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第7話 スパイ大作戦

 ようやく窓へ到達すると城内へ侵入。

 石を積み上げた壁の隙間へ慎重に足をかせて、横這いになり移動する。

 柱までくると工事の為に組まれた足場に乗り、天井から真下を覗いた。

 

 かの王子は一人で食事をしているが、その様相は庶民生活を逸脱したものだった。


 豪華な装飾に彩られた部屋の中心に、細長いテーブルが置かれ、贅沢な食事が並んでいる。

 シャンデリアのように飾られた野菜に数珠玉(ビーズ)のように散らばる果物。

 デキャンタに入れられた果実酒は赤紫色にも関わらず、背景が透けて見えるくらい透き通っている。


 その中で一際、目立つのが肉料理。


 肉は油で光沢を放ちどの角度から見ても光を反射する程、輝いている。

 コショウが混じる香ばしい匂いが天井まで立ち上り、私の鼻腔を刺激すると、食欲からくる腹の虫とよだれを我慢するのが苦痛に感じた。

 一定の温度を保った室内で保管され、尚且つ、青カビを付着させ抗菌などの作用で守られながら熟成されたのが解る。


 (たくみ)の職人技が遺憾なく発揮されたのが、香りから伝わった。


 なのに、あの道楽王子と来たら、かぶりついた肉を噛みちぎっては、飽きたオモチャのように皿へ肉を投げ捨てる。


 せぬ。

 熟成されて肉に至るまでの生命、その生命を崇高な料理に変えた匠や料理人への冒涜だ!


 まったく贅沢三昧もいいところだ。

 私はこの小わっぱ王子が産声を上げた時から職人として一人立ちし、食うや食われずの厳しい世界に身を置いていたと言うのに。


 いかん、仕事に私情を挟み過ぎた。

 こんなこともあろうかと用意して置いてよかった。


 私は腰に携えた"吹き矢"を取り出して、筒の中に小麦粉で練り合わせて固めた薬を仕込む。


 客の中には暴れて襲いかかってくる者もいれば、心を取り出す際に激しく抵抗する者もいる。

 そんな時に、知り合いの薬剤師から貰ったこの眠り薬を使う。


 確か酸棗仁湯(さんそうにんとう)なる怪しげな名前だったが、効果は抜群だ。

 

 私は大きく息を吸って吹き矢を口に当て、狙いを定める。

 デキャンタへ集中を高め、溜め込んだ息を吹き矢の中へ押し込む。

 

 筒から飛び出した薬の矢は、音もなくデキャンタへ投入され、固まった小麦粉が溶けて粉末の眠り薬が果実酒と混ざり合う。

 

 王子はすぐにデキャンタの果実酒をグラスに移してから、一気に飲み干した。


 灯すロウソクが指先くらいまで溶けた頃に、王子は椅子から転げるように床へ落ちる。

 王子は起き上がると床を這いつくばりながら、ベッドへ歩き倒れ込むように仰向けでシーツへ包まれた。


 眠り薬が効いたな?

 それでは取りかかろう。


 壁を這う蜘蛛のように柱伝いに床へ降り立ち、死んだように眠る王子へ近寄る。

 心眼ルーペを取り出し王子の胸にかざし、この少年の心を透かして見る。


 夕方まで私が研魔した宝石に所々、穢れが張り付き宝石の輝きは、曇天の空から覗く木漏れ日に見えた。


 ――――早い、早すぎる。

 環境や人間関係にもよるが、研魔したばかりの心の宝石は概ね、三日くらい潔癖を保つ。


 何故、こんなにも早く……?


 水面に浮かぶ葉っぱが風に流されるように、宝石が横へ動くと、その後ろに闇夜よりも深く、禍々しい黒い塊が現れた。


 バ、バカな!?

 私が研魔した心の裏に、別の心が隠れている。

 ありえない。

 よほどの例外がない限り、神が人や生き物に与えた心は一つ。


 研魔士の間では【一心一体】と呼んでいる。

 "一つの心は一つの体に宿る"。

 心臓が一つのように心も同じく一つだ。


 この奇異を、どうしたものか?


 しばらく観察していると、手前で浮いている宝石は黒く染まり研魔する前の穢れた石に変わる。

 そして、裏に隠された黒い塊と融合した。



 もしやコレは――――。


 次の日、城の正門で食材を運ぶ荷馬車が検問を受けていた。

 許可証を確認すると門番は城壁へ大声で指示を出す。

 城壁の向こうにいる兵士が正門を解錠して、大きなか扉を開けた。


 私はそれを林の中かは遠目で確認すると、林から飛び出し――――走り出した。


 疾風のごとく距離を縮める私を見るなり、門番は泡を喰ったように焦り、装備する槍の刃先を向けた。


「とうっ!!」


 向けられた槍で串刺しになる前に、私は門番を飛び越えて 城内へ侵入。


 こちらへ警備兵たちが次々に槍を向け、時に弓から矢を飛ばす。


 フハハハッ!! 今の私はカマイタチ。

 その程度で、この脚力は止められぬ!

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