吸い込まれていく。


 その瞬間、緑色の異世界文字が壁や天井へ無数に浮かび上がり、地響きと共にダンジョン中に異世界文字が広がっていく。


「時の迷宮が起動した。これよりこの場は特異点(・・・)となる」


 イシャルナが言っている事が分からない。思わず聞き返してしまう。


「特異点って何?」


「特異点はこの時間軸の中心。過去・現在・未来、全ての事象はこの時間、この場を持って決定される。過去は運命(さだめ)へ。未来は無数に広がる可能性の世界へと」


 どういう事だろう……ここで起きた事が色んな事に影響を与えるって事なのかな……。



「これより最後の段階へ入る」



 イシャルナが両手を開いて天を仰ぐ。



次元魔法・開門(ディメンシオ・ゲート)



 イシャルナの頭上に光が現れ、円を作る。その円の中は真っ暗な闇が渦を巻いていた。


「なんだそれは?」


 九条が尋ねる。イシャルナは、彼を横目で見て呟いた。



「亜空間への門だ。時間魔法はここよりさらに隔絶された空間へ封印されている。それを我が元へ呼び寄せる」



 イシャルナが亜空間の門へ手をかざす。彼女は悲しみとも喜びともつかない顔で、ポツリと呟いた。



「ついに……ついにこの時が来た。長きに渡る悲願。これで……創生神エリオンを殺す力が……」



 創生神を……殺す?



 その時、広間に少女の叫び声が響き渡った。



「イシャルナあああああああ!!!」



 通路を猛スピードで駆け抜ける2体の狼。その上には、シィーリアとタルパちゃん、スージニアが乗っていた。



 それに……。




 ヨロイさんが……。






 次回は少しだけ時間を巻き戻して461さん視点よりお送り致します。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 色々気になることがありますが、アイルちゃんが九条を嫌いつつ、指示に従ってるのが1番気になってるんですよね。 思考誘導されるような魔法か魔道具? もしそうなら、ヨロイさんブ…
更新お疲れ様です。 ホントギリギリのタイミングで到着!って感じですね鎧さんたち。果たしてイシャルナと九条の野望をぶっ潰すことは出来るか? ただちょっとだけ不穏要素=アイルの『お父さんに会いたい』とい…
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