第182話 集結する探索者
〜シン〜
「……と新宿駅構内はこのようになっています。東側に抜けた後は志村さんという方を探して下さい。このビルにいるはずなので」
スマホのマップに印を付ける。志村さん達がいるはずのビル。彼らの所に行って協力して貰えば、この2人もなんとかなるだろう。
「協力できず、申し訳ない」
「ごめんね、どうやってもアイツらに勝てる気しないから……」
ガランドラ達を倒した後、ヤツらに襲われていた来堂さんとミーナさんを新宿駅まで送り届けた。彼らがそう思うのも仕方ないと思う。実際、ラムルザと戦った僕には分かる。圧倒的な力の差。それを思い知らされた訳だから。
僕達は運が良かったんだ。461さんに助けて貰えて、色々教えて貰えたから何とかなってる。彼らに同じ事を求めるのは……無茶だろう。
「志村さん達によろしく伝えて下さい」
「ああ……伝えておくよ」
「タルパちゃんも死んじゃダメだからね? 若いんだから無理しちゃダメだよ」
「ありがとうございます、ミーナさん」
ミーナさんがタルパちゃんの手を取って色々と話をしていた。僕も来堂さんと少し話をしてから、構内に入っていく2人を見送った。
……あの人達の為にも、絶対にクリアしないと。
「ありがとなぁシン〜タルパちゃん〜……」
「ありがとなのだぁ〜……」
隣にはおいおいと泣くポイズン社長とパララもん。ポイズン社長とパララもんはアレからずっとこんな様子だった。
「いや、僕達は……」
「そうです、助けてくれたのは鯱女王さんですから……」
僕もタルパちゃんも恐縮してしまう。実際、彼らを助けたのは鯱女王だし……彼女がいなかったらガランドラとまともに戦えなかった。
突然背中がバンと叩かれる。振り返ると武史さんが笑みを浮かべていた。
「いや、鯱女王を連れて来てくれたから助かったんや。2人のおかげで間違いないで」
「彼女にもお礼は言いましたが……よく分からない方でしたし……やはり貴方達のおかげだと思うのです」
エルフのフィリナさんは寂しげな顔で上を見上げた。その視線の先には、モニュメントの上で遠くを見つめる鯱女王。彼女はアレから何も話さず、ただ僕達に同行してくれていた。
実際、何を考えているか分からないからなぁ……ヤツらが神を復活させようとしてるの聞いて、ワザと復活させる為に竜人に協力したりしないよな? 流石に僕達を襲ったりはしないと思うけど……。
これからどう鯱女王を言いくるめようか考えていると、彼女は何かに気付いたように声を上げた。
「シン、タルパ、言っていた迎えが来た」
鯱女王の視線を追う。物凄いスピードで木々を飛び移る人影。その影はクルリと空中で回転すると、僕達の前に降り立つ。
その人物は見知った人だった。体にフィットした銀色装備の探索者、ジークリードさんだ。タルパちゃんが461さん達の迎えが来るって言ってたけど、彼だったのか。
「げっ。ジークリード……っ!?」
武史さんがあからさまに嫌そうな顔をする。ジークリードさんもそれに気が付いたのか無言で顔を逸らした。何かあったのかな? この2人。
ま、まぁとにかく、僕達探索者側はこれでほぼ全員が揃った。これからどう竜人と戦うか考えないと……。
◇◇◇
〜461さん〜
ジークの案内で探索者達が俺達の潜んでいたオフィスビルに集結した。
早速情報共有をすることになり、ビルの会議室に入って貰う。室内を囲むように四角に並べられたテーブル。そこに全員座って貰うよう指示した。
俺を中心にアイル、ミナセ、ジーク、ナーゴ、シン、タルパ、武史、パララもん、ポイズン社長が席に座る。勝者マンは部屋隅の地べたにドカリと座り、勝者ナイフの手入れを始める。
鯱女王は椅子を引っ張って窓際に行き、足を組んで座った。最後に、オロオロとしていたフィリナという女性をパララもんが手を引いて連れていき、武史とパララもんの間へと座らせた。
話し出そうとすると、ミナセが俺を止めた。
(どうしたミナセ?)
(鎧さんこういうの苦手でしょ? 私が司会役やるよ?)
……まぁ、確かに話をまとめるとか苦手だしな。ここは任せるか。
そのことを伝えると、ミナセは立ち上がって部屋に設置されたホワイトボードの前まで行く。
「お〜! こうやってみんな揃うと壮観だねぇ♪ 司会役はミナセがやるよ〜」
ミナセが促して、初対面の奴は軽く挨拶を交わす。フィリナの自己紹介には流石に驚いたが。
挨拶を終えると、今までの取りまとめとしてミナセが情報を書いていく。そこには「これまでのまとめ」と大きな文字で書き、その下に俺達が見聞きした事を書き始めた。
「ミナセさん、6ちゃんねるの情報も加えて欲しいわ」
「沢山書いてあったのだ!」
アイルとパララもんがホワイトボードの前に出て、情報を書き加えて行く。すると、以下の情報がまとめられた。
敵 竜人。
目的 竜人の神、竜王イァク・ザァドの復活
方法 探索者からレベルポイントを奪う
指導者 司祭 唯一レベルドレインを使える
幹部? ラムルザ△、ガランドラ×
部下? ダルク◯、ベイルスト◯
特徴 人と同じ知能、スキル、魔法を持つ。人を超える身体能力も保有。リザードマンを使役している
状況 都庁が棲家? 都庁に近付けないように砦を築いている。
◯が存命で×が倒したヤツってことか。ラムルザは1度撃退したから△……こう見ると、まだ全然相手の戦力削れてないな。
「ジーク。さっき外に出た時砦を見たか? 竜人はどれくらいの規模だった?」
「……ざっと見たところ30体ほど。リザードマンも加えると100体近くあの砦にいるかもしれない」
「えぇ!? そんなにいたんですか!?」
「その量の敵を倒すなんて……」
シンとタルパがゴクリと唾を飲む。話を聞いていたポイズン社長は腕を組んで唸り出した。
「誰もレベルドレインされずに司祭倒さなきゃならないのかぁ。結構キツイかもな〜」
「ポイ君は一回死んでるのになんでそんな軽いのだ!!」
竜人達の目を盗んで都庁の司祭を倒す……か。なんか気に入らないな。
考えていると、ジークが懐から金色の腕輪を取り出した。
「情報に加えてくれ。これは竜人の1人が捨てた物だ。『贄になりたくない』そう、ソイツは言っていた」
「贄になりたくないかにゃ?」
「カズ君、それって本当にそう聞こえたの?」
「ああ。ヤツらはリザードマン達に指示する為に翻訳魔法というのを使っていた。だから間違い無いだろう」
フィリナがジークに駆け寄って腕輪を見せてくれと言う。腕輪の裏側を見た彼女はハッと息を呑んだ。
「こ、これは……レベルドレインが符呪されています。それも転送魔法まで……これって……」
動揺を隠せない顔をするフィリナ。ジーク達も彼女の動揺ぶりに困惑している。俺が代わりに聞くか。
「その符呪はどういう魔法なんだ?」
「これは……装備した者が倒された時、レベルポイントを吸い上げて特定の場所に送る為の符呪です。そのように、術式が構築されています……」
特定の場所に? それってつまり……。
フィリナは深呼吸すると、悲しげな眼差しで俺達を見回した。
「私達が捕まっても竜人を倒しても、レベルポイントは集められイァク・ザァドは復活してしまう。この戦いは私達の……『詰み』です」
彼女の一言に、部屋の中は静まり返った。
次回、絶望的な状況を知ったみんなに461さんがある事を……?