第122話 武史、立ち直る。
ボスを倒した後、俺達は念の為ルール通りに道を戻り、出口へ向かった。そこにあったのはA1出口の看板。一瞬戻されたかと焦ったが構わず進むと、閉じ切っていたはずのシャッターが開いていた。
「お、もう悪夢の重装騎士が消えたから元の駅に戻ったみたいだな〜」
ポイズン社長が大きく伸びをする。その横で、パララもんとワタリが飛び跳ねて喜び出す。なぜか俺も2人に手を取られて3人で回ることに。
「出口なのだ! 長かったのだー!!」
「ついに外に出れましたよ! みなさんありがとうございます!!」
「お、お〜良かったな〜2人とも〜」
「武史! 武史が1番がんばったんだからもっと喜んでいいのだ!」
「そうですよ武史さん! 遠慮しないで下さい!!」
2人に真剣な表情で見つめられる。困ってポイズン社長を見ると、彼は微笑ましいものを見るように腕を組んでいた。は、恥ずかしいでこれは……さすがに……。
「や、やったぜ〜!」
「ふふん! やっぱり武史も嬉しかったのだ!」
俺の反応に満足したのか、パララもんが手を離して階段を駆け上がっていく。
「外なのだ〜! ……暑い゛の゛だ!?」
軽快に階段を登ったパララもん。彼女は階段を登り切った瞬間日陰に逃げ込んだ。なにやってるんやアイツは。
「何やってんのやパララもん。そんな大袈裟な……あ゛つ゛っ!?」
灼熱のような気候に俺も思わずパララもんのいる日陰に逃げ込んでしまう。そうやった……外ってめちゃくちゃ暑かったよな。中が涼しかったから忘れてたで……。
思わずしゃがみ込むと、パララもんが手を差し出して来た。
「ありがとう武史。僕達を守ってくれて」
さっきまでと違う口調。照れ臭そうに笑う彼女。それを見ていると、パララもんがなんだか普通の女の子ように見えた。
麻痺を使いこなすA級探索者ではあるけど、少し抜けていて、でも優しい……普通の女の子に。
俺は、ダンジョンに挑んだ時から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「なぁ、パララもん。なんで俺に「コラボしよう」なんて言ったんや?」
「え? う〜ん……」
パララもんが恥ずかしそうに前髪を触る。
「武史、自信が無いのかなって思ったのだ。僕もハンターシティまで全然自分に自信持てなかったから……心配になったのだ」
そういやポイズン社長も言ってたよな。パララもんはハンターシティから変わったって。
「だからね、誰かと一緒にダンジョンに挑めば、前の僕みたいに元気になってくれるかなって……そう思ったのだ」
……そうか。
俺だけじゃなかったんや。パララもんには彼女なりの悩みがあって、それを乗り越えた……地続きなんや。A級とか、B級とか、ランクでキッチリ分けられている訳じゃなく、どんなヤツも過去の自分と戦っとる。きっとジークリードも。
それだけのことやったんやな。他人と比べるなんて意味はなかったんや。見るべきは自分だけ。過去の自分を超えることだけに集中すればいいんや。
「……ありがとな」
「えへへっ! 僕も楽しかったのだ!」
「俺らも随分武史に助けられちまったしな〜!」
いつの間にか後ろにいたポイズン社長。彼とパララもんが揃ってニヤリと笑う。
「武史! パーティ組もう! 僕達ゼッタイ相性いいのだ!」
「そうだぜ! 武史がいればもっと色んな所に挑めそうだしな〜!」
「え!? それやと俺の拠点東京になってしまうで!? 今も借宿住まいやしなぁ……」
「住む所が無いならうちに来ればいいのだ! ね? いいよねポイくん?」
「パララがいいなら俺はいいぜ〜!」
マジか。トントン拍子に俺のパーティ入りが決まっていくで。でも、これで弊害はなんも無いよな?
「ワタリはどうするのだ? パーティに入らない?」
「え!? ぼ、僕ですか!? 僕はさすがに……皆さんにはもっと相応しい人がいますよ」
「そっか……残念なのだ」
少し寂しそうな顔をするパララもん。ワタリはそんな彼女に向かって微笑みかけた。
「でも、また店に来て下さい。皆さんなら沢山サービスしますから!」
サービスと聞いてポイズン社長が飛び跳ねる。
「サービス!? じゃあ今度またいくぜ〜!」
「絶対行くのだ! いっぱい買うのだ!」
飛び上がって喜ぶ2人。しかし彼らはワタリに振られたことで不安になったのか、少し心配そうな顔になってしまう。表情がコロコロ変わるヤツらやなぁ。
「で、武史はどうするよ?」
「どうするのだ?」
不安気な顔。そんなに心配せんでもええのに。俺の答えは決まってるし。
「……ああ。キッチリ務めさせて貰うで」
「やりぃ!」
「やったのだ〜!」
パララもんとポイズン社長が手を取って踊り出す。ほんと見てて飽きへんヤツら。ホント騒がしい。でも……。
そんな2人に、めっちゃ救われたな。俺。
「武史が来るなら2階片付けねぇとな!」
「撮影部屋も作るのだ! 絶対楽しいのだ!」
何やら家のことを相談する2人。それがなんか子供みたいや。これから、楽しくなりそうやな。
◇◇◇
ダンジョンを出ると、ポイズン社長とパララもんはアーカイブ動画の編集と家の片付けがあると言って先に帰ってしまった。
俺は、ワタリを送り届ける為に秋葉原の方内武器店へ行った。
扉を開けると、カウンターにいたミネミちゃんがハッと顔上げ、隣にいるワタリの顔を見るとボロボロと涙をこぼした。そしてワタリに駆け寄って抱き付くと、声をあげてオイオイと泣き出してしまう。
ワタリは、妹が泣き止むまで謝り続けた。
……。
ミネミちゃんが泣き止んでから、飛竜殺しを2人に返した。
「ワタリ。この「飛竜殺し」やけど、取り置きして貰うことはできるか? 金貯めたら絶対買いに来るから」
「武史さんなら喜んで! パーティでの活躍も応援してます!」
「ははっ、ありがとなワタリ。お前らの担当の件はしっかり管理局に報告しとくからな。安心せえ」
「ありがとうございます。本当に……」
店に着いて安心したのか、ワタリもうっすらと涙を浮かべる。彼の肩を叩いて店を出ようとすると、不意に手が引かれた。振り返るとミネミちゃんが俺の手を掴んでいた。
「武史さん、本当にありがとうっス」
「俺だけの力ちゃう。礼ならパララもん達に……」
「た、武史さんのおかげっス! 私はそう思うっス!」
「ありがとな、ミネミちゃん」
恥ずかしそうに顔を赤くする女の子。この子が悲しまなくて本当に良かった。ワタリが死んでしまうようなことにならなくて本当に、良かった。
チラリと飛竜殺しに目を向ける。あのボスを倒せたのはこの剣のおかげでもある。それに……あのダンジョンで感じた色んなことは、俺は絶対忘れたくない。だから絶対買いにくる。待っとれよ飛竜殺し。絶対お前を迎えに来るからな。
まずは式島のオッサンに会って元の剣を回収して……それから荷物をまとめてポイズン社長とパララもんの家に行って……ツェッターでパーティのこと告知もせんとな。やることいっぱいや。忙しくなるな。
ふと何かを思ったのか、ワタリはカウンターからノートとペンを持ってきた。
「武史さん、取り置き用に正式な探索者名を聞いてもいいですか?」
「私も! もう1回聞いておきたいっス!」
「俺の探索者名か? 俺は……」
息を吸う。俺はこう名乗ろう。卑屈やなくて、今の俺の全てを受け入れるために。
「俺は武史。西のB級探索者、鉄塊の武史や!」
今度こそ自分を信じて進もう。これから先……どれだけ打ちのめされても、不安を感じても、もう大丈夫。きっと乗り越えられる。
俺はもっと強くなる。
強くなって、もっと楽しんでやるんや!
これにて清澄白河ダンジョン攻略編の本編は終了です。武史の今後の活躍にどうぞご期待下さい。
そして、掲示板回を1話挟みまして、再び461さんのお話へと戻ります。
ユイを助けて一段落着いた461さん達。次のステップに向けて461さんは「アレ」を使いこなそうとします。どうぞお楽しみに。
次回は7/21(日)12:10投稿となります。どうぞよろしくお願いします。