第140話 461さんパーティ、格の違いを見せ付けてしまう
「グオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!」
精霊デュフォエウスが俺達に向かって腕を振り上げる。さっきの突風攻撃か。
アレは衝撃波のように直線上に放たれる攻撃だ。軌道を読んで散開すれば避けられる。
「ジーク!! ナーゴを頼む! 最初の一撃は連携攻撃で行く! ミナセもジーク達に!」
「了解した!」
「分かったよ〜!」
ジークがナーゴに肩を貸し、閃光を発動する。ミナセも金色のロッドをクルリと回転させると、速度上昇魔法を発動して大きく飛び退いた。
「よし! アイルは俺の所に来い!」
「うん!」
アイルを抱き上げて、全力でバックネット側の観客席に向かって走る。観客席の下に窓みたいになった場所がある。あそこなら踏み台にできるな。
「グオオオオオオオオォォォ!!!」
デュフォエウスが腕を薙ぎ払い、突風が放たれる。先程よりも強い威力。風によってえぐれた大地がすぐ目の前を通り抜ける。観客席の魔法障壁にぶつかり、探索者達から悲鳴が上がった。
「きゃあああああああ!?」
「地面が飛んできた!?」
「さっきより威力上がってる!」
「無理だって!」
「A級6人が手も足も出なかったんだぞ!?」
「逃げろよ!!」
突風攻撃を避けた瞬間、アイルを降ろす。アレはモーションが大きい。冷静に見れば対処可能だ。それに、俺達が散開した今となっては別の攻撃手段を取るだろう。
「お前のアイデアを使う。やり方は覚えてるな?」
「大丈夫。任せて」
「杖にも魔力を溜めておけ。氷結晶魔法を撃てるようにな」
アイルがコクリと頷き、腰から3本のナイフを抜く。
「速雷魔法!」
バチバチと電撃を帯びたナイフを握りしめ、アイルが走っていく。野球場の外野側。その直線上でミナセがジークに攻撃上昇の魔法を重ねがけしているのが見えた。
「グオォォォォ!!!」
デュフォエウスがジーク達に狙いを向ける。ヤツの脚から無数の蛇が現れ、群れをなした蛇がジーク達へと襲いかかった。
「囲まれちゃった!?」
「蛇がいっぱいにゃ!?」
武器を構えてジークを守るミナセとナーゴ。今ジークに波動斬を撃たせると、紫電の剣の再チャージを待たなきゃいけない。それを分かっている動き……この1週間のコンビネーション訓練が活きたな。
アイルに視線を送ると、彼女はコクリと頷いた。そして右手に杖を構え、ミナセ達に飛び掛かろうとする蛇の群れへと向ける。
「氷結晶魔法!!」
杖の先端から氷の結晶が放たれる。それが蛇の群れに当たり、全てを飲み込むように凍り付かせる。冷気が蛇の群れを伝播し、デュフォエウスの足首まで凍らせてしまった。
「グオォッ!?」
「めっちゃ効いてる!?」
「氷結晶魔法って中級魔法でしょ!?」
「なんであんなに威力が出るんだ!?」
「弱点なの……?」
「なんで分かるんだよ!?」
あの精霊は部位によって複数の属性を持ち合わせている。そのヒントがリレイラさんの詠唱だ。確かにこれは試験向きの精霊だぜ。
あの詠唱に胴体は含まれていなかった。そして、あれほど大きな傷が刻まれていたのはなぜか?
そこが、ヤツの弱点だからだ。
「ナーゴ! そっちの蛇お願い!」
「分かったにゃミナセちゃん!」
ミナセのロッド、ナーゴの手から出たクローが目前に迫っていた蛇達へ叩き付けられる。凍り付いた蛇はガシャリと音を立てて砕け散り、ジーク達に道が生まれる。3人がそこを走り抜けたのを確認して、アイルが地面へとナイフを投擲していく。
「ヨロイさん! 設置終わったわ!」
アイルが叫ぶ。そこには観客席とジークを結ぶように地面へと突き刺された3本のナイフが。これで準備は整った。後はアイツに一撃喰らわせてやるだけだ。
「よし! アイルは離れて追撃の準備しろ!」
「オッケー!」
観客席まで走って目標地点に到着。ジークが愛剣バルムンクを構えているのを確認し、全力で叫んだ。
「撃てええええええ!!!」
「待っていたぞ!!」
叫んだ瞬間、ジークが波動斬を放つ。ミナセの強化魔法によって巨大になった風の刃。ジークの愛剣バルムンクの雷が混じった一撃を。それが、アイルの速雷魔法のナイフへと直撃する。
1本目のナイフ。波動斬の雷が強化され、周囲に電撃を迸らせる。
2本目。雷がさらに強化。風の刃を電撃が包み込む。
3本目。波動斬がまばゆいまでの光を放ち、雷の刃へと変化する。
全ての速雷魔法を喰らい尽くした雷の刃。それが真っ直ぐ俺へと向かう。聖剣アスカルオを抜き、タイミングを測って観客席下の窓へ走り跳躍する。窓枠に脚をかけ、三角跳びの要領で空中へ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
目の前に迫る雷の刃。それをアスカルオの能力で喰らい尽くす。聖剣の刀身に雷の刃が吸収され、光り輝く刀身が周囲を明るく照らした。
空中でデュフォエウスへと狙いを定める。目標は胸部。そこへ向けてアスカルオの斬撃を放った。
「喰らいやがれええええええ!!!」
縦に放つ一閃。その瞬間、アスカルオから巨大な雷の刃が放たれた。
「グウオォ!?」
デュフォエウスが雷の刃に狙いを定め、両腕を振りかぶる。
「グオォォォォォォォ!!!!」
突風攻撃。ちっ、迎え撃つ気か。
しかし、視界の隅に映る人影を見て確信する。攻撃は止められないと。
「波動斬!!!!」
デュフォエウスの側面へと迫っていたジークから、4つの風の刃が両腕に放たれる。それがヤツの腕を弾き飛ばし、突風攻撃を妨害する。弱点の胴体が無防備になった。
雷の刃が胸部の大きな十字傷へと直撃。その巨体に雷が駆け巡った。
「グギャアアアアアアアアアアアアア!?」
デュフォエウスが苦しみの声を上げる。その脚を構成していた蛇達が苦しみ、黒焦げとなった。次の瞬間、ヤツの脚が崩れ落ち、地面へとその身体が叩き付けられる。
まだ息がある。ヤツの巨体へと向かって全力で走った。
「しゃあ!! 決めに行くぞ!!」
ヤツの背後には武器を構えたジークとミナセ、それにナーゴが。俺の背後にはアイル。全員がデュフォエウスへと向かう。
「ミナセ! 俺が右腕をやる! お前とナーゴで左腕を頼む!」
「任せてよカズ君!」
「了解にゃ!」
「グオォォォォォォォ!!」
デュフォエウスが俺を叩き潰そうと腕を上げようとした瞬間、飛び上がったジークがヤツの右手にバルムンクを突き刺す。それとほぼ同時に、物理攻撃強化魔法の青い光を帯びたミナセとナーゴが左手を攻撃。振り上げたデュフォエウスの拳は、俺に当たる事なく地面へと叩き付けられた。
「グオォォォッ!?」
攻撃方法を失ったデュフォエウス。ヤツは最後に残った力で両眼から無数の火球を発した。
「往生際悪いわよ!! 氷結晶魔法!!」
アイルが氷結晶魔法で火球を消し飛ばし、俺の走る道が生まれた。一気に距離を縮め、ヤツの胸元の傷にアスカルオを突き刺した。
「オラアアアアア!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ア、アア、アアアアアア………」
断末魔の声を上げるデュフォエウス。次の瞬間、精霊は霧のようにかき消えてしまった。
『461パーティ、デュフォエウスを撃破。合格だ』
スピーカーからリレイラさんの声が聞こえると、周囲がザワザワと騒がしくなった。
「な、何だよ今の……」
「デュフォエウスを、倒した?」
「え? あのボス、オーヴァル達を一方的に倒してたよね?」
「最初の一撃でほぼ決まってなかったか?」
「雷の斬撃みたいだった……」
「何でジークリードの波動斬があんな風に……」
「聖剣の力にしたってあ、あんなのヤバすぎだろ」
「アイツら……人間か……?」
「ヨロイさーん!!」
アイルが急に飛び付いて来た。脚をガッと開いて子供のように抱きついてくるアイル、バランスを崩しそうになって、咄嗟に踏ん張る。彼女を抱えるように持つと、アイルは俺の腕の上で何度もバウンドした。
「やったやったやった!! あんな強そうなヤツ倒せたわよ!!」
「お、おお……飛び跳ねるなって! 子供かよ!」
「だって嬉しいんだもんっ! これで私達試験合格よね? 新宿迷宮に行けるのよね!?」
ふとリレイラさんを見ると、彼女と目が合う。微笑みを浮かべて頷くリレイラさん。それを見て、合格した実感が一気に湧いて来た。
「ああそうだぜ。新宿迷宮に行けるんだ」
突然、背後に気配を感じた。振り返るとジーク、ミナセ、ナーゴが今まさに俺に飛び付こうとしている所だった。
「鎧!!」
「鎧さん!!」
「ヨロさ〜ん!!」
「うああああああ!?」
3人から飛び付かれてバランスを失う。アイルを庇うように倒れ込んで全員からもみくちゃにされる。
「ちょっ!? やめろってお前ら!!」
「やったぞ!! あんなに上手く決まるなんてな!!」
「嬉し〜!!! 観客のみんなビックリしてるよ!?」
「ヨロイさん好き好き好き〜!! 大好き!!!」
「みんなすごいのにゃ〜!!! 感動したにゃあああ!!」
身動き取れねぇ!? というかアイルのヤツなんか違うこと言ってなかったか? よく聞こえなかったけど。
「明日から特訓だな鎧! いや! 今日からやるか!?」
「ダメだよカズくん!! 今日はお祝いしないと!!」
「あ、ちょ! ヨロイさん今のナシだから!! 聞いてないわよね!?」
「マスターに連絡して冒険家Bの席取ってもらうにゃ! ナーゴの料理でお祝いするにゃ〜!!」
うるせえええええええええ!?
俺の耳元で喋るみんな。ふと意識を向けると、真っ青に広がる空が目に入った。寝転んだ地面の感触に青い空、騒がしい仲間。
……。
最高だ。最高の気分だ。きっと新宿迷宮をクリアしたらもっと最高な気分が待っているんだろうな。
俺の胸は期待に胸が膨らんだ。
無事試験をクリアした461さんの元に敗北したオーヴァルが……?
楽しかった、脳汁が出た、続きが少しでも気になると思われましたら
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