94.見た?見えた?
「……ゴザルさん、見えちゃうよ」
「なにが?」
「胸もと、着崩れたところが開いてる」
「ひぅ?!」
ゴザルさんがすごい速さで飛び退く。
やはり、なにかの考えごとに夢中で気付いていなかったのだろう。
ゴザルさんが胸もとを抑えながら顔を朱色に染める。
その女の子らしい反応が、普段の勇ましい姿とは一転して可愛い。
「……見た? 見えた?」
「ギリギリ見えなかったよ」
「ギリギリってどこまで?」
「ギリギリはギリギリ、あと少し上から覗いてたら見えてたかな」
「……わ、忘れて」
「忘れない。脳に焼き付けておいたよ」
「キモいっ! キモいキモいキモい! やっぱりソラはド変態だわっ!!」
「やっぱりってどういうことっ!? 断定してくるのやめて!!」
「……私が絶対に治してあげるから。今回はアクシデントだけど、少しは効果あったわよね」
こ、効果?
ゴザルさんは僕のなにを治すつもりなのだろう。
「ソラは私の胸もと見てドキッとした?」
「そりゃするよ」
「そ、そう」
どういう意図の質問?
僕に正常な性欲が存在するかの確認だろうか。ゴザルさん色々と僕のこと誤解してそうだもんなぁ。
落ち着きを取り戻すため、僕たちは紅茶で一服する。
「ナコちゃんの言う通りだわ。後味スッキリですごく美味しい」
「気に入ってくれたならよかったよ」
ついでに、僕はもう一つ気になっていたことを尋ねる。
ゴザルさんはテレビにでていた時こんな性格ではなかったのだ。もっとキャピキャピしていたというか、萌え萌え路線全開だったというか。
「ゴザルさん、テレビで見た時と印象違うよね」
「幻滅した? メディアにでる時は愛らしさが売りだったの。私が公の場でこの性格貫き通していたら不人気間違いなしでしょ」
「幻滅なんてするわけないよ。僕は今みたいに芯の強いゴザルさんも大好きかな」
「……あ、ありがとう」
ゴザルさんが呟きながら、僕の方をじっと見つめる。
「どうしたの?」
「あなた、ナコちゃんの前でもその態度なの?」
「その態度? 普段通りだよ」
「天然たらしなのね」
「たらしっ?! どういう話の繋がりか不明だけどナコは家族みたいなものだよ。妹に接する時と同じような感じかな」
「……ソラは男に戻りたいって思うの?」
今日のゴザルさんはやけに質問攻めである。
今まで明確に二人っきりという環境がなかったから、色々踏み込んで話しておこうという考えだろうか。
「そうだね、戻りたいっていうのが本音だよ。金髪美少女という男の夢が詰まった身体を捨てるのは名残り惜しい気はするけど」
「……」
「冗談だからね? マジでドン引いた顔やめてくれる?」
「男に戻るとしたら『反転薬』が現実的になるのかしら」
反転薬。
Sランクアイテムの一種、これは属性を含めたなにからなにまで――全てを反転させることができるアイテムだ。
無論、ゲーム時は性別だって反転可能だった。
しかし、現状のまま反転したら金髪美少年になってしまうのか? そもそも、リアルとなった今なんの障害もなく反転できるのか?
まだまだ問題は山積みであった。
「まあ、すぐにどうこうできないものね。今はナコちゃんたちと合流するのが先決、50階到達を目標に頑張りましょう」




