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第128話 アイル、がんばる!

 順調に行けると思ったが、やはりダンジョン。一筋縄ではいかない構造をしていた。


 仲見世通りを進み、ぶつかった魔法障壁を左へ。裏通りを進んで行くと、さらに魔法障壁。右に行こうとしても魔法障壁。仕方がないのでまた左折。すると、浅草寺の外に出てしまった。


「なにこれ……ここもダンジョンの中なの?」


 頭に疑問符を浮かべるアイルを連れて商店街の中を進むと、開けた大通りに出た。モンスターを倒しながらそこを右に。しばらく進んで「花やしき通り」と書かれた通りを曲がる。


 見たところ雷門を潜る前の景色と変わらないが、モンスターが出現したり魔法障壁があるあたりダンジョン内で間違いない。迷路型特有の鬱陶しさ……リレイラさんに聞いてはいたが、外の景色がある分、脳が混乱する。厄介だな。



「ねえ、あそこに大きい牛みたいなモンスターがいるわ」



 アイルが前方を指す。ランペイジリントか。軽自動車ほどある体に頭にバッファローのような角の生えた猛牛モンスター。属性攻撃は使わないが、とにかく物理攻撃力が高い。突撃を食らえばただじゃ済まない敵。このダンジョンの中ボスかもな。


「ヨロイさん、アイツ、ランペイジリントよね? 私1人でやってみていい?」


「攻撃力相当高いぞアイツ」


「大丈夫。昨日モーションも聞いたでしよ? やってみたいの」


 どうする? 昨日の攻略会議でヤツのモーションはアイルに伝えたが……。


 周囲を確認する。どうやらこの通りのモンスターはあの個体だけみたいだ。タイマンなら、いけるか……。


「やらせて」


 真剣なアイルの表情。これは止めても無駄だな。


「……分かった。危なかったら助けに入るからな」




◇◇◇


 〜天王洲アイル〜



 ヨロイさんに頷いて右手に速雷魔法(ラピッド・ショック)を発動する。右手に帯電する電撃。そして、杖には氷結魔法用に魔力を溜める。


 アイツは突撃して近接攻撃をするタイプだ。なら、足止めに集中して体力を削っていけば、私1人でも倒せるはず。


 右手の指先をまっすぐにランペイジリントへと向ける。速雷魔法を発射する直前、もう一度ヨロイさんに声をかけた。


「見ててね」


「ああ」


 安心する声。危なくなったら助けてくれるって言ってた。でもダメ。さっきもサンダーウルフ相手に油断したんだ。私1人でも戦えるって見せたい。見て貰いたい。絶対アイツを倒してみせる。



発射(ショット)!」



 速雷魔法を発射する。電撃の弾丸が、まっすぐにランペイジリントへと飛んで行く。弾丸が当たった瞬間、モンスターは大きな雄叫びを上げた。



「ブモオオオオオオオオオオオ!?」



 全力で走る。ランペイジリントは怒り狂ってる。今なら建物とかなりふり構わず突っ込んで来るはず。



「ブモオオオオオォツ!!」



「にしても怒り方半端ないわね!?」


 目の前まで猛牛が来たタイミングでもう一度速雷魔法(ラピッド・ショック)を放つ。電撃によって一瞬動きを止める猛牛。その顔へナイフを投げ付け、地面へ飛び込んだ。



「ブモォ!!」



 右目にナイフが刺さる。猛牛の軌道が乱れ、 背後の建物に突撃。木製の壁面をバキバキと破壊しながらランペイジリントが倒れ込んだ。


「ブモォ……っ!!」


 ヨロヨロと立ち上がった猛牛が大地を蹴ろうとした瞬間、溜めていた魔法を放つ。



氷結魔法(フロスト)!!」



 ランペイジリントの足が凍り付き、地面に張り付く。足を取られた猛牛は、盛大に地面へと倒れ込んだ。



「ブモオオオッ!?」



発射(ショット)!!」


 もがくランペイジリントに速雷魔法を撃ち込みながら、ヤツが起き上がるのを妨害する。そのまま杖に魔力を溜めて、火炎魔法(ブレイズ)を撃ち込む。猛牛は苦しみの声をあげて地面をのたうち回った。



「ブモオオオオオオオオオオオ!!!!」



 よし! ダメージ受けてる! このままもう一発打ち込んで……。



「ブモォ!!」



 のたうち回っていた猛牛が、突然こちらへと突撃して来た。



「ヤバっ!?」



 無理矢理体を起こすなんて聞いてないわ!?



 地面に飛び込む。猛牛は、真横をすり抜けて壁へと突撃した。



 が。



「ブモオォォ!!」



 建物の壁を蹴って猛牛が向きを変える。横に伸びたバッファローみたいなツノ、それが私を狙う。速雷魔法を放つ。バランスを崩した猛牛は、頭を大きく下げた。


 あのモーション……突き上げ攻撃が来る!?


 この距離じゃ避けられない。そう考えてローブを体に巻き付ける。ヤツは、ツノで私を空中に放り投げた。



「キャアアアアアアッ!?」



 浮遊感を感じる。周囲を見ると、建物の屋根が見えた。ローブの防御魔法の符呪(エンチャント)のおかげでダメージは軽減できたけど……10メートル? まだ飛ばされてるみたい。


 下を見る。待ち構えるランペイジリント。ヨロイさんがこっちに走って来てる。



 冷静になるんだ。敵をよく見て、私。



 空中で杖を構えてランペイジリントを見る。ヤツの脚が震えているのが目に入った。もう一度魔法を当てればいけそう。でも狙いが上手く定まらない。どうすれば……。


 体が落下を始める。焦る気持ちを抑えて、ヤツの体をもう一度観察する。すると、さっきアイツの眼に刺したナイフ(・・・)が目に入った。



 アレがあれば……イケる!!



 自分の中で、撃つ魔法を火炎魔法から電撃魔法へ切り替える。間に合え。間に合って!



 落下する。魔力が溜まる。まだ撃てない。



「ブモォオオオオオオ!!!」



 目を血走らせた猛牛が見える。早く……早く溜まって!!



「アイル!!」



 ヨロイさんの声が聞こえた瞬間、魔力が溜まったのを感じた。



「ヨロイさん!! 見てて。私、アイツを倒すから!!」



 杖をヤツの顔に向ける。手元がブレる。落ち着いて。大丈夫。アレ(・・)があるから絶対当たる!!



電撃魔法(ライトニング)!!」



 杖から放たれた電撃が、猛牛に突き刺さったナイフ(・・・)に引き寄せられる。電撃が猛牛の頭部に直撃し、バリバリと激しい音を周囲に轟かせた。



「ブモオオア゛アアアアアアアッ!?」



 雄叫びを上げた後、ランペイジリントがバタリと倒れ込む。その直後、猛牛の体からレベルポイントの光が溢れ出した。



「やったああああ! わああああ!?」




 落ちる!? 倒した後のこと考えてなかった!?



 怖くなって目を閉じた時、急に体の浮遊感が消えた。目を開けるとヨロイさんが抱き止めてくれていた。



「は、はぁ……死ぬかと思った……」


「あのままならツノで突き刺されてたかもな」


「もう! 余計怖がらせないでよ!!」


「痛てぇ!? 鎧の隙間ばっか狙うなよ!?」


 急に怖くなってヨロイさんを叩いてしまう。ヨロイさんは痛がるような声を上げたけど、離さずに私を抱き上げたままでいてくれた。胸の中で安心感が広がっていく。


「はぁ……見ててくれた?」


「いや、すごかったぜ。あのナイフは電撃の為に投げたのか?」


「う、ううん……必死だったから……」


「咄嗟の判断であそこまでやれたら十分だ」



 褒めてくれてる。嬉しい。



「もうちょっとこうしてて」


「いや、降りろよ」


「いいじゃない。疲れたんだもん」


「仕方ねぇな……」



 嬉しかったからヨロイさんに甘えちゃった。




◇◇◇


 〜461さん〜



 さらに先に進み、再び浅草寺へと戻って来た。右手には五重塔、正面には本堂が見えてくる。俺から降りたアイルはスマホをタップした。


「ボス戦前にスキル取っておいていい?」


「いいけどよ、何を取るつもりなんだ?」


「へへ〜! 速雷魔法の強化するの! これ見て! ずっと取ろうと思ってたの!」


 アイルに言われるがままスマホを覗き込む。そこにはスキルの説明が書いてあった。



 速雷魔法(ラピッド・ショック)─レベル2

 電撃を任意の無機物に留めて置く事ができる。留めた電撃に電撃魔法(ライトニング)を当てることで範囲攻撃へと発展させる。また、その際に威力も上がる。



「へぇ……面白いじゃん」


「でしょ? さっきの敵倒したからポイントもちょうど。ヨロイさんの言ってたボスなら絶対これ使えるわ!」


 速雷魔法が設置型の攻撃にも使えるようになるってことか。これは相当面白いことができそうだな。


「いいと思うぜ」


「解放してみるわね」


 アイルがスマホをタップする。すると、聞き慣れた合成音が鳴り響いた。



速雷魔法(ラピッド・ショック)が2段階目まで強化されました』



 アイルの体がうっすらと光を帯びる。しかし彼女は不思議そうな顔で両手を見た。


「これで変わったのよね? なんかいつもより実感湧かないわ」


 アイルがナイフを取り出して、それを額に当てる。



速雷魔法(ラピッド・ショック)



 左手に握られたナイフ。魔法名を告げた瞬間、それにバチバチと弱い電撃が帯電する。



「お、説明通りだな」


「やった! これで思ってたことができるわ!」


「何だよ思ってたことって?」


「ん? んふふ〜秘密!」



 アイルは意味ありげに笑った。





 

次回、いよいよボス配信回です。お楽しみに。

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