第181話 謎の腕輪
〜461さん〜
ロード・デザレアを倒した俺達は勝者マンと共に先へと進み、旧都庁を目指した。しかし、途中に「ある問題」が発生したことで、俺達は近くにあったオフィスビルへと入り作戦を考えることにした。
植物に侵食されておらず、中に入ることのできるビル。その8階へと登り、窓から森を抜けた先へと目を向ける。
そこには、竜人の群れが砦のような物を作っていた。砦には武装した竜人。そこから少し離れた所には木製のやぐらが作られ、リザードマン達が周囲を警戒している。
時折リザードマンを連れた竜人が森へ入っていくのも見える。厳重だな。あそこを突破しないと都庁には近付けない。どうするか……。
これが発生した問題だった。
「見て、リザードマン達もあんなにいるわ」
「杖を持ってる竜人も。魔法に注意だね」
隣からアイルとミナセも顔を覗かせる。しかし、その顔に怯えは無い。冷静にヤツらの戦力を見ているようだ。2人とも肝が据わったな。
「ちょ!? 勝者マン! こんな所で爆槍魔法使うんじゃ無いのにゃ!」
「勝者! ……」
ナーゴが、魔法を発動しようとした勝者マンを止める。勝者マンは天に掲げていた手を下ろしてシュンとした。肩を落としてシュンとする姿は、無表情だが悲しそうだ。ナーゴのヤツ……勝者マンだけには当たりが強くねぇか?
その様子を見ていると、アイルがふいにスマホを取り出した。
「何かあったのかアイル?」
「えっとね、タルパちゃんからメッセージが……って、え?」
アイルが驚いたような顔になる。
「どうした?」
「タルパちゃん達、パララもん達と一緒にいるらしいわ。竜人に捕まりそうになってた探索者達を助けて、新宿駅まで送り届けたところみたい」
パララもん……ってことは武史達と一緒ってことか。
「さっき竜人が何人か森に入っていったことを伝えた方がいいぞ」
「ヨロイさん、タルパちゃん達と合流しない?」
合流か。確かにな……この辺りで一度情報交換するのもありか。何ならあの砦は同時に攻略してもいいかもしれない。
「そうだな。アイツらを迎えに行くか」
そう言った時、今まで黙っていたジークが俺の所までやって来た。
「なら、俺が彼女達を迎えに行こう」
「いいのか?」
「問題無い。俺だけの方が早くシン達に合流できる」
「分かった。消音魔法使ってやるよ。気付かれにくくなるぜ」
「頼む」
ジークに消音魔法をかける。彼は一度ミナセに視線を送り、コクリと頷くと部屋奥の窓を開けた。
「あの木から木を伝っていけば……」
ジークが窓から飛び出す。彼は一瞬の内に向かいの木に飛び移り、木から木へ飛ぶ様に移動していった。
「アイル。ジークが迎えに行くことを伝えておいてくれ」
「分かったわ」
◇◇◇
〜ジークリード〜
木々を飛び移りながら森の中を進む。
一際背の高い木へ飛び移り、脳への閃光を発動。急速に緩やかになった世界でシン達を導くルートを探す。
奥に竜人達がいる……森に入った竜人達は東へ向かっているようだ。合流を急がなければ。
三角飛びの要領で大地へと降り、再び閃光を発動。新宿駅に向かって駆け抜ける。そしてコクーンタワー付近まで戻ってきた頃、男女2人の竜人が目に入った。
俺達が倒したロード・デザレアの事を見て何かを話している。調査しているのか?
ヤツらの動きを観察する。何かを話しているようだが……。
竜人達が魔法を使い、口元に魔法陣を浮かび上がらせる。そして森の奥に声をかけると、リザードマンが数体現れた。女の竜人が一歩前に出る。
「ロード・デザレアを倒した人間を目撃していない?」
「グア?」
「ググア」
女の竜人の質問に顔を見合わせるリザードマン達。その様子に女の竜人が困ったような顔をする。
「そう……他に気になる事はなかった?」
「グア」
「グッグア」
「この子達、何も知らないってさ」
「……もういい。お前達は周辺の捜索に戻れ」
イライラした様子で男の竜人が声をかけるとリザードマン達は森の奥へと走り去っていった。2人の竜人は、首を傾げながらロード・デザレアの死骸を脚で踏み付けた。
「これ、人間がやったと思うか?」
「まさか。ロード・デザレアを倒せるなんてダルクとベイルスト2人がかりでやっとだと思うし」
「ガランドラ様を倒した者もいるんだぞ」
「そ、そうだけどさ……」
男の竜人がため息を吐く。
「俺はこの周辺をもう少し調査する。ヒュリスは南に行った部隊と合流してくれ」
ヒュリスと呼ばれた女の竜人は、走り出そうとして、ふと足を止めた。右腕に付けた金の腕輪を訝しげに見つめ、男の竜人へ声をかける。
「それにしてもさ、この腕輪……どう思う?」
「どう思うとは?」
「私はなんだか嫌な感じがするんだよね。ダルク達、拒否すらさせないって雰囲気だったし……」
突然、男の竜人が声を荒げた。
「お前……そんなことを言って恥ずかしくないのか!? 仲間よりも自分が大事か!?」
「い、いや……そういう訳じゃ無いって。はは……そんなに怒らないでよ〜」
「……早く行け」
ヒュリスが走り出す。俺はヤツらが言っていた腕輪の事が気になって、ヒュリスの後を追う事にした。
森の中を駆け抜けるヒュリス。しばらく走った彼女は、急に立ち止まると周囲をキョロキョロと見渡した。見つからないよう大木の後ろに隠れて様子を窺う。
あんな所で何をするつもりだ?
誰もいないと判断したのか、ヒュリスは右腕に付けていた腕輪を外した。
「私は……死んだって贄になんかなりたくない」
ヒュリスが金の腕輪を地面に埋める。そして懐から同じ形状の腕輪を取り出すと、右腕に付けて奥へと走っていった。
ヒュリスが見えなくなった後、周囲を確認して先ほどの場所へ行く。
「確かここに埋めていたはず」
地面を掘ると程なくして金色の腕輪が現れる。土を払って裏側を見ると、そこには符呪の模様が刻まれていた。施された2つの符呪。なんだこれは? 後でみんなに見て貰うか。
懐にその腕輪をしまい、俺は再び新宿駅を目指した。
次回……ついに探索者達が……?
次回は10/13(日)12:10投稿です。
よろしくお願いします。