56 救出
第一層の最奥、僕は一枚の岩を押して横にズラす。
こういう隠し要素も健在だったか――その下から現れたのは一つの穴、端的に言うと第三層までショートカットできる。
「ここから落ちるよ、ナコ」
「あれ? 皆さんが落ちて行った穴と違いませんか?」
「オーラ・ストーンにはショートカットできる隠し穴がいっぱいあってね。この穴からだと第三層の中腹まで一気に行けるんだ。男の話から察するに落ちた先、即戦闘になる可能性が高い――警戒しておいて」
「はいっ!」
滑り台のようになった穴を二人落ちて行く。
まるでアトラクションだなと思いながらの1〜2分間、抜け出た先は想像以上に地獄の光景と化していた。
事切れた冒険者たち、第一層で見た記憶のある面々だった。そこら中から漂う血の匂いにむせ返りそうになる。
唯一、救いがあるとすれば――"Eisen"の皆は生きていた。
動けるもので陣形を取り、上手い具合にハイスパイダーの攻撃を防いでいる。だがそれも時間の問題か、サマロの限界は見るからに近かった。
攻撃と防御の要、剣士のサマロが力尽きれば全滅だろう。
「怯むな! レイナ、ユース、モッズ、皆で絶対に生きて帰るぞっ!」
息は絶え絶え、全身のいたるところに傷も追っている。
それでもサマロは吼え続けていた。
自身の心を折らないため、皆を鼓舞するため、最前線で戦うその勇猛な姿は立派の一言に尽きた。
ハイスパイダーが足を振りかぶる。
強烈な一撃、抑え切る力が残っていないのか――サマロの剣が吹き飛ばされる。無防備な状態、サマロは全てを悟ったかのようヒーラーに覆いかぶさる。
「……偉そうなこと、言ったそばからすまない。俺が食われてる間に、お前らは逃げてくれよ」
「サマロっ! いやぁあああっ!」
ヒーラーが叫ぶ。
ハイスパイダーが大きな口を開き、サマロに噛み付こうとした瞬間、
「暗波っ!」
黒い波動、ハイスパイダーが直撃を受けてよろめく。
その隙を狙い、僕はハイスパイダーの背中に飛び付いた。触手を糸状に変化させて内部に侵入、そのまま巨大化して破裂させる。
「裂!」
即死させるまでには――いたらなかった。
人間相手ならば今ので決着していただろう。相手はモンスターな上に強敵と名高いネームド、対象が大きすぎるため一部の破壊では威力が足りなかったのだ。
ハイスパイダーが奇声を発しながら後方にジャンプ――僕たちから距離を取る。
多量の紫色の血痕、ダメージを与えたことは間違いない。
僕たちはサマロたちの前に陣取り、ハイスパイダーと対峙するのだった。




