第2話 461さん、配信される。【配信回】
「アイルだっけ? ほら」
アイルに小瓶を渡す。
「何よこれ?」
「毒耐性薬だ。ドラゴンゾンビは毒霧ブレスを使う……吸い込みそうになったら早めに飲め。耐性付くから」
「わ、分かったわ」
「じゃ、お前は距離取れよ!」
アイルを残してドラゴンゾンビへと駆け出す。
「グルオオオオオオオオオオ!!!」
まずは懐に飛び込まないとな。
〈461さんwww無茶すんなw〉
〈Dランクじゃ無理ぃぃぃぃ!!〉
〈アイルちゃん……死なないで……〉
〈探索者名『461さん』ってふざけすぎじゃね?〉
〈装備ザッコw〉
〈ダンジョン舐めんな〉
ん?
耳元に何か飛んでる。
横目で見るとさっきのドローンが飛んでいた。
鬱陶しいな。
顔の近くを飛ぶドローンを手で追い払う。
〈うっざw〉
〈画面揺れひどっ!?〉
〈酔うじゃん……〉
〈調子乗んな!〉
アイルに視線を向けるが、彼女は部屋の隅で心配そうに見てるだけ……自動で飛んでるのか?
まぁいいや。集中しよ。
「グルォ!!」
ドラゴンゾンビが頭上で尻尾を二度振る。薙ぎ払い前のモーション。ここから3秒後に尻尾薙ぎ払い攻撃が来る。
3。
〈ドラゴンゾンビ怖えぇ〉
〈はいはいwアイルちゃんに良いとこ見せたいの分かったからww〉
〈どうして461さんすぐ死んでしまうん?〉
〈ミンチとか見たくね〜〉
2。
〈やめとけおっさん〉
〈死ぬ死ぬw〉
〈アイルちゃん早く逃げてええ!!〉
〈グロ勘弁してくれよマジで〉
1。
〈だから逃げろって!〉
〈お前じゃ無理〜!!〉
〈はい逝った〜!!!〉
〈無謀すぎ〉
0。
──来る。
カウント終了と共に立ち止まりバックステップする。
「グルアアアアアアアア!!」
尻尾によって起こされた風が暴風のように襲いかかり、ドラゴンゾンビの薙ぎ払いが目の前を通り過ぎた。
よし。カウント通り。体は覚えてるな。
〈!?!??!???!?〉
〈えええぇぇぇぇえええ!?〉
〈はあああああああああああ!?!?〉
〈えええええええええええええ!?〉
〈は? え?〉
〈避けた!?〉
〈ギリギリじゃん!?〉
薙ぎ払いが終わる前に一気にドラゴンゾンビの懐に飛び込み、ショートソードで2回切り付ける。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
怒り狂うドラゴンゾンビが強靭な脚を叩き着ける。それをローリングで避け、再び斬撃を放つ。
〈怖えぇぇ!〉
〈よく動けるな〉
〈普通の動きに見えるのに〉
〈攻撃読んでる?〉
「グウウウウオオオオオオオ!!!」
ドラゴンゾンビが翼を広げ舞い上がり、空中から俺へと狙いを定めた。
空中からの突撃は安置がある。この位置からだとヤツの左脚へ飛び込めば……。
「グルアアアアアアアアア!!」
翼を広げ急降下するドラゴンゾンビ。その左脚目掛けて真っ直ぐ駆け出す。
〈なんで突撃w〉
〈ヤバすぎだろ!〉
〈今度こそ終わった……〉
〈逃げろって!!〉
ドラゴンの爪が俺を捕える刹那。大地へと飛び込み。再びヤツの足元に潜り込む。
頭上をドラゴンの爪が掠めた。
うぉっ! 今回はギリだったな。
〈!!?!!?!??!?〉
〈えええええぇぇぇぇ!?〉
〈2回目!?〉
〈なんで当たんねぇんだよ!?〉
〈未来予知スキル!?〉
……ヤツの口がひくついてるな。そろそろブレスが来る。
「アイルだっけ? そろそろ毒霧ブレス来る! 毒耐性薬飲んどけよ!!」
アイルに注意を促し、袋から取り出した毒耐性薬を取り出す。ドラゴンゾンビへと意識を向けながら耐性薬を一気に飲み干した。
〈なんか飲んでるw〉
〈余裕だな〉
〈回復薬?〉
〈ダメージ喰らってねぇだろ〉
その直後。
「カアアッ!!」
ドラゴンゾンビが口から霧状のブレスを吐き出した。
〈毒霧ブレスかよ〉
〈アイツ、ドラゴンの攻撃モーション覚えてんのか〉
〈結構配信見てる俺でも初めてのモンスターなんだが?〉
〈なんでそんなヤツ知ってんだよ〉
毒耐性薬で毒は効かない。ブレス後の隙をついて再びヤツへと近づきショートソードを突き刺した。
「グアアアアアアアア!?」
雄叫びをあげて倒れるドラゴン。その腹部、心臓がある場所を連続で斬り付ける。
「ギャアアアアアアアア!?」
竜が苦しみの声を上げる。心臓の名残はドラゴンゾンビの弱点。そこに攻撃を加えることで通常の何倍ものダメージを与えることができる。
〈ドラゴンゾンビ倒れたぞ!〉
〈いけるいける!〉
〈もっと攻撃しろ!!〉
〈地味だけどSUGEEE!!〉
「よっと」
ドラゴンに不穏な動きを感じ、ローリングして距離を取る。
〈あ、バカ!〉
〈もっといけるだろ!〉
〈ダウンしてんだぞドラゴン!!〉
〈これだから素人はよぉ……〉
直後、ドラゴンが起き上がりと同時にその尻尾を薙ぎ払う。その尻尾はガリガリと大地を抉り取った。
〈っぶねぇ〜!?〉
〈起き上がり攻撃まで読んでたのかよ〉
〈紙一重w〉
〈お前らごめんなさいは?〉
〈ごべぇ゛ぇ゛ん゛〉
〈ええんやで〉
「行くぞ!!!」
尻尾攻撃が終わると同時に全力疾走する。
そして、ドラゴンゾンビの胸に再びショートソードを突き刺した。
「グギャアアアアアアアアアアアアア!!!??」
辺りに響く断末魔の絶叫。のたうち回るドラゴンゾンビに何度もショートソードを突き刺す。すると突然、ドラゴンは糸が切れた人形のように地面へと倒れ込んだ。
〈うおおおおお!!〉
〈倒したあああああ!!〉
〈おっさんやるじゃん〉
〈ヤベェ……鳥肌立った……〉
〈思わず録画してたわ〉
脚でドラゴンゾンビの顔面を何度か押す。動かないことを確認してから腰のダガーを引き抜いた。
ドラゴンゾンビの素材も採集しとかないとな。
ダガーを突き刺し、肉を切り裂いた。体の中に手を突っ込み、ドラゴンゾンビの骨を取り出した。
〈ぎゃあああああ!?〉
〈グッロwww〉
〈モザイク入れろや〉
〈ちょっと興奮してきたw〉
〈コメ民に変態がいる〉
「な、何やってんの?」
ふと気づくとアイルが後ろに立っていた。震える体を両手で抱きしめながら。
「見たら分かるだろ。素材を採取してんだよ」
「そんなの採取してどうすんのよ?」
「メリカリで売るんだが?」
〈メリカリwww〉
〈メリwwwカリwwwww〉
〈生活感wwwwww〉
〈メリペイ生活?〉
〈おもしれwww〉
「め、メリカリ……」
アイルは困惑したような顔をした。
……。
その日。ダンジョン配信者、天王洲アイルの配信を通して461さんのドラゴンゾンビ戦は全国へと配信された。
ダンジョン配信者ラルゴは天王洲アイルを脅したことで大炎上。その情報はネットに広く拡散された。それと同時に、461さんは瞬く間に話題になり、ツェッターでもトレンド1位になるほど人々の注目を集めることとなった。
第2話をお読み頂きありがとうございます!次回は掲示板回になります!
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