第113話 たった1つの方法
〜461さん〜
ハンターシティの翌日。
──シィーリアの館。ユイの部屋。
「んだよこれぇ!!! 離せ!!!」
シィーリアの魔法により、手足を魔法の鎖で繋がれたユイ。彼女は透明な鎖を引きちぎろうと力を入れるが、鎖はビクともしなかった。
彼女の部屋に行った時、そんなユイをメイド長の「ハルフェル」がにこやかに世話をしていた。
「ほらほらユイ様。そんなに暴れたらお着替えができませんよ〜」
「子供扱いすんじゃねぇえええ!!!」
ユイが両腕を叩き付けるが、ハルフェルが彼女の攻撃を手でいなす。そして次の瞬間には…-どうやったのか、ユイの服をスルリと奪ってしまった。黒い下着姿になったユイは自分の姿を見てさらに激昂した。
「何脱がせてんだよテメェ!!!」
「ふふっ下着は女性らしい物を着けられているのですね」
「うるせえええええええええええええええええ!!!!」
ユイって一日中あのテンションなのか?
その様子を眺めていると、肩を叩かれる。振り返るとそこにはミナセが立っていた。鋭い瞳で俺の事を睨みながら。
「ちょっと鎧さん……何してる訳?」
「え? ユイがどんな様子かと思ってよ。シィーリアに」
「着替え覗いていい訳ないでしょ!!!!」
ミナセに怒られた。声を聞きつけてやって来たアイルとリレイラさんにもめちゃくちゃ怒られた。
あんな殺気立っている奴の下着姿を見てもなんとも思わないと言ったら、余計に怒られた。俺はシィーリアに「様子を見てやってくれ」と言われたからユイの部屋に来ただけなのに……まさか目の前で着替えが始まるなんて予想出来る訳ねえじゃん。理不尽だ。
女性陣に部屋を追い出されたので客間に戻ろうとすると、廊下の壁に背を預けたジークがなぜかウンウンと頷いていた。
「俺もミナセが着替えていることを知らず部屋に入ってしまい怒られたことがある」
「なんで事故なのに怒られるのは俺達なんだろうなぁ……」
「全くだ」
俺たちは、悲しみを分かち合った。
◇◇◇
俺とアイル、リレイラさんはシィーリアの館に呼ばれていた。昨晩、ルリアとシィーリアの話し合いの末、ユイは許されたらしい。いくつか条件はあるようだが。
大きなテーブルの設置された客間。俺、アイル、リレイラさん、ミナセ、ジークがテーブルにつく。そして全員が座ったのを見届けてから中央のイスにシィーリアが座った。
状況をシィーリアが説明してくれる。ユイの中にある「狂乱」のスキル。これを取り除かなければ、ユイはずっと感情が入り乱れ、苦しみに囚われたままだという。
「スキルを取り除くだけならば、方法はある。探索者を引退させれば良いだけのことじゃ。しかし、それでも体内からスキルが消滅するまで数年はかかるじゃろう」
リレイラさんが唇を噛み締める。
「それまでこのままにしておく訳にも……ということですね」
魔法の鎖で繋がれているのも相当なストレスだろう。長期間ユイをこのままにしておく訳にはいかないな。
「他にスキルを消す方法は無いの?」
心配そうに聞くアイル。そんな彼女にシィーリアは残念そうに首を振った。
「スキルを消せるような魔法でもあれば良いのじゃが、あいにく魔族の魔法にもそのような物は無いのじゃ」
「ユイ……」
俯くミナセ。ジークがそんな彼女の背中を摩る。それを見ながら考える。どうする? 問題は引退後にスキルが消滅するまでの時間稼ぎだ。常に効果を発揮し続ける常在スキルは、体内から消滅させないと効果が続いてしまう。
どうすれば……。
全員でうんうん唸っていると、シィーリアのスマホが鳴った。彼女は申し訳なさそうな顔でスマホを耳にあてる。仕事か? ハンターシティの翌日なのに、管理局の部長っていうのは大変なんだな。
「シィーリアじゃ。そうか。それは……」
シィーリアが席を外して廊下へと出ていった。うっすら聞こえる彼女の言葉。そこから察するに、池袋ハンターシティの主犯、長谷部という男を亜沙山に引き渡した報告の電話のようだ。
……ん?
そういや長谷部が使ってたアレってどうなったんだ?
「すまんの。それでユイのスキルのことじゃが……」
席に戻って話を続けようとすシィーリア。彼女の話を一度止めて、気になったことを聞いてみる。
「その前に聞きたいんだけどよ。あの不死鳥を操っていた支配者の指輪はどうしたんだ?」
「ん? ああ……妾が管理を一任されておる」
シィーリアが管理?
その一言で頭の中が急激に回転する。スキル、指輪、モンスター。このワードが俺の頭の中で繋がれていく。
「じゃあこの屋敷に支配者の指輪があるってことだよな!? 見せてくれ!」
アレがまだ使えたら、方法はあるかもしれない。
「どうしたんだ鎧?」
「なんか思い付いたの?」
不思議そうな顔をするジークとミナセを手で制し、シィーリアへと視線を向ける。
「話は後だ。シィーリア! 支配者の指輪に鑑定魔法を使わせてくれ!」
◇◇◇
屋敷のメイドが持ってきた宝箱。それを開けると異世界文字が刻まれた指輪が入っていた。それを握りしめて鑑定魔法を発動する。みんなが見守る中、俺の頭の中に指輪の記憶が流れ込む。
指輪の製作者が説明している様子……モンスターを操る……回数制限……3回だけモンスターを操ることができる能力……。
「やっぱりだ。この指輪は3回制限のアイテム。あと1回使用を残している」
後はあのモンスターを支配して……いや、まだだ。まだ確かめることがある。ぬか喜びするな。
考えていると、アイルが机を叩いて立ち上がった。
「ねぇ!! 自分だけ分かったようなこと言わないで教えてよ!!」
「ちょっと待ってろアイル。リレイラさん。|スライム種の寿命は何年だ?」
「スライム種? スライムの寿命は20年から30年ほどだが……」
「よし!!」
全てが繋がったことに思わず立ち上がってしまう。
……いける。この方法なら十分な時間を確保できる。
「なんじゃ? 何か思い付いたのかヨロイ?」
「この指輪を使ってあるモンスターを支配下におく。そうすれば……ユイが助かる。」
「ホント!?」
ミナセの顔がパッと明るくなる。みんなの視線が俺に集まる。みんなを見渡し、俺は全員がよく知る「アイツ」の名前を口にした。
「スキルイーターさ」
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あとがき。
次回、閑話になります。渋谷に行く前のアイルとリレイラさんのお話です。ぜひお読み下さい。