第161話 461さん vs 竜人の剣士ラムルザ
〜461さん〜
俺の周囲をドローンが飛び回る。ラムルザはそれには一切目を向けずに俺へと突撃した。
「貴様の腕前……見せて貰おうか!!」
放たれる一撃にアスカルオの刀身を当て、軌道を逸らす。軌道を変えられたヤツの一撃は、地面に剣で深々と傷を付けた。ラムルザが俺の剣をジロリと見て目を細める。
「並の剣なら叩き折っていた所だが……そうか、聖剣アスカルオの使い手か」
聖剣を知っている? いや、それよりも今の一撃……動きこそ遅いが威力だけならシィーリアに匹敵するレベルだな。
〈どういう状況!?〉
〈配信始まったと思ったらしゃべるモンスターがいるんだ!?〉
〈まーたスキルイーターか〜?〉
〈え:wotaku〉
〈ウォタクニキ解説頼む!〉
〈……知らない:wotaku〉
〈は?〉
〈ウォタクさんが知らない相手なんだ!?〉
〈すまない:wotaku〉
〈それヤバくね?〉
〈46さん、アイルちゃん死なないでぇ……〉
「よもや聖剣の使い手がこの地にやって来るとは……面白い!!!」
ラムルザがロングソードを構える。袈裟斬りに放つ一撃、ヤツの手を注視して軌道を予測。紙一重で斬撃を躱す。
「これも避けるか!? いいぞ貴様。さすがに聖剣の使い手なだけはある! だがどこまで耐えられるかな!?」
連続で放たれる斬撃を躱し、剣でいなし、生まれた隙にアスカルオを叩き込む。しかし、俺が放った一撃をヤツの剣がいなしてしまう。すぐさま反撃を放つラムルザ。相当な使い手だなコイツ。今まで戦ったヤツと格が違う。
「はっ!!」
「っぶねぇ!?」
俺の鼻面を通り過ぎた剣が風切り音を上げる。それだけでヤツの威力が分かる。剣での戦闘技術は以前戦った式島以上。パワーはシィーリア並み。恐らくヤツの剣をモロに食らえば装備ごと真っ二つにされるだろう。
〈防戦一方じゃん!?〉
〈461さん大丈夫!?〉
〈てか相手強くね?〉
〈強い:wotaku〉
〈やっぱり強いんだ!?〉
〈逃げた方が良くないか!?〉
ヤツの動きを確かめるように回避にだけ集中する。後ろにいるアイルへ向けて右手のひらを見せる。この3週間の中で決めたハンドサイン。次の合図を待てというサインを。
「さぁ!! もっとお前の腕を見せてみろ!!」
ヤツが再びロングソードを薙ぎ払う。それをバックステップで避ける。ヤツが飛び上がりジャンプ斬りを放つ。その渾身の一撃をローリングで避けて次の攻撃に身構えた。大地を砕く一撃……良くこれだけのパワーで連続攻撃ができるな。
〈うわああああああ!?〉
〈当たったら即死だろ!?〉
〈この威力っ!!〉
〈受けても死にそうやんけ!?〉
〈どうすんの!?〉
〈きっと大丈夫なんだ!〉
「もう避けるだけで手一杯なのか!? 貴様の力もその程度か!?」
ヤツの太刀筋、言動……ラムルザは純粋な剣士だな。自分の能力に絶対的な自信を持つタイプか。
「これ以上の力が無ければ終わらせてやろう!!」
アイルに電撃魔法のハンドサインを送る。横目で見ると、アイルは3本のナイフを構えていた。
「死ね!!!」
ラムルザがその巨体からは想像もできない速度で踏み込む。
〈速ァイ!?〉
〈どんな身体能力しとんねん!?〉
〈逃げてええええ!?〉
〈461さんなら勝てるはずなんだ!〉
〈いやでもヤバいやろ!?〉
〈ウォタクニキもおらんやんけ〉
〈ヤバババババ〉
「これで終いだ!!!」
袈裟斬りで放たれる高速斬撃。だが、ヤツの巨体にしては速いだけだ。式島の抜刀スキルの方がまだ僅かに速い。
なら……対処もできる!!
ラウンドシールドを構える。
「バカが!! そんな盾ごと叩き切ってやろう!!」
「俺がただ防御用にシールド装備してる訳ねぇだろ!!」
狙え。角度を合わせろ。
ミスれば死ぬ……ヤバイな……。
……。
めちゃくちゃ脳汁出る。燃えて来るぜ!!
ラウンドシールドをヤツの斬撃軌道に合わせ弾き返す。
〈!?!!?!?!?〉
〈パリィした!?〉
〈あの小さい盾だと難易度高すぎだろ!?〉
〈ヤベェ!?〉
〈さすが461さんなんだ!〉
「これを返すか!?」
驚愕の表情を浮かべるラムルザ。ヤツの首筋めがけてアスカルオの一撃を放つ。
「オラァッ!!!」
「うおおおおおお!?」
ラムルザが体を仰け反らして斬撃を避ける。次の攻撃をさせまいと間合いを詰め、鍔迫り合いに持ち込む。ギリギリと刃がぶつかり合う中、ラムルザが笑みを浮かべた。
「良いぞ貴様……っ! その首、意地でも貰いたくなった!!」
〈嘘だろ!?〉
〈さっきの攻撃避けられたやんけ!?〉
〈やっぱアイツ強ええええ!?〉
〈本当にリザードマンか?〉
〈しゃべるリザードマンなんて見たことないぞ〉
〈461さん!! 頑張ってほしいんだ!〉
ヤツの顔は喜びに打ち震えている顔だ。その顔を見て悟る。ヤツにとってこの戦闘は死合い。意地とプライド、そして命を賭けた戦いという訳だ。
「本気でいくぞ鎧の男!!!」
ヤツが一瞬後ろに下がり、もう一度踏み込む。踏み込みと同時にラムルザが剣撃を放つ。ローリングで回避し距離を取った。ラムルザの野郎。心の底からこの戦闘を楽しんでるって顔だな。今、ヤツの中では命を賭けた「剣士の戦い」が繰り広げられているらしい。
……。
だが、残念だったなラムルザ。俺は剣士じゃない。戦闘で勝つためなら全てを使う「探索者」だ。
「はあああ!!!」
ヤツが俺の懐へと飛び込み剣を薙ぎ払う。バックステップで避けると同時に腰のナイフを投擲する。ラムルザが両目を大きく見開く。剣士同士の戦いで飛び道具が使われるとは思わなかった顔。ヤツが咄嗟に左腕で体を庇う。直後、ヤツの左腕に深々とナイフが突き刺さった。
「ぐぅっ!? 私に傷を付けるほどの業物か……っ!?」
「アイル!!」
「待ってたわ!! 電撃魔法!!」
後方からアイルの電撃魔法が放たれる。ラムルザの左腕を狙って撃ち込まれたそれは、ナイフに吸い込まれるように直撃した。
「ぐああっ!?」
ラムルザが小さな悲鳴をあげた。アスカルオを構えて全力で走る。
〈ダメージ受けた!?〉
〈でもまだ平気そうじゃん!〉
〈電撃魔法じゃ威力が弱いんだ!?〉
〈ダメージ与えられないと勝てないって!〉
〈頼む……っ!〉
「ぐ……っ!? 卑怯な……っ!」
「俺は自分が剣士なんて一言も言ってねぇぞ!!」
「クソがあああああ!!」
ヤツが右手で剣を下段に構え、魔力を解き放つ。剣に集約する魔力。技を使う気か。
〈なんかデカい技来そう!〉
〈うわあああああああ!?〉
〈魔力がハッキリ見えるんだが!?〉
〈あんなん無理だって……〉
〈絶対! 大丈夫なんだ!!〉
タルパマスターの話によるとヤツの技は相当な威力。なら、発動前に潰すのが正解だな。
「デケェ技でもよぉ! 発動できなけりゃ意味ねぇよなぁ!!!」
ヤツが剣を放つ直前にアスカルオを全力で投げ付けた。
「なっ!? 聖剣をっ!?」
〈うええええええ!?〉
〈聖剣投げたw〉
〈もったいねぇ!!〉
〈相手もビックリしてるやんけw〉
〈何やってんだよ!〉
〈すごいんだ!!〉
縦に回転しながらラムルザに向かう聖剣アスカルオ。ヤツは聖剣が到達する前に技を放つのは無理と悟ったのか、剣でアスカルオを弾き飛ばした。
生まれた隙。逸れる思考。腰のダガーを引き抜き、ヤツの顔面へと飛びかかる。
「オラァァアアアアアアアアアアア!!!」
渾身の力でヤツの左眼にダガーを突き刺した。
「ギャアアアアアアアアァァアアア!?」
〈うおおおおおお!?〉
〈マジか!?〉
〈目は流石に効いたんちゃう!?〉
〈これはダメージデカいって!〉
〈死角ねらえ!〉
周囲に響くラムルザの叫び声。ヤツを蹴って飛び退き、アスカルオへ向かって全力で走る。
「よし! アイル!! もう一度だ!!」
「そうだと思ってちゃんと準備してたわよ!」
アイルが速雷魔法の帯電したナイフを連続で投げ付け、杖を構えた。
「脳みそに直接流し込んでやるわ!! 電撃魔法!!」
空中を飛ぶ3本のナイフ。その最後方の1本に電撃が直撃。前を飛ぶナイフへと電撃が伝播する。速雷魔法の力で増幅された電撃が、ラムルザの左眼めがけて放たれた。
電撃を迸らせながら、アイルの魔法がラムルザへ向かう。
1本目のナイフ。電撃魔法のエネルギーが増幅される。
2本目。空中を走る電撃の線がより大きく、より強力に。
3本目。周囲を包み込むほどの雷光へと変化する。
この威力の電撃……しかも左眼のダガーを媒介に体内へ直接ダメージを与えられる。頑丈なヤツもタダじゃすまないはずだ。
〈これはヤバい!!〉
〈第3部完!!〉
〈フラグやめろ!〉
〈でも流石にもう無理やろw〉
〈いけええええええ!!〉
〈勝って欲しいんだ!〉
「ぬ、ぬ゛おおぉぉぉぉ!」
雄叫びをあげるラムルザ。ヤツは剣を高く上げた。
アイツ……剣を捨てて電撃魔法を受け止めるつもりか?
脳裏に品川でのブリッツアンギラ戦がよぎる。剣を投げれば電撃を誘導できる。
「させるか!!」
急いでアスカルオを拾い上げ、ヤツに向けての投擲体勢に入る。再びアスカルオを投げ付けようとした時、ヤツはナイフが刺さったままの左腕を電撃へ向けた。
「なに?」
左眼へと向かっていた電撃。それがラムルザの左腕に刺さったナイフに反応し、軌道を変える。
「何をするつもりなの!?」
「ぐ、うおおおおお!!!」
雄叫びを上げたラムルザは、左腕を剣で斬り落とした。
〈ええええええええ!?〉
〈自分で腕斬ったんだ!?〉
〈アイツも何考えとんねん!?〉
〈グッロ!!!!!〉
〈怖えぇ‥‥〉
「があああああああ!!!」
屋上に響くラムルザの声。増幅されたアイルの電撃は、切り落とされた腕のナイフに吸い込まれるように直撃し、ヤツへ電撃ダメージを与えなかった。
「アイツ……自分の腕を犠牲にして、ダメージを受けないようにしたの……?」
アイルが驚きの声を上げて後ずさる。ラムルザは、膝をつきながら左眼に刺さったダガーを引き抜いた。カランと響く金属音。血走った右眼でラムルザが俺を睨み付ける。
「があ゛っ!? はぁ……はぁ……貴様らぁ……っ!!」
「……お前、なんで腕を切り落とした? 剣で電撃魔法を受け止める方法もあったろ?」
「はぁ……この剣は我が半身……剣を捨てるなら、腕を捨てた方がマシだ……」
コイツ……片眼と腕を無くしてもまだやる気かよ。
再び剣を構えた時、奥の祭壇から司祭が叫ぶ。そこにはタルパの呼び出した人間大ぬいぐるみに追い詰められた司祭の姿があった。タルパも無事他のヤツらを助けられたみたいだな。
「何をやっているラムルザ!! もういい! 撤退するぞ!!」
「はぁ……はぁ……いいか鎧の男。次に会う時はその首、貰い受ける」
ヤツと視線を交わしたその瞬間、司祭が魔法名を告げた。
「移動魔法」
魔法陣が司祭とラムルザの足元に現れ、2人がその姿を消す。しばらく周囲を警戒していたが、ヤツの気配は完全に消えていた。
〈消えた!?〉
〈そんな魔法あり?〉
〈マジなんなんアイツら〉
〈ウォタクニキもいなくなったな〉
〈初めてのことばっかりだったんだ!〉
〈次の配信もヤバそうだなぁ……〉
「みんな、急に配信しちゃってごめん。またツェッターで詳細ツイートするね」
〈全然いいんだ!〉
〈2人とも無事で良かった〉
〈ツェッター更新待ってるで〜ノシ〉
〈頑張ってアイルちゃん!〉
〈461さんもアイルちゃんも死なないでぇ……〉
アイルが手を振ると、ドローンがアイルの手に着地する。彼女は、ドローンをカバンにしまうと抱き付いて来た。
「ヨロイさん大丈夫?」
答える代わりにその頭にポンと手を置く。
「さっきの魔法、ありがとな」
「うん……良かった。流石にヒヤヒヤしたわ」
俺の胸に顔を埋めるアイル。確かにアイルからしたら心臓に悪い戦い方したかもな。
あのラムルザってヤツ。相当な使い手だった。
言葉を話し、聖剣の存在を知る竜人達。あの技。どことなく感じる魔族に近い雰囲気。もし俺の勘が当たっていれば……。
アイツらは、モンスターじゃないかもな。
次回はラムルザ視点のお話。竜人達の棲家へ帰ったラムルザと司祭は……? ヤツらがなぜレベルポイントを集めているのかも分かります。
次回更新は9/13(金)12:10です。よろしくお願いします。
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