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第226話 シンに届け

 〜タルパマスター〜


 ボスが消滅する。溢れるレベルポイントの光。いつもだったらどれくらいのポイントが入ったか気になるけど、今日はそうじゃない。心臓がうるさいほど高鳴って、手が震える。


「ここからよ。タルパちゃん、準備はいい?」


「はい」


 アイルさんがドローンを操作すると、ドローンのカメラが私を向いた。461さんが私を見てコクリと頷く。大きく息を吸ってカメラの方へと目を向ける。同時接続数も120万人を超えていた。


 言うんだ。この為にここに来たんだから。


「皆さん、今日は私達の配信を見て頂きありがとうございます。実は今日、伝えたい事があって配信を企画しました」



〈タルパマスターだ〉

〈伝えたいこと?〉

〈どしたん話きこか?〉

〈お知らせかな?〉

〈真剣な顔だお〉

〈大事な話なんだ!〉

〈新チャンネル開設とか……ではなさそうね〉

〈がんばれ:wotaku〉

〈気になる〉

〈ユニット結成とか?〉

〈それいいな〉

〈次もコラボ?〉



 大量に流れるコメント。みんな、私が何を言うのかと疑問に思っているようだった。


「新宿迷宮に挑んだ時、私はある人とパーティを組む約束をしました。だけど、その人はダンジョンを攻略した後から行方不明になってしまって……きっと、何かの事情で私と連絡を取れないのだと思います」



〈は?〉

〈なんだそれ〉

〈なんか流れが……〉

〈俺イァク・ザァド戦で見たかも〉

〈見たわ!かわいい男の子よ!〉

〈マジ?〉

〈タルパちゃんの彼氏?〉

〈ショックなんだけど〉

〈なんかコメ民怒ってる?〉

〈当たり前だろ〉

〈やめて〉

〈そういうの良くないよタルパちゃん〉

〈きっと大事な人なんだ!〉

〈配信までして健気だお!〉



 手を握りしめる。私のファンになってくれた人達はガッカリしてる。私のことを嫌いになるかもしれない、だけど……私は伝えたい。



 私のワガママだけど、それが私のしたいことなの。私がもし、配信者でいられなくなったとしても……。



「シン君。私は……君の事が好き、です。君とパーティを組んで、また冒険がしたい。それがどうしても伝えたくて……」



 それを言葉にした瞬間、涙がこぼれ落ちた。



〈!!?!?!?!!?〉

〈ええええええええええ!?〉

〈ひゃだ!?告白よ!?〉

〈がんばるのだ〉

〈ちょ、待て〉

〈頭回らん〉

〈はぁ?〉

〈素敵なんだ!〉

〈泣けるお!!〉

〈やるじゃん〉



 シン君とのことが頭に浮かぶ。



 あのビルで交わした約束のことが。



 私を助ける為にラムルザと戦ってくれたことが。


 一緒に461さん達に教えて貰ったことが。



 パララもん達を助けたことが。



 ……短い間だったけど、その全部が、私にはかけがえの無いものばかりだったから。



 少しの間のことだったのに、私って変なのかな? でも、好きなの。好きで好きで仕方ないの、君の事が……ちょっと気が弱くて、でもいつも誰かを助けたいって思っていて、一生懸命な君が。



 涙が止まらない。君の声が聞きたい。話がしたい。その顔が見たい。その手に触れたい。何気ない話をして、一緒に驚いたり、怖がったり、笑ったりして……冒険をしたい。色んな物を一緒に見たい。




 会いたい。




 会いたいよ……シン君。




〈いや、配信で言っても無理だろ〉

〈そういう所見たくない〉

〈配信者失格〉

〈推してたのに……〉

〈好きな男いるとか〉

〈騙された〉



 こういう事が嫌いな人もいる。私に裏切られたって思ってる人もいる。初めから分かってた事だ。この配信をやると決めた時から覚悟してた。ごめんね……みんな。でも、私は……。



「君を引き止められなかったのが最後なんて、嫌、なの……」



〈タルパちゃん、泣かないでぇ……〉

〈あんまり叩くなよ〉

〈泣いてるじゃん〉

〈可哀想だお〉

〈思いつめてたんだと思う〉

〈キツイ事言うのやめてあげて〉

〈そんな思いで攻略してたのね……〉

〈何とかしてあげたいんだ!〉

〈気持ち分かる:wotaku〉



 応援してくれる人もいる。だから私は自分の想いを伝えるだけ。それが今、私がやりたい事だから。



「シン君」



 笑顔で伝えないと。もしかしたらシン君も不安な気持ちになってるかもしれない。私が泣いてちゃ……笑顔を作るけど、涙が止められない。



「ま、待ってるから……ひぐっ、私、ずっと君のこと待ってるから……だから、お願い。声を聞かせて? また君に会いたいよ……」



 とめどなく涙が溢れて来て、私はそれ以上話せなくなってしまった。それ以上言葉が伝えられなくて俯いてしまう。アイルさんが私のところにやってきて、そっと抱きしめてくれた。



「見てくれたみんなにお願いがあるの。タルパちゃんのメッセージを拡散してくれない? みんなが協力してくれたら、今の言葉もきっとシンに届くと思うの」


 

 嗚咽が止まらない。アイルさんは、私の背中をさすりながら言葉を続けた。



「みんな、この方法を選んだタルパちゃんの想いを、覚悟を……分かってあげて」



〈悪かったって〉

〈もう泣かないでぇ……〉

〈しゃあないな〉

〈俺、切り抜きあげてくるわ〉

〈俺も〉

〈僕はスレ立てするんだ!〉

〈じゃあツェッターで拡散するお!〉

〈私、知り合いにまとめサイトの管理人いるのよね〉

〈ネキが強すぎる〉

〈俺もなんかやってみる!〉

〈推しが泣くとこ見たくないしな〉



 目の前に大量のコメントが流れていく。もっと厳しいコメントが来ると思ったけど、みんな優しいコメントばかりだった。


「ありがとう……みんな」


 私は、色んな人に助けられてる。ずっと1人だった昔と違う。色んな人と仲良くなれて、助けて貰って。ここにいる。でも、シン君は今1人かもしれない。孤独だと思っているかもしれない。


 違うよシン君。


 みんなが私に協力してくれたのは……461さんや、アイルちゃんや、みんなが君を心配してくれたからでもあるんだよ? 君がみんなの仲間だから。




 お願い。



 どうか、シン君に届いて。





次回掲示板回です。今回の攻略を見たスレ民達は……?

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 リスナーの皆さんは「しょうがないにゃあ…」と力を貸してくれそうですが、我々読者はシンの現状を知ってるからなんか悲しくなりますなぁ…。本当に「シン!この、バカ野郎!」とアスラ○ボイ…
タルパちゃん応援民が優しい!! クックックッ……粘着ユニコーンどもは、真っ赤に燃やされ倒れるがいい!!(魔王ブーム) タルパちゃんが涙をこぼす姿に、【竜とそばかす○姫】の挿入歌『はなればなれ○君へ』…
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