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第142話 愚か者の末路

 〜探索者 オーヴァル〜


 目が覚めると誰もいない公園にいた。仮設ステージの撤収も終わった真っ暗な公園……。その中でたった1人で目が覚めた。


 誰もオレに気付かなかったのか……? 気絶していたのに?


 起き上がってショートソードを拾う。意識がハッキリしてくると、徐々に怒りが込み上げて来た。


 クソクソクソ!! 461の奴、アイルちゃんの前で恥かかせやがって!! アイツのせいでパーティメンバーもみんな辞めていきやがった!


 次に戦えば、絶対にオレが……そうだ。


 アイツが無防備な時に殺してやろう。確かアイツは毎日ランニングしてるとツェッターで見たことがあるな。上手くダンジョン周辺に呼び出してナイフで後ろから刺してやれば……ふふっ。アイルちゃんは1人になる。



「それを俺が支える……」



 そうすれば今度こそ、アイルちゃんは俺を選んでくれるだろう。そうだ、この手でいこう。461にオレを怒らせたことを後悔させてやる。



「待ってろ461。絶対にお前を殺してやる!」




「はぁ……お前は本当にクソな探索者だな」



 突然、後ろから声が聞こえる。振り返ると、黒いスーツを着た男が立っていた。両ポケットに手を突っ込んで、高そうな腕時計をした男。20代後半だろうか? ソイツが、哀れむような目で俺のことを見ていた。


「なんだお前……? クソな探索者とはどういうことだ? このA級の」


「お前、461がC級だからってヤツの功績を不正で得た結果だと思っていただろ? そしてその461にタイマン張って負けた、と。今どんな気分だ?」


「あ、アレは油断しただけだ!」


「事実を認める器も無い。クソだお前は。サッサと探索者なんてやめちまえ」


「んだと……お前っ!?」


 男は、見下すような眼はそのままに言葉を続けた。


「力量も分からない。パーティメンバーからの信頼も無い。暴食のハイドラ討伐もお前の力なのか?」


「ふざけんなぁ!! アレはオレが殺ったんだ!! オーヴァル様を舐めんなよテメェ!!」


 ショートソードを引き抜く、ヤツの懐に飛び込み(スキル)を放った。



「乱撃斬・桜花!!」



 体が淡く光り、攻撃のモーションに入る。ヤツの首筋にショートソードの切先を向ける。ヤツは防御すらできていない。貰った! その首斬り飛ばして……ってあれ?


 なんだ? 腕が、重い。目の前にヤツの首があるのに、どれだけ力を込めようとも動かない。


 訳が分からないまま男を見ると、男は真っ直ぐオレの顔を見つめていた。


 まるで自分の周囲だけスローモーションになったかのようだ。ヤツは、懐をゴソゴソと漁りだした。それもなぜか普通の速度で。俺だけが遅いのか? コイツが何かをしたのか? 何をされたんだ、俺は……。


「お……あ……う……」


 上手く話せない。クソ、なんだこれは……。


 男は、俺の耳元に顔を近付けるとボソリと囁いた。


「お前、ここで逃したらまたアイツ(・・・)を狙うだろ?」


「え?」


 何を言ってるんだ、この男は……。


 そう思った矢先──。


 胸元に鋭い痛みが走った。


「がは……っ!?」


 かろうじて動く目だけを動かし、下を見る。すると、俺の胸にナイフが深々と刺さっていた。


「な……なっ!? お゛ま゛っ……」


「じゃあなオーヴァルさん」


 突然、地面に叩きつけられる。先程まで俺の体を重くしていた感覚は無くなっていた。しかし、今度は手足に力が入らない。


「ごふっ……な゛んだごれ゛は……」


 やっと捻り出せた声と共に、口からゴボリと血が吹き出した。か、体が動かない。早く回復薬を……っ!


 しかし、焦りとは裏腹に、意識が遠のく。頭が回らなくなっていく。周囲にできた血溜まりが、オレがもう助からないと告げているようだった。い、いやだ……なぜオレが……。


「スー。処理しとけ」


「了解」


 消え入りそうな意識の中、ヤツの声と女の声が聞こえてきた。


「よく耐えたね。他のヤツに任せたら良かった」


「今回の仕事は俺しかやれるヤツがいない。そんなこと分かってるだろ? 長谷部がゲロっちまったからな」


「……管理局と亜沙山が手を組むと思わなかった」


「これも想定内だ。それより、俺はしばらく消える。指示頼むぞ」


「分かった。気を付けてね、九条様」


「終わったら迎えに来い」


「了解」


 淡々とした会話。去って行く男。九条……九条ってどこかで聞いたことがあるな……。


「あ、まだ生きてた」


 思い出そうとした時、俺の顔を女が覗き込んだ。真っ青な髪の女。無表情のソイツが片手を上げると、魔法陣が現れる。


「グルルル……」


 そこから現れる3匹の狼型モンスター。これは……召喚魔法? 探索者でも召喚魔法を使えるヤツがいるのか?


 3匹の狼は召喚した女に体を擦り付け、彼女の顔をジッと見つめた。


「このまま処理して」


 女が命令すると、狼達が俺へと向き直る。コイツ……俺を食わせる気か!?


 逃げようと思っても指一本動かせない。


「や゛め゛……」


 狼が迫る。体が動かない。嫌だ。やめろ。オレはまだ死にたく……。



「バイバイ」



 狼が飛びかかる。喉元に鋭い痛みを受けたあと──。



 俺の意識は、無くなった。







 次回は探索者達専用スレの掲示板回です。


次回は8/18(日)12:10投稿です。どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バイバイ、オツヴァル君、乙。 ヨロイさんたちが手を汚さなくて済んで良かったです。 オレの最強技(笑)をパリィされた時点で、戦闘技量の差が理解出来なかった、残念野郎でしたね。 [気になる…
[良い点] 更新お疲れ様です。 …ここで九条商会の再登場ですか。改めてワケ解らん奴等ですね…世界観的に異世界側がラスボス(?)になりそうな雰囲気でしたが、九条にもラスボスフラグが立った感じですなぁ。…
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