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第127話 浅草ダンジョンへ

 翌日。


 ──浅草。


 地下鉄に乗って数十分。もうすぐ浅草駅に到着するという時、ふと横を見るとアイルがスマホで何かをしていた。


「何やってんだアイル?」


「え? ふふ……うふふふふ……」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるアイル。なんだ? 俺なんかやったっけ? 戸惑っていると彼女がスマホを差し出す。写っていたのはツェッターのツイート画面。そこには今日配信が行われることと「今回の461さん凄いから絶対に見て!」という一文が書いてあった。


「なんだよこれ? こんな煽り入れなくてもいいじゃん」


「ダメ! ヨロイさんが苦労して編み出した雷返し(・・・)を見せるんだから!」


「雷返しってお前……そんな名前付けてないぞ?」


「だって電撃魔法返せるようになったでしょ?」


 だからって単純すぎないか? 技の名前……。


「にしても期待しすぎ──」


 言おうとして、アイルがむくれてるのに気が付いた。彼女が俺の腕を掴むとチラチラと上目遣いでこちらを見る。それを見たら文句を言う気も失せてしまった。



「ヨロイさんの凄いところ、みんなに見て貰いたいんだもん」



 まぁ……アイルなりに俺のこと考えてくれたってことだもんな。それを無碍(むげ)にするのは……違うと思う。


 言おうとしていた言葉を飲み込み、別の言葉を口にした。


「なら、気合い入れないとな。頑張るぜ」


「うん!」


 パッと笑顔になるアイル。ホント、表情がコロコロ変わるやつだな……。





 ◇◇◇


 2人で浅草駅から地上に出る。浅草寺(せんそうじ)の方角へ歩いて行く。誰もいない商店街。中野の時もそうだったが、人がいない商店街というのは妙に寂しさを感じるな。


「へぇ〜なんか、観光地って感じの所ね」


「俺が子供の頃は凄かったぜ。海外からも旅行客が押し寄せて来てたからな。観光シーズンになるとよく秋葉・スカイツリー・浅草って良く言われてたな」


「むぅ〜私だけ知らないのなんかムカつくわねぇ」


「ま、言っても俺も来た事なんか無いけどな」


 言われてたって言ってもテレビで見ただけだし。


「なんだ。来た事ないのに偉そうに言ってたの?」


「うるさいな」


 知ってる事くらい流暢になってもいいじゃん。


 そんな話をしながら歩いていると、目的の雷門が見えて来た。


「わ〜本当にデカいわね」


 中央に「雷門」と書かれたデカい提灯を見上げて、アイルは声を上げた。昔ならこの先の仲見世通りが見えていたが、今は様子が違う。


 門からカーテンのように紫のモヤが張り巡らされていて中は見えない。リレイラさんによると、この中が特殊な空間になっていて、ダンジョン化しているらしい。


「よし、最終確認するぞ」


「分かったわ」


 門の前でお互いのアイテムを再度確認する。


「回復薬は合計6本。ほら」


 アイルに回復効果の高い高濃度回復薬を2本渡す。彼女はそれを腰のバッグにしまうと、カバンの中身をゴソゴソと漁る。


 回復アイテムは持ちすぎると動きを阻害する。俺達の探索者用鞄には重量軽減の符呪が施してあるが、それでもアスカルオの能力を狙う今回は持ち物は最低限にしておきたい。だから昨日から持っていくアイテムは何度も確認していた。


「……解毒薬も麻痺治療薬(アンチパラリス)もある。ボス戦前にアイテム預けたかったら言ってね」


「辿り着くまでの消費次第だな。もしもの時は頼む」


「ふふっ。任せてよ」


 ふとアイルのカバンの横、ベルトに装備された3本のナイフが目に入った。言った通りに装備してきたな。



「よし、そろそろ行くか」



 準備をしてから雷門へと目を向ける。入ろうとすると、アイルが俺の手を握った。


「ちょっとだけ、深呼吸させて」


 少し震えた手。その手を握り返す。アイルが数度深呼吸したのを確認して、俺達は霧の中へと脚を踏み入れた──。




◇◇◇


 霧を抜けるとそこには、誰もいない仲見世通りが広がっていた。


 商店街のような、屋台のような不思議な見た目。真っ直ぐ浅草寺に向けて伸びているが、正面に魔法障壁が見える。障壁を迂回しながらボスまで向かうってことか。迷路みたいになってるな、これは。


「うわぁ……ちょっと不気味……」


「あそこにサンダーウルフがいる。こちらにはまだ気付いていないみたいだ」


 なんか、和風な建物に異世界のモンスターがいると違和感あるな……。


「まぁいいや、こっちだ」


 モンスターに見つからないよう物陰に身を隠す。周囲を確認すると、そこには至る所にモンスターが徘徊していた。


 リレイラさんから聞いた話によると、浅草は街全体がダンジョン化しているタイプらしい。ダンジョンの難易度としては品川より少し上。ボスは強力だが、今の俺とアイルなら2人でも行けるはずだ。


「進め方は話した通りだ。まずは周辺の雑魚狩りから始めてダンジョン内の敵の強さを確認する。慣れて来たらアイルのナイフの訓練も挟むからな」


「うん。まずは敵を把握しないとね」


 手で合図すると、アイルが杖に魔力を溜める。頬を掠める冷気。それで氷結魔法が放つ準備ができたのだと分かった。


「3体いるサンダーウルフを狙う。まずは左から攻撃をかける。アイルは2体の足止めを頼む」


「任せて。3秒後に放つから」


 アイルに頷き、俺の隠密魔法をアイルにかける。そしてアスカルオを引き抜いてサンダーウルフ達へと駆け出した。



「グオ!?」



 1体が俺に気付く。奴らが態勢を整える前にアイルが氷結魔法を放つ。氷付くサンダーウルフ。面食らった1体にダガーを投げ付け動きを止め、もう一体にアスカルオを叩き付ける。



「オラぁ!!」


「ギャイン!?」



 一撃で真っ二つになるサンダーウルフ。よし、アスカルオでの剣撃もイメージ通りに放てるな。ショートソードの時と感覚のブレもない。


「グオオオオオオオオ!!」


 ダガーの刺さった個体が背後から飛びかかる。その牙をアスカルオで受け止めた瞬間、狼がビシリと凍り付く。アイルが放った2度目の氷結魔法が直撃していた。すかさずバックステップしアスカルオを薙ぎ払う。粉々になるサンダーウルフ。その背後にいた凍り付いた狼へナイフを投げ付けると、最後の1体も粉々に崩れ去った。



「やった! 楽勝だったわ……」


「グオオオ!!」



 アイルが言いかけた所で背後から別の狼が襲いかかった。


「わっ!?」


 アイルがその手の杖で振り向き様に狼の顔面を殴る。よろめく狼、アイルは杖を捨て、腰のナイフを引き抜いてオオカミを突き刺した。


「グギャアアア!?」


「ひぃ〜!? 嫌な感触したわ!?」


 怯えながらもアイルがナイフを連続で突き刺して行く。サンダーウルフはやがて動かなくなり、レベルポイントの光を溢れさせた。


「はぁ、はぁ……や、やった。ナイフ装備してて良かった……」


 ビビッているが今の動きに無駄はなかった。俺が教えていた時よりも扱いが上手くなってるな。


「やるじゃん。自分でもナイフ練習してたのか?」


「う、うん。学校あって教えて貰う時間あんまりなかったでしょ? だから自主練はずっとしてたの。教えて貰ったことの復習ばっかりだけど」


 なるほどな。それで今の動き、か。


 アイルが胸に手を当て呼吸を整える。戦闘経験はそれなりにあるからな。応用も効く。



 ……。



 これは相当練習してたな、アイルのヤツ。



「もうアイルはベテラン探索者かも」



「えへへ……そうかな?」



 照れ臭そうに笑うアイル。これはナイフを完全に使いこなすのも時間の問題だな。


 



 

どうやら最初の戦闘はクリアできた様子。次回、2人はダンジョンのさらに奥へ。


次回は7/28(日)12:10投稿です。

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[気になる点] ヨロイさん、昨夜はお楽しみでし……た……あれ? ……何事もなかったのね……仕方ないのね……これからなのね……   (´・_・`) [一言] 仲見世通りにある『寅さん』のお団子屋さんが…
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