閑話 リレイラの欲しかったもの
〜リレイラ〜
シャワーを浴びてベットに入る。真っ暗になった部屋で天井を見上げると、先ほどのことを思い出した。
「ふ、ふふ……」
しちゃった。キス。
「あ〜! 明日からどんな顔して会えばいいんだ〜!」
布団の中で身悶えしてしまう。言葉にする勇気がなくてキスするなんて暴挙に出てしまったが……伝わった、よね? 私の気持ち。
しかも、戸惑っているのに私のこと送ってくいってくれるって……嬉しかった。
「うぅ……好きだよぉ……」
すまないアイル君。でも私、12年ずっと好きだったんだ。だから許して。
その時、スマホのバイブが鳴った。通知を見るとヨロイ君から。内容は無事帰れたかと尋ねるものだった。ふふ、優しいな。
「いや、待てよ……」
私が家に着いてから布団に入るまで1時間は経っている。なぜ今のタイミングでメッセージを送って来たんだ?
「まさか……引いてしまった?」
どうしよう! ヨロイ君に嫌われたら私はどうやって生きていけばいいんだ!? なぜ私はあんな軽率な行動を!!
「あああぁぁぁ……」
謝らないと……さっきのことを……。
急いでスマホで謝罪文を書いていく。先程の行動が軽率だったこと、ヨロイ君の気持ちを確かめてからするべきだったこと、とにかく本気で悪いと思っていることを伝えないと!
文面を確かめる、よし。これなら大丈夫だ。送信。
……。
お願い、関係壊れないで。何でもするから……っ!!
祈るような思いで返信を待っているとスマホに通知が来た。ヨロイ君だ。
怖い。拒絶の言葉が書いてあったらどうしよう……。
恐る恐るスマホのロック画面を開く。目を閉じてメッセージアプリをタップする。ゆっくりと目を開いて確認する。返信は……なんて……。
──謝らないで下さい。俺は嬉しかったですよ。
短い文章。だけど、その一文が頭の中を駆け巡った。
嬉しかった?
嬉しかった……?
嬉しかった!?
「え、え……!!!! 両、想い、なのか……?」
頭の中が一気に明るくなっていく、そうだよね? か、勘違い? いや待てリレイラ……無理に確かめてはダメだ。
彼は人との繋がりが希薄だった。関係性の構築は苦手なはず。私とヨロイ君の関係に周囲のような速度を求めてはダメ。そう、私は彼のペースに合わせてゆっくり前に進めばいい。というか……今日はあれ以上は私が持たなかったかも。
で、でも……流石にこれは脈無しではないだろう。少なくとも憎からず想ってくれているはずだ。私のことを。絶対……絶対!!!
はぁ……ヨロイ君。私は君の全部を受け止める準備はできてるよ。いつでも大丈夫……しっかりごむもああああああ!!! 私は何を考えているんだ!! さっき焦らないっていったばかりだろう!!
「う〜〜〜〜〜〜!!!」
かけ布団を抱きしめて悶えてしまう。冷静になってベットを見ると、ベットの上はグチャグチャになってしまっていた。
「はぁ……はぁ……何をやっているんだ私は」
布団を直しながら横を見ると、鏡が目に入った。鏡の中の私はニヤニヤした顔を抑えきれない様子。すごい顔だな……。頬を叩いて真面目な顔に直す。
「明日になったらとりあえず……」
もう一度鏡を見る。その中にはダボダボのボタンがけパジャマを着た女の姿が。
「せ、セクシーな下着でも、買うか」
ま、またヨロイ君とお泊まりするかもしれないし?
鏡の中の私はまたニヤニヤした。
次回はシィーリア視点のお話です。ダンジョン管理局に監査官がやって来て……新章に続く重要な回です。
次回は8/4(日)12:10投稿です。よろしくお願いします。