第121話 武史、ボスに挑む 【ボス戦配信回】
ワタリを連れて俺達はさらに進んだ。その間に起こった異変も大概やった。
壁に同化していた人型魔物が襲って来たり、濁流が襲って来たかと思えば巨大なスライムやったり……まぁ、スライムはパララもんの麻痺魔法受けた瞬間動きが変になったから流石に気付いたが。
そういった異変モンスターを倒しては引き返した。そして、ついにワタリが一度行ったという「A8」番の出口へと辿り着いた俺達。ワタリの話によるとここにワイシャツを着たオッサンが現れたらしい。そろそろこの変なダンジョン攻略も大詰めってことやな。
そうして毎度のように直線通路を進んでいると、ヤツが現れた。
「あ、あ! アイツですよ!」
ワタリが遠くから向かってくるサラリーマン風のオッサンを指す。ワイシャツにスラックス、右手には営業カバン、立ち止まってスマホまで操作しとる。マジで普通の人に見えるな。
「本当に普通のおじさんなのだ」
アイツが悪夢の重装騎士なんか。人間に見えるがモンスター……倒さんとこのダンジョンからは脱出できへん。
背中の飛竜殺しに手をかけると、ポイズン社長がポリポリと頭を掻いた。
「な〜ワタリ? アイツもモンスターだろ? ここで逃げて脱出とかできるんじゃね?」
「僕も最初逃げようとしましたけど、出口に着く前に待ち構えてるんですよアイツ。多分ループを把握して回り込んで来るんだと思います」
「ちぇっ。ダメか〜」
ポイズン社長が残念そうな声を上げる。しかし、次の瞬間には戦闘時の顔付きに変わっていた。
「うしっ。じゃ、仕方ねーからアイツぶっ倒すか〜!」
その声で飛竜殺しを構える。ここに来るまでで俺達の戦闘スタイルはおおよそ固まった。
俺が前衛で防御と攻撃を務め、パララもんが隙を作り、ポイズン社長が毒攻撃と、俺の攻撃の合間を縫って剣撃を撃ち込む。俺が傷付いた時はワタリが回復薬を使ってくれる。相手は1体や。この戦法で行けるハズ。
ポイズン社長が自分の頬を両手で叩く。そして気合いの入った声でパララもんに指示を出した。
「気合い入れろよ武史! パララ! 景気付けだ! 配信開始しろ!」
「分かったで!」
「了解なのだ〜!」
パララもんが腰のポーチから小型ドローンを取り出す。オレンジ色と緑のラインが入ったビビットな色のドローン。パララもんが空中に投げると、筆記魔法によって変換されたコメントが空中に流れた。
〈やっと始まった!〉
〈ボス戦まで結構かかったな〉
〈パララもんかわええ!〉
〈楽しみなんだ!〉
〈のだ〜好き!〉
〈ひゃだ!?ポイズン社長見ようと思ったら武史までいるじゃない!?〉
〈ネキが紛れてるw〉
〈ボスは?〉
〈ワイシャツのオッサンしかおらんぞ〉
オッサンが徐々に近付いて来る。それが黒い影を纏っていき、俺達の前に来る頃には漆黒の重装騎士に変化していた。2メートルを超える体躯、左手には巨大な盾、右手には大斧。だが、ヘルムを被った顔だけは笑顔のオッサンという不気味な姿に。
〈!!?!?!?!?〉
〈変わったんだ!?〉
〈怖っ!?〉
〈ヘルムの中はオッサンの顔のまま……〉
〈オッサンめっちゃ良い笑顔やんけw〉
〈不気味!?でも嫌いじゃないわ!〉
〈嫌いじゃないんかい!〉
「笑顔が眩しいのだ……気持ち悪いのだぁ……」
パララもんが怯えた表情になった瞬間、悪夢の重装騎士が轟音を上げながら突撃して来た。
「フオオオオオォォォォォォ!!!!」
剣を肩に担ぐ。あのデカさにあの武器、俺が前衛務めんとな。並の防御力なら一撃でペシャンコや。
「俺が前衛やな」
「頼んだぜ武史! パララ! 麻痺魔法撃ちまくれ!! ワタリは最後尾な! 俺が合図するまで待機しろ!」
「分かったのだ!」
「は、はいっ!」
ワタリが1番後ろに行ったのを確認してから、ポイズン社長が剣を引き抜く。
「武史、俺らが魔法使う。そしたら走れ」
「了解や!」
ポイズン社長が片手をヤツへ向けると、パララもんもそれに合わせるように両手をかざした。
「麻痺魔法!!」
「猛毒の牙!!」
2人が魔法名を告げたのに合わせて駆け出す。パララもんから放たれる麻痺魔法の光の線と、ポイズン社長の放った円錐状の毒魔法。それが重装騎士に襲いかかる。
「フンッ!!」
しかし、ヤツは巨大な盾に身を隠すと、2人の攻撃を受け止めてしまった。
〈うわああああああ!?〉
〈効いてないじゃん!?〉
〈ヤバいんだっ!?〉
〈硬そうねアレ!?〉
〈ネキが言うと違う意味に聞こえる〉
〈失礼すぎやろw〉
「クッソ! あの盾邪魔だな〜!」
「防がれちゃったのだ! 盾がデカすぎるのだ!」
この狭い通路では挟み撃ちすることもできんか。まるで壁やな、アイツ。
「だけどよ、隠れるってことは状態異常に警戒してるってことだぜ? 武史、あの盾ぶっ壊せるか!?」
盾を壊す? あの盾、異世界金属製に見えるな。厚みも20センチ以上ありそうや。だが、ポイズン社長の攻撃を通すにはあの盾が邪魔。確かにそうや、そうやが……俺にやれるんか?
信じられるんか? 自分を。
「お前の威力ならイケるって!」
「ここに来るまで攻撃見てきたから分かるのだ!」
ポイズン社長とパララもんあの声……俺を信頼してくれてる声や。武史、お前はあの2人を裏切るんか?
……。
「分かった! やってみるわ!」
飛竜殺しに魔力を溜めながら駆け抜ける。俺が攻撃すると悟った重装騎士は再び巨大な盾を構えた。
〈武史の攻撃!!〉
〈盾構えてるじゃん相手〉
〈素人か?〉
〈防がれちゃうんだ!?〉
〈武史ならやれるわよ〉
〈いや、無理だって〉
〈流石に厚すぎだろ〉
聞け、俺。散々お前は鍛えたはずや。式島のオッサンにも見込みがあるって言われたやろ。俺が今までやって来たことは無駄やない! 信じるんや!
それに……。
ミネミちゃんの泣いた顔見たやろ!? ワタリを無事送り届けるんや。失敗した時のことなんか考えるな!
「俺は……」
信じろ。
「俺なら!!」
信じてみせろ。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
壁を蹴って飛び上がる。縦に回転しながら飛竜殺しを構えて、俺の技を放った。
「岩烈斬!!!」
重装騎士の盾に大剣を叩き付ける。その瞬間、ビシリと盾にヒビが入った。
〈!!?!?!?!?〉
〈うあああああああ!?〉
〈マジ!?〉
〈ヒビ入った!?〉
〈嘘だろ!?〉
〈いけそう!?〉
〈武史がんばるんだ!!〉
〈イケるわよ!!〉
技を放った直後、再び魔力を溜める。着地と同時に横回転を加えた一撃を放つ。
「らああああああああああ!!!」
「フオォ!?」
直撃する刃。盾に刻まれたヒビがさらに増えていく。それを見ながらもう一度飛び上がる。
「これで、どうやああああああああ!!!!」
再び放つ岩烈斬。その一撃が、盾を粉々に粉砕した。
〈いったあああああああ!!!〉
〈盾が割れたんだ!?〉
〈割るか普通!?〉
〈攻撃力ヤバ!?〉
〈え、アイツB級だろ!?〉
〈めっちゃ強いじゃん!!〉
〈やったわね、武史……〉
〈ネキなんか感動しとるw〉
「フォォォォ!!!」
怒り狂った重装騎士が右手の斧を叩き付ける。それを飛竜殺しで受け止める。受け止めた瞬間、両足が地面にメキリと沈み込んだ。なんて重い攻撃や……っ! 俺の鉄壁のスキルをもってしても衝撃ヤバイで……っ!?
だが、今の俺にはパーティメンバーがおるっ!!
「しゃっ! 行くぜパララ!!」
「任せるのだーーーー!!!」
パララもんとポイズン社長が連続で魔法を放っていく。
「フォォォォォォォ!?」
麻痺魔法が連続で直撃し、動きがぎこちなくなる重装騎士。その隙を突いて飛竜殺しの一撃を放った。
「グアアアアアアアアッ!?」
苦しみの声を上げながら重装騎士が再び攻撃を放つ。
「ぐぅっ!?」
それを飛竜殺しで受け止めた瞬間、両腕からブシュリと血が吹き出た。クソッ。敵も必死になったな。俺のスキルを上回る一撃を放って来よった。
〈うわああああああああ!?〉
〈敵も威力高けえええええ!?〉
〈血が出てるんだ!?〉
〈あんなん無理だろ!?〉
〈マズイって!?〉
〈逆転される!?〉
〈がんばるのよ武史!!〉
「グオォォォォォォォ!!!」
連続で放たれる大斧。それを飛竜殺しで受け止める。生まれた隙。そこへ剣撃を叩き込む。反撃の一撃が俺の顔面に直撃する。発動する鉄壁。それが俺の命を繋ぎ止める。だが、衝撃は殺しきれず意識が吹っ飛びそうになる。歯を食い縛って耐え、さらに一撃を与えた。
「ウラアアアアアアアア!!!」
「フオオォォォオオオオ!!!」
〈ガチでやり合ってる!?〉
〈武史強いんだ!!〉
〈なんで耐えられるんだよ!?〉
〈武史のスキル「鉄壁」は物理防御を100%上昇させるのよ!!〉
〈にしてもヤバすぎ!?〉
〈タンク役めっちゃ優秀やんけ!〉
「フォ!?」
攻撃の合間に撃ち込まれていたパララもんの麻痺魔法。それがヤツの抵抗値を上回ったのか、重装騎士が片膝を付いた。完全に麻痺になったのか?
その隙を見逃さず、ポイズン社長がヤツの懐へと飛び込む。
「猛毒魔法!!」
ポイズン社長が魔法名を告げ、剣をなぞると、毒魔法が付与され刀身が紫の光を放った。
「うおおおおお!!」
ポイズン社長がヤツの鎧の継ぎ目に剣を突き刺す。次の瞬間、重装騎士が苦しそうにのたうち回った。
「グギャアアアァァァァ!?」
「よし! これで完全に毒状態になったな!」
「ポイズン……社長……助かったで……」
頬を伝う生暖かい感触。それが攻撃の威力を物語っていた。脚の力が抜けそうになるのを、ポイズン社長が支えてくれた。
「サンキューな。武史のおかげでだいぶ毒撃ち込めたぜ。ワタリ! 武史に回復薬頼む!」
「はい!」
いつの間にか俺のすぐ隣にいたワタリ。彼が回復効果の高い高濃度回復薬をかけてくれる。全身の痛みが引き、再び両脚に力が入る。ポイズン社長に支えてくれた礼を言って、再び自分の足で地面を踏み締めた。
「だ、大丈夫ですか武史さん!?」
「……気にすんな。俺はまだまだ動けるで。それよりもっかい後ろに下がっとれ。ワタリを連れて帰るのが、ミネミちゃんとの約束やからな」
「はい……どうか気を付けて」
ワタリが再び離れて行く。いい判断や。自分がまだ弱いのをよく分かっとる……今の俺と同じや。自分の役目を分かってる動きやな。
「みんな! アイツそろそろ麻痺から立ち直るのだ!」
重装騎士へと麻痺魔法を撃ち続けていたパララもんが叫ぶ。ヤツは、ゆっくりとだが確実に起き上がっていた。
「おう。任せとけやパララもん。しっかり俺が守ったるからな」
「……!? ちょっとカッコいいこと言うんじゃないのだ! 敵が来るのだ!」
「グオォォォォォォォ!!!」
雄叫びを上げて一気に立ち上がる重装騎士。俺が前に出てヤツと向かい合う。後ろにはパララもんとポイズン社長。なぜか、2人を守らなければと思うだけで、俺の胸が熱くなった。
「行くぜ武史、パララ! こっから長期戦だぜ!!」
「おう!!」
「のだ!!」
ポイズン社長の声で、俺達は悪夢の重装騎士へ攻撃を仕掛けた──。
◇◇◇
俺達は、30分以上重装騎士と戦いを繰り広げた。とにかくヤツは体力が高かった。攻撃を俺が受け止め、一撃を放つ。パララもんが動きを止め、ポイズン社長が徐々にヤツの体力を奪う。俺が傷付いた時にはワタリが駆けつけて回復してくれる。みんな、それぞれの役割を全うし、ついにその時が訪れた。
「ふ、オ、オオオ……」
「武史!! トドメ頼むぜ!」
「分かったで!!」
大剣を構え、空中へ飛び上がる。俺を見上げる重装騎士。そのニヤニヤと笑みを浮かべる顔へと向けて、全力の一撃を放つ。
「なにわろとんねん!! だらアアアアアアアア!!!」
「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
刃がヤツの顔面に直撃した瞬間、ヤツは雄叫びとも笑い声とも取れるような声を上げ絶命し、レベルポイントの光を吐き出した。
〈倒したのだああああああああ!!!〉
〈うあああなのだああああああああ!!!〉
〈ポイズン社長とパララもんの配信にしては早く終わったのだ!!!〉
〈いつも長丁場なのだ!〉
〈武史のおかげなのだ〉
〈カッコ良かったんだ!〉
〈嫌いじゃないのだ!〉
〈みんな口調パララもんになってるのだw〉
〈1人だけ違うヤツいるのだw〉
〈投げ銭なのだ!:8666円〉
〈ご祝儀なのだ!:8666円〉
〈頑張ったのだ!:8666円〉
〈皆で分けるのだ!:8666円〉
〈みんな偉いのだ!:8666円〉
〈応援してるのだ!:8666円〉
「みんなありがとうなのだ〜!」
「投げ銭あざっス!」
コメントが流れる中、パララもんが配信を終了する。パララもんは、ドローンを腰のポーチにしまうとワタリを呼んだ。
「やったな〜!」
「やったで!」
「やったのだー!」
「やりましたね!」
俺達はハイタッチしたり抱き着いたりして、喜びを分かち合った。もう勝手に身体が動いてしまってた。
それが嬉しくて、興奮していて、その瞬間は何物にも変え難いほど……最高やと思えた。
次回、パララもんとポイズン社長が武史にある提案を……?
楽しかった、続きが少しでも気になった……。
嫌いじゃないわ!
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レビューなど頂けましたら泣いて喜びます(切実)
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