第129話 聖剣の力 【ボス戦配信回】
浅草寺の中を進み、本堂の正面まで辿り着いた。
2人で階段を登る。本堂の入り口。そこは大きな扉がしっかりと閉じられ、中に入ることができなくなっていた。
リレイラさんの話によると、ここを開ければボスが解放されるらしい。中にいるのは俺も戦ったことのあるボス。だが今回の目的はアスカルオの能力を使うことだ。特定の行動を狙って動く。それを狙うと難易度が跳ね上がるな。
「……この中にボスがいるのね」
アイルがギュッと杖を握り締める。
「打ち合わせた通りでいくぞ」
「うん。ヨロイさんも無茶しちゃダメだからね」
アイルの心配そうな声。それを安心させるようにその頭に手を置いた。
「俺のことは心配すんな。それより配信の準備はいいのか?」
「設定はバッチリ。後はドローン飛ばすだけよ」
「よし……じゃあ、浅草ダンジョンのボス攻略といくか!」
扉をゆっくりと開いていく。それと同時にアイルがドローンを空中へ飛ばした。ドローンのカメラに灯る赤い光。それが配信が始まったことを告げていた。
〈きたきた!!〉
〈もうボス戦!?〉
〈早いな〜!〉
〈想像よりも早かったな:wotaku〉
〈ウォタクさんも来たんだ!〉
〈2人の攻略見せて貰うか〉
〈ボス攻略見るの初めて!〉
〈新規っぽいコメもいるな〜〉
〈浅草のボスはどんなヤツや?〉
カメラが俺達の後ろにつく。俺には見えないがコメントも流れているんだろう。
扉に意識を向け、扉を押す手に力を入れる。半分ほど開けたところで、何かに引かれるように勢いよく扉が開いた。そして、中から何かが向かって来る。
「で、デカッ!?」
「言ってる場合か! 巻き込まれるぞ!!」
アイルを抱えて階段を駆け降りる。階段を降りきったタイミングで中からボスが飛び出した。想定よりデカい……かなり成長した個体だな。
「グオォォォォォォォオオンン!!」
白い龍。翼はなく、東洋の龍のような見た目の……全長20メートルはあろうかという龍。それが全身にバチバチと電流を帯びながら空へと舞い上がった。
〈!?!!?!?!?〉
〈龍じゃん!?〉
〈異世界生物なのに!?〉
〈真龍アンセス。ドラゴン種の始祖の1体。始祖が進化することで様々な種類の「竜」になる:wotaku〉
〈進化前?じゃ弱いんかな〉
〈でも見た目は強そうなんだ!〉
〈真龍はそもそも強い:wotaku〉
〈ヤバそう!?〉
「グオォォォォォォォアアアアア!!!」
雄叫びを上げながら上空を飛び回る龍。ヤツは俺達に気付くとその口を大きく開いた。
よし、ヤツは電撃ブレスがメイン攻撃だ。そのタイミングに合わせてアスカルオを……。
「カアアアアアア………ッ!」
そう思った次の瞬間、ヤツの鱗が逆立ち、バチバチと放電を始める。あのモーションは……。
「ヤバイ。逃げるぞ」
「え? ……きゃっ!?」
アイルを抱き上げたまま屋根のある建物まで走る。あの攻撃は返せない。とにかく安全圏へ行くしかねぇ。
「グオォォォォォォォンンンッ!!!」
龍の雄叫びと共に周囲に雷の雨が降り注いだ。
〈うわああああああああ!?〉
〈めっちゃ攻撃範囲広い!?〉
〈アンセスは、周囲に落雷の雨を降らせる:wotaku〉
〈早く言えって!!〉
〈ヤバすぎるんだ!?〉
〈2人とも……死なないでぇ……〉
「キャアアアアアアアア!?」
ちっ。開始早々広範囲攻撃かよ。メイン攻撃はお預けか。
「掴まってろよ!」
アイルを抱えたまま、視線の先にある建物。その屋根の下へと走り抜ける。雷の隙間を縫って走ったものの、その雷は周囲へも電撃を走らせ、全身に痛みが駆け巡った。
「う……痛っ!」
苦しそうなアイルを庇うように抱きしめてヤツの死角へと隠れる。アイルを下ろすと、彼女はすぐに杖を構えた。
「あ、ありがとう……私は大丈夫だからヨロイさんは自分のことに集中して」
彼女の真剣な顔に頷いて返し、龍へと目を向けた。
電撃迸しる体。空中を飛んでいる状態じゃ近接攻撃は難しい。今できる攻撃と言えば俺のダガーとナイフ、アイルのナイフも含めて5本の投擲、それとアイルの属性魔法だな。ここは確実に攻撃を当てつつ、アスカルオの特性を使うチャンスを待つしかない。確実な方法で行くか。
「作戦変更だ。俺がヤツを引き付ける。さっきの範囲攻撃のモーションがあった時だけ魔法で妨害できるか?」
アイルがニッと笑う。
「アイツ、あの範囲攻撃する時に鱗が逆立ってた……そのモーションが出たら攻撃すればいいのよね?」
「そうだ。頼んだぜ」
アイルが拳を差し出す。それに自分の拳を当て、龍へと向けて走り出した。
〈何この感情……〉
〈なぜかイライラせんな〉
〈いいなぁ〉
〈尊いんだ!〉
〈相棒だから:wotaku〉
〈2人ともがんばってぇ……〉
〈みんな浄化されてて草〉
「グオオオオオオオオオオ!!」
龍が俺に気付く。口を大きく開き、電撃の球体を連続発射する。まだだ、ここはまだ使うタイミングじゃない。最大火力を打ち返せるか。それを確かめなければ、俺は一生アスカルオを使いこなせない!
地面に降り注ぐ電撃の球体。その隙間を駆け抜けて行くと、ヤツは俺に向かって突撃してきた。
「中々ブレス撃ってこねぇな!!」
突撃をローリングで回避しダガーを投げ付ける。ダガーが龍の背に突き刺さると、ヤツは再び空高くへと舞い上がった。
「カアアアアアアア……っ!」
逆立つ鱗。広範囲攻撃のモーション。やたら広範囲攻撃撃ってくる個体だな。それにあの高さ。アイルの火炎や氷結魔法も届く距離じゃない。もう一度屋根の下へ……。
そう考えた時、魔法名が聞こえた。
「電撃魔法!!」
振り返るとアイルが魔法を放っていた。放たれた電撃が、俺の突き刺したダガーに引き寄せられるように龍に直撃する。
「グアァッ!?」
悲鳴をあげて龍が地面へと落下した。
〈電撃効いた!?〉
〈ダガーを媒介に直接体内へ電撃を流し込んだ:wotaku〉
〈マジ!?〉
〈え、でもアイツ放電するのになんで!?〉
〈アンセスは全身の鱗で放電する。体内に電撃耐性は無い:wotaku〉
〈ヤバ!?〉
〈アイルちゃんなんで知ってるんや!?www〉
〈461さんが教えたんやろなぁ……〉
〈すごいんだ!〉
「まだこれからよ!」
アイルが走りながら3本のナイフを取り出す。「速雷魔法」を発動すると、その刀身がバチバチと帯電する。アイルは3本のナイフをもがく龍へと投げ付けた。
「当たって!!」
「グオォォ!?」
龍の巨体にナイフが突き刺さる。突き刺さった3本のナイフは、龍の背中でバチバチと電気を迸らせていた。
「ヨロイさん!」
なるほどな、考えたぜアイルのヤツ。確かに「電撃魔法の威力を上げる」って書いてあったからな。同じ属性攻撃なら当然威力も上がる。これなら……。
一撃で決められるぜ!!
「任せとけ!!」
アスカルオを鞘から抜いて駆け抜ける。龍はもう一度空へと舞い上がり、目の前を走っていた俺を睨んだ。
「グオオオォォォ……ッ!!」
怒りの表情で口を開く龍。よし、ヤツの狙いは俺に向いている。電撃ブレスが……来る!
「うおおおおおおおお!!!」
そのままヤツの狙いを誘導して本堂の階段へと向かう。
〈え、なんの攻撃来るの?〉
〈強そうな攻撃来そうなんだ!?〉
〈電撃ブレスが来る:wotaku〉
〈電撃ブレス!?〉
〈あの龍のブレスって絶対ヤベェだろ!?〉
〈461さん消し飛ぶんちゃう!?〉
〈461さん……死なないでぇ……〉
「ガアアアアアッ!!!!!!」
発射される雷。それが真っ直ぐ俺に向かって来る。周囲が照らされ、足元に俺の影が見えた。
階段を踏み台に、大地を蹴る。アスカルオを頭上に構えると、目の前が電撃ブレスの眩い光に包まれる。
〈うああああああああああ!?〉
〈消し飛ぶってえええ!?〉
〈461さん何考えとんねん!?〉
〈死ぬやろ!?〉
〈461さんなら何か考えてるんだ!多分……〉
〈多分ってw〉
〈アスカルオ:wotaku〉
〈賞品のヤツか?〉
「ウオオオオオオオォォォッ!!!」
アスカルオを握る手に力を込める。意識を集中する。魔力の流れを感じると、アスカルオから渦のように魔力を飲み込む力が発生する。目前に迫っていた電撃が、聖剣へと吸収されていく。
〈!!?!?!?!?〉
〈吸収してる!?〉
〈マジ!?〉
〈ヤバババババババババババ!!!〉
〈アスカルオの魔喰いの力:wotaku〉
〈魔喰い!?〉
〈魔法を食う……ってコト!?〉
〈めっちゃ強そう!!〉
〈すごすぎるんだ!!〉
全ての電撃を吸収したタイミングで、アイルの刺したナイフへと向け、アスカルオを薙ぎ払った。
「ラアアアアアアアアアアア!!!」
放たれる電撃の刃。それがナイフに直撃した瞬間、ナイフを中心に波のように電撃が溢れ出す。発生した電撃の津波は、龍の全身を駆け巡り、アイルのナイフを通して龍の体内にまで流れ込んだ。
「グギャアアアアアアアアアアアアアア!?」
苦しみと驚嘆の入り混じった龍の声。それが辺りに響き渡る。龍は黒焦げになって地面へと落下、そのまま灰のように消え去ってしまった。龍のいた場所からレベルポイントの光が溢れ出し、俺とアイルのスマホへと吸収された。
〈ヤベェエエエエエエ!?〉
〈雷の斬撃!?〉
〈いや撃ち返してたやろ!?〉
〈リフレクションとは違うよな!?〉
〈あの剣が電撃を吸収してたんだ!〉
〈にしてもあんなデカいの返せるんか!?〉
〈俺もあの剣が吸収してるみたいに見えた〉
〈アスカルオに速雷魔法の能力を合わせたのか:wotaku〉
〈魔法吸収して撃ち返すとかめっちゃ強いやんけ!〉
〈嘘やろ!?〉
〈スゲエエエエエエエエエエエエ!!〉
「すっごいコメント……すごいわヨロイさん!」
「お前もだろ?」
「えっ……」
不思議そうな顔をするアイル。彼女へと拳を突き出すと、目を潤ませたアイルが、ポンと俺の拳に手を当てた。
次回は掲示板回!そしてその次は……どうぞお楽しみに!!
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