第124話 461さんからアイルへ
〜461さん〜
ユイのことも落ち着いたので、俺とアイルは次のダンジョン攻略の準備をすることにした。久々のダンジョン攻略……ワクワクするぜ。
まずは装備を整える必要がある。それと頼んでいた物も受け取らないといけない。ということで、俺とアイルは方内武器店へと来ていた。
「ねぇ、なんで武器店に来たの?」
「ま、ちょっと用事があってな」
戸惑うアイルを連れて細い階段を登る。
中に入ると、方内妹がウットリと何かを見つめていた。何を見ているのかと思ったら、壁にかけられた大剣だった。銘は……「飛龍殺し」か、レアアイテムみたいだな。にしてもなんでこんなに見つめてるんだ?
「ミネミちゃん? ミネミちゃん!」
アイルが方内妹の肩をバンバン叩く、すると、方内妹はそこで初めて俺達に気付いたようにのけ反った。
「うああああ!? 店に入る時にちゃんと声かけて下さいっスよ〜!!」
「声かけてたけど……その剣がどうかしたの?」
「ん〜? んふふふ〜♪」
アイルが尋ねると、方内妹はニヤニヤしながら剣を指差した。よく見ると、持ち手のところに紙が吊るされている。アイルがその紙を覗き込んだ。
「何か書いてあるわね……「西のB級探索者、鉄塊の武史様取り置き品」? 武史って前ヨロイさんと中野ダンジョンに行った人だっけ?」
「ああ。ハンターシティにも出てたぜ」
「武史さんがお兄をッスね〜んふふ〜」
ニヤニヤ笑うだけで肝心な所はゴニョゴニョと話す方内妹。不思議に思っていると、今度は奥から方内兄が顔を覗かせた。
「ミネミ。お客さんが来てるならちゃんと……ん?」
妹の様子を見た彼は、自分の話をされていると気付いて苦笑いを浮かべる。
「なんかあったのか?」
「いや〜実はですね……恥ずかしい話なんですが……」
……。
方内兄が教えてくれた。方内兄が担当魔族の不手際で難関ダンジョンに入ってしまったこと。それに気付いた武史がパララもん、ポイズン社長コンビと共に助け出してくれたこと。その後、管理局に抗議し方内兄妹の担当変更の段取りをしてくれたことを。
武史……ハンターシティの閉会式にもいなかったから心配していたが、大丈夫みたいだな。
パララもん達とパーティ組むらしいし東京にも残るみたいだ。今度また会いに行くかな。ハンターシティの時に大剣を貸して貰った礼もしてないし。
「武史さんが助けてくれたっス!! カッコ良かったっス〜!!」
方内妹がまるでナーゴのようにクネクネと体をうねらせる。……なんでそんな動きしてるんだ?
答えを求めるようにアイルを見ると、彼女はイタズラをするような笑みを浮かべた。
「ミネミちゃん、その人のこと好きなんでしょ〜?」
「好きっス!! めちゃくちゃ好きっス!! 名前もカッコいい〜!!」
「お、思ってた反応と違うわね……もっと照れるかと思ったのに」
「本人を前にこんなこと言えないっス〜!!」
両目をキラキラ輝かせながらウットリする方内妹。武史ってモテるんだな。まぁ、あんだけ強いんだ。兄貴が死ぬかもしれないって状況であんなヤツが動いてくれたらそりゃあ好きにもなるか。
(だから配信者のハートを射止めるコツをアイルさんに聞きたいッス)
(な、なんで私なのよ?)
(アイルさん配信者だし、配信者が何をされたら嬉しいか知ってるはずっス〜!)
(配信者か喜ぶこと……う〜ん……そうね……)
何やらコソコソと話すアイルと方内妹を横目に、方内兄へ視線を送る。
方内兄はコクリと頷くと、店の奥から頼んでいた物を持って来た。刃渡10センチほどに作られた3本のナイフ。それがモンスターの皮製ベルトに装備された品を。
方内兄は、ベルトを広げてアイルに品を見せると、丁寧な口調で彼女へ差し出した。
「天王洲アイルさん用に仕立てました。どうぞ」
「何これ?」
「461さんから依頼された品です。僕の知る中でも最高の職人さんに作って貰った一品です」
困惑するように俺を見るアイル。彼女の瞳を見て言葉を続けた。感謝の気持ちを伝えるように、最大限柔らかい口調にして。
「アスカルオの礼だ」
「え、私に……?」
「前から思ってたんだ。アイルにもいざという時の近接攻撃方法が必要だって。それで用意した。まぁ、俺の使い古しみたいなもんで悪いが」
「使い古し?」
不思議そうな顔をするアイルに方内兄が説明してくれる。
「461さんのショートソードを3本のナイフに作り直して貰いました」
「その長さのナイフなら今の杖装備の補助武器に使える。俺のナイフやダガーみたいな使い方ができると思ってよ」
「え!? あのショートソード分解しちゃったの!?」
アイルが大きく目を見開いた。まるで信じられないとでも言うように。そんなに驚かれるか……?
「今の俺にはアスカルオがあるからな。使い古しと言ってもかなり強化した剣だったし、ナイフでもそこそこ威力は出るはずだ」
「ヨロイさんの……ショートソードを、私に……」
アイルがそっとナイフの付いたベルトを手に取り、腰に巻く。アイルの腰に3本のナイフが装備された。
「まぁ、アレだ。気にいらなかったら」
「ううん! すごく嬉しい……ありがとうヨロイさん!」
目を潤ませるアイルを見た瞬間、なぜか俺の目頭も熱くなった。贈り物なんてしたこと無かったから、喜んで貰えなかったらどうしようかと思ったが……良かった。安心したのかもな、俺。
「喜んで貰えて僕も嬉しいです」
「アイルちゃん嬉しそうっス〜!」
「2人ともありがとな」
……。
方内武器店を出てからアイルはずっと機嫌がいい。鼻歌混じりに歩いては時折立ち止まる。
「ふふっ。3本も武器を装備してるなんてヨロイさんみたい」
そして腰のナイフを見てはニヤニヤする。なんかそこまで喜ばれるとだんだん恥ずかしくなってきたぞ……。
「使い方は俺が教えてやるからな」
「うん!」
3本あれば投擲や両手持ちもできる。アイルは杖が基本装備だからそうそう両手持ちなんてしないだろうが。
「ねぇ? アスカルオがあるからって言ってたけど、なんでプレゼントしてくれたの? ……大会終わった時はジークに譲ろうとしてたのに」
「まぁ、その、アレだ。アイルに怒られてからさ、考え直したんだ。アイルが必死になって俺を優勝させてくれたから、今これを手にしてるんだって。だから真剣に使いこなしてみせようと思う」
「ふぇ?」
これはきっかけだ。アイルがくれたきっかけ。いつの間にか俺は馴染んだ戦闘スタイルに頼り過ぎていた。上手くやれば更なる攻撃バリエーションが手に入るかもしれない。
「あのショートソードを手放したのは、その意思表示でもある」
なぜかアイルはモジモジしていた。顔は耳まで真っ赤でキョロキョロと視線を彷徨わせて。そして、俺の顔を見ると徐々にその顔が緩んでいく。
「私もがんばる! だから……いっぱい教えてね?」
「任せとけ」
俺も絶対使いこなしてみせる。聖剣アスカルオを。
次回、461さんはアスカルオを使いこなす為に特訓を開始。461さんはアスカルオの能力を引き出そうとして……?次回、リレイラさん好きは必見です。
次回は7/24(水)12:10投稿です。よろしくお願いします。