閑話 利己の支配者
──旧都庁、北棟45階。
〜司祭 ズィケル〜
私の前にダルクが膝を付いた。
「司祭様、奴らが城へ侵入致しました。半数はラムルザを配置した南棟に向かったようです」
「分かった。こちらの棟は問題無いだろうな?」
「はっ。既に各階への戦士の配置は終わっております。まもなく私も配置へ」
ダルクが私を見つめる。完全に私に心酔している眼。この城にいる者達ならば、命を賭けて人間どもと戦い、自らの光を私へと献上するだろう。
「頼りにしているぞダルク。ガランドラが死に、ラムルザが信用できぬ今……お前だけが頼りだ」
「ありがとうございます……っ! 命に変えても司祭様をお守り致します!」
そう言うと、ダルクは身を翻して階段を降りていった。
……狙い通り、人間共はこの城を同時に攻略する事を選んだようだ。
入り口に竜人の戦士達を配置すれば、彼らは私がいる棟を必死に守るだろう。そうなればヤツらは支配者の位置に気付き、北棟に戦力を集中させてしまう。それは避けたい所だった。
だからこそ、私はあえて入り口を開け放ち、上階から守りを配置する事で人間共を惑わせることにした。疑心暗鬼となったヤツらは戦力を分け、2つの棟を攻める他ないだろう。
戦力を分けた人間は、時間をかけて私へと向かい、適度に我が同胞を殺す。こちらの数を相手に砦の時のような加減はできぬだろう。私の命を脅かさず、我が同胞だけを殺させる。それこそが私の狙い。
竜人が死のうが私にはどうでも良い事だ。私が生き残ればそれでいい。それだけで目的は達成される。
竜王の像に置かれた宝玉を手にする。宝玉の中では集められた光がウネリをあげているのが見えた。
宝玉はまもなく満たされる。私はまもなくイァク・ザァドになれるだろう。
だが、砦の者達の光が想像よりも少なかったのが残念だ。彼らの命がもっと献上されていれば、今頃私はイァク・ザァドになっていた。
報告によると人間共は砦の者達が下位の者であると分かっていたようだ。でなければ、恐怖を与えて戦意を削ぐことなどしないはず……まるでワザと見逃したようだ。なぜだ? 我らの情報を流した者がいるのか?
「考えても仕方ない。それにしても……だ」
逃げ出した竜人共。なんと情けない。我が糧になる事こそがお前達の存在理由であるというのに。
……逃げた者達にも後で後悔させてやろう。皆殺しだ。
あぁ、手のひらから宝玉の鼓動を感じる。力の解放はすぐそこまで来ている。楽しみだ。
ついに私は真の自分となる。
ズィケル・イァク・ザァド。
良い名前ではないか。新たなる支配者の名にふさわしい。
変異した後、この魔法障壁内の全ての生物を喰らい尽くし、私は外の世界へと旅立つ。全てを滅ぼし、支配下に置く為に。
人間共……お前達を待つのは、真の絶望。神の力だ。神となった私が直々に殺してやる。
今のうちにせいぜい仮初の勝利を味わっておくがいい。
本日は予定を変更して閑話をお送りしました。次話は10/21(月)12:10.に投稿します。