閑話 ユイ、修行中!
〜ユイ〜
──シィーリアの屋敷
キル太も両手で抱えられるほど大きくなり、戦闘訓練もこれからというタイミングで、ジークリードとも訓練をするよう言われた。シィーリアやメイド達に比べたら楽勝と思ったが、これが中々に手強い相手だった。
「はぁ!!」
「ブギぃ!!」
物理攻撃上昇魔法を使って目の前のジークリードに拳を放つ。それと同時にキル太がヤツの腹部に体当たりする。同時攻撃。これなら避けれないだろ。
「甘いな」
ヤツが言った瞬間、側頭部に衝撃が走る。蹴られたのか……っ!? 視界がブレて足が浮き上がる。対処する前に腹に蹴りを受けて吹き飛ばされた。
「がっ!?」
受け身を取って転がる。体勢を立て直した瞬間、サッカーボールのように蹴り飛ばされたキル太がこちらに飛んで来ているのが視界に入った。
「うわあああああ!?」
「ブギィイイイイ!?」
顔にキル太が直撃する。あまりの衝撃で私は地面に倒れ込んでしまった。
「はぁ……はぁ……クソッ……」
「ブギュうう……」
無理やり体を起こす。キル太が体力の限界が来たように地面に転がったので抱き上げて膝の上に乗せた。
「同時攻撃は良いが攻撃タイミングは微妙にズラせ。今のままでは簡単に対処されるぞ」
「閃光のスキル持ってないヤツが対処なんかできるかよ」
「さらに速い動きをする敵もいる。お前の動きにはまだ無駄が多すぎるぞ」
「わあったよ〜。ちっ、全然体が言う事きかねぇんだもん。しゃあないじゃん」
狂乱のスキルを失ってから分かる。私の力は全能力100%上昇というスキルに支えられていた物だ。今でも戦闘の時はあの時の感覚で動いてしまう。動作の速度、拳の威力。その全ての感覚がズレる。思ったように体が動かないというのはこんなにも……もどかしいなんて。
「地道にやるしかない」
「クソッ」
「まだダンジョンに入るには厳しいな。まずはその体に染み付いた狂乱の感覚を消すこと。それからだ」
ぐうの音も出ない正論。焦っても仕方ない、か。でもジークリードに言われるとなーんかムカつくんだよなぁ。シィーリアに言われるのは平気なんだけど。何でだろ?
……。
そうだ。
周囲を見回す。私達以外は誰もいない。マイはメイドと一緒に昼飯の準備をすると言っていたし。しばらく来ないな。
ちょっとからかってやるか。
「な、マイとは夜の方はどうなんだ?」
「ハ? オマエニハ、カンケイナイダロ……」
ジークリードがビシリと固まる。ひひっ。やっぱコイツの弱点はコッチ系の話か。
「いや〜妹としては心配なんだよな〜ちゃんと姉の彼氏が満足させてあげてるのかってよ〜」
「サセテルトオモウガ?」
「へぇ。ならアタシが確かめてやろっかな〜。どう? アタシと」
どんな反応が来る? コイツ慣れてなさそうだし絶対面白い反応しそう! もし本気にしたら全力でバカにしてやろ〜!
「……」
急に黙り込んだジークリード。彼は私の肩にポンと手を置いた。哀れみの表情を込めて。
「な、なんだよ?」
「姉を想う気持ちは分かるが、俺は生涯ミナセしか愛さないと誓った。悪いな」
「な……っ!?」
顔が一気に熱くなる。なんなのそれ……っ!? 誘ったアタシがバカみたいじゃん……!!
「からかわれる気持ちも分かったか?」
クソ!! コイツワザと私を哀れむような顔を……!?
「キイイィィィ!!! ムカつくムカつくムカつく!!!」
ムカつきすぎて地面を踏み付けていると、良い匂いが漂ってくる。屋敷の方を見ると、窓から身を乗り出したマイがアタシ達に向かって大きく手を振っていた。
「おーい! お昼ご飯できたよ〜!」
「そろそろ昼時だ。屋敷に戻ろう」
「次は絶対ブッコロス!!!」
「やってみろ」
不敵な笑みを浮かべるジークリード。待ってろよ! 絶対その顔歪ませてやるからな!!
……まぁ、マイを大事にしてることだけは認めてやるか。
次回、あるチャンネルとコラボしたモモチーが大変なことに……?




