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第8話 二つの心

 人間を凌駕するように進化した祖先へ感謝せねば。


 他の部屋には目もくれず、ひたすら目的の場所まで走る。

 そして目的の王座の間まで辿り着くと、扉の守衛を飛び越え、宙に浮いた瞬間、分厚いドアを蹴って押し出す。


 扉は勢いよく開き、私の体は転がる石のように王座の間へ流れこんだ。


 大広間の中央へ来ると膝を丸めて頭を床に押し付け――――土下座。


「申し開きがあります!」


 駆け寄った守衛が私を挟み、両脇を抱えて王座の間から摘み出そうとした。

 少し抵抗を見せると王子は命令を下す。


「醜い魚人め。その礼儀を知らぬ俗物を、早く追い出せぇ!」


 どさくさに紛れて私は室内に、こだまするように声を大にして言う。

 

「王子の心は二つ存在しております!!」


 王座の間がどよめき、顔を見合せて互いに答えを求める。

 私の言葉に激しく反応したのが他でもない、目の前の王子だ。


「たわけぇっ! 余はこの世でただ一人。唯一無二の存在である。余の心が二つなど、ありえん!!」

 

 さすがにこれ以上、騒ぎを大きくすれば、首をハネ飛ばされかねない。

 ここは大人しく引き下がるしかないか。


 守衛に両脇を抱えられて廊下まで追い出されると、宰相が後を追いかけ呼び止める。


「待て」


 宰相は顎で指して守衛に引き下がるよう指示する。


 指示通り守衛が去ると彼は私の側へ近づき、周囲を気にしながら聞いた。


「先程の話は誠か? 王子の心が二つと」


「アレは…………ウソです」


「ウ、ウソだとぉ!? キサマぁあ……」


「そうでも言わないと、話を聞いてくださらないと踏んでのことです。ここからが本題です」


「……虚偽ならば、ただではすまぬぞ」


「絵空事を語る為に、城内の槍や弓矢を避けて来たわけではありませぬ」


「ふん、覚悟は解った。なら申してみよ」


「仮に人格が二つか三つ、あるいは悪魔か神に取り憑かれるなどの奇々怪々があれば、心が二つ以上存在します」


「な、何? では王子は悪魔に……」


「ですが、それなら私が、最初に心眼ルーペで王子の心を覗いた時に解ります」


「ええい、回りくどい! 詰まる話はなんなのだ?」


「王子は心の"原石"までも(けが)れております」


「げ、原石が穢れているとな?」


「心の奥底、もっと根深い所まで穢れているのです」


「解らぬ。そもそも原石とはなんだ?」


「人間の心は宝石というほど単純ではありませぬ。心の原石は人の学問では精神や深層心理など、いくつも分類されており、突き詰めれば生命力や魂とも言われます」


「そこまでくると、神の領域だ」


「私ら研魔士は、その原石の穢れが酷い部分を切り取り、宝石として表面に出して穢れを削り落とすのです。そうすることで、魂たる原石が穢れで犯されることを防いでいます」


「なるほど、話が見えてきた」


「まともな心なら研魔し終わった宝石は、川の流れが池や海に流れつき合流するように、自然と原石と融合します。しかし、王子の穢れた原石は城専属の職人が研魔した、精錬な宝石を拒絶した。それは王子自身が誠実さや、人としてあるべき正しさを拒んだをことへの現れです。そして原石は、宝石が再び穢れるのを待ってから蹂躙したのです」


 私は一息付いてから二の句を足す。


「私が最初に心眼ルーペで王子の心を覗いた時、穢れた原石に気が付かなかったのは、融合する前の穢れた宝石の裏に、原石が隠れていたからです」


「まさしく奇々怪々……で、その原石までも穢れていると、どうなるのだ?」


「打つ手がありませぬ」


「な、何? ここまでもったいぶって、打つ手無しだと!? 貴様は講釈を垂れる為に城へ強引に……」


 私は宰相の反論を遮るように語気を強めて返す。


「私なら王子の穢れを研魔する策がございます!」


「こざかしい! そなたとの話は疲れる。要するに、できるのだな?」


「できます。しかも報酬は相場通り。むしろ相場を下回ってもかまいませぬ」


「その言葉にウソ偽りはないか?」


「人間の神に誓いましょう」


 宰相は顎をさすりながら思慮し、疑問を投げた。


「で、この大業を成す策とはなんなのだ?」


「王子の心の原石を"根こそぎ"取り出すのです」


 宰相は目が点になり、動揺しながら聞き返した。


「根こそぎ? そんなことをして、王子の身に問題はないのか?」


「端的に申し上げて、王子は死にます」


「き、貴様!? この大うつけがぁあ!」


「王子は死にましぇんっ!!」


 しまった。

 興奮して噛んだ。

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