閑話 アイルとリレイラ
〜天王洲アイル〜
渋谷にスキルイーターを捕まえに行くことになって、461さん達は慌ただしく準備を始めた。私も準備したけど、自分の用意はすぐに終わってしまった。
やることがないから庭園でみんなを待つことにする。近くにいたメイドさんに伝言を頼んで屋敷の外に出た。広い庭園。そこに置いてある小さな椅子とテーブルの所まで歩いていく。座って伸びをすると爽やかな風が頬を伝った。
シィーリアの屋敷って不思議。もうすっかり夏なのに、ここにいると全然暑くない。春先かと思うほど快適で、そよぐ風も冷たくて気持ちいい。
そうしてボーッとしてると、昨日の……ハンターシティのことを思い出した。
「ヨロイさんに……言っちゃった」
あの言葉、聞こえてたのかな。リレイラが伝えるまで言わないって言ったのに……私のバカ。
どうしよう……振られたらもう、ヨロイさんと一緒にいられないかな。リレイラとも……。
考えたら急に涙がジワリと浮かんだ。あの2人ともういられないなんて、そんなの嫌だよ。私は……。
でも、胸の奥が苦しい。手を繋ぎたい。
ヨロイさんの手を握るのが好き。代々木で初めて繋いだ時からずっと。手を握ると安心するの。ヨロイさんの手が、徐々に力が強くなって……嬉しかった。私のこと離さないようにって……してくれてると感じるから。
どうしよう。私最低だ。ユイさんのこと集中しなきゃいけないのに、リレイラのこと傷つけたくないのに……止まらない。
「アイル君?」
急に声をかけられる。振り返ると、不思議そうな顔をしたリレイラが立っていた。
「リレイラ……」
「ど、どうした? 泣いてるのか?」
リレイラが隣の椅子に座って私の背中を摩ったくれる。優しくてあったかい手。この手も大好き。六本木をクリアした後に、461さんを引退させてしまいそうになって、焦って泣いてしまった私を慰めようと摩ってくれて……。
「ありがとう……。ねえ、リレイラ?」
「どうした?」
「もし……もしリレイラがね、大切な友達と同じ人を好きになったら、どうする? それをお互い知ってしまったら……」
なんでリレイラに聞いてるのよ。バカなの私……。
「同じ人を? うぅん……」
リレイラが考え込む。不安になって彼女の顔を見ると、リレイラは言葉を選ぶようにポツリポツリと話してくれた。
「私なら、悩むと思う。気持ちも抑えられないし、友達も、失いたくない」
「リレイラ……」
「だからね、考えていたんだ。私の大切な友達に伝えることを」
「なんて、言うの?」
リレイラは、私の目をまっすぐ見つめた。
「自分の気持ちを大切にして……そう、言うかな」
「え」
「アイル君は自分に正直でいいと思うよ。私はそのせいで12年も無駄にしてしまった」
「で、でも」
「私にとってはどちらも大切。アイル君がもしそうなら、私はそう言う。君に……私の12年のような思いをさせたくないから」
その言葉に、思わずリレイラに抱きついてしまう。
「あ、アイル君!?」
「ごめんね、ごめんね……リレイラ……」
全て話そうとして、上手く言葉にできない。涙が止まらない。彼女の胸で泣きじゃくってしまう。
「……」
リレイラは、そんな私を抱きしめてくれた。
「謝ることなんてないよ。君は私の大切な人をずっと守ってくれている。そんな恩人にね、想いを諦めろなんて言えないし、言いたくない。自分の想いに、正直であって欲しい」
「うん……うん。リレイラも……」
「ふふっ、そうだな。私も抑えられそうにない」
リレイラは、私が泣き止むまで抱きしめてくれた。
次回、461さん達はスキルイーターを探して再び渋谷ダンジョンへ。そんな中、アイルの様子が何か変で……? アイルが461さんにあるお願いをするお話です。
時間は7/10 12:10投稿です。
今後の投稿スケジュールは下記となります。
月、水、木、金、日 各12:10投稿。
お待たせしまして申し訳ございませんがどうぞよろしくお願いします。