『光の神子』、もしくはマドレーヌについて。
『光の神子』とは、光の魔力を持つ人のこの国での通称だ。
曰く、【光】の力は神や精霊に通ずるからとか………由来は色々あるが、初代聖女のエレノアが強い光属性だったから、光の魔力を持つ人をありがたがろう、というのが本来の由来だろう。多分。
ちなみに、国の聖職者や王族のほとんどがこの魔力を持っている。
「まあ、そうなりますよねぇ。この国では『光の魔力=神の愛し子』って思われているみたいですし」
「えっ?違いがあるのですか?」
マリアの言葉に、ミアが驚いて聞き返す。
「そうですよぉ〜、【光】といえど所詮は『魔力』。『神の力』には及びもつきませんから」
「………?」
もうちょっと丁寧に説明しなさいよ。ミアが困ってるじゃない。
「私たち『神の愛し子』が操るのは、この世界に遍在する『神の力』そのもの。で、光の魔力はただの『魔力』ってこと。精霊の力を借りたりなんかは、他の属性でもできるのよ」
「確かに、王国でも随一の魔術師の方は精霊すらも操ると聞いたことがありますが……………」
「でしょう?光属性はそれがしやすいっていうだけ。ただの『魔力』よ」
それと比べて、『神の力』は凄まじい。
魔法では、どんな高威力のものを使っても、せいぜい街ひとつを更地にするので精一杯。
だが『神の力』によって起こす『奇跡』は、国ひとつ、下手をすれば大陸ひとつを簡単に焦土にしてしまう事ができる。
だけど、『神の力』も万能じゃない。
『神の愛し子』はそれぞれ使える『奇跡』の種類が異なっており、自分とは異なる種類の『奇跡』は使えない。
私が使えるのは【心】。
人の精神、意識、記憶に干渉し操る力。
なのでさっき言ったように国ひとつを焦土にとかは私にはできない。
その代わり、今のところは存在していない精神に干渉するという術が使える。コレがなかなか便利で、記憶をのぞいたり心を読んだり………………まぁ色々できる。
そのほかも他人の目をごま――――――――――――――――――――ん?
「んん〜!やっぱりミアのマドレーヌは美味しいですねぇ〜…………もぐもぐ」
「お褒めに預かり光栄です」
「ちょっとぉ!?なにアンタ人のモン勝手に食ってんのよ!!」
もぐもぐとミアの特製マドレーヌ(すごく美味しい)を頬張るポンコツに叫ぶ。
こいつ、いつの間に!!
「だってミアが食べていいって」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
「えぇ〜」
分かりやすく頬をふくらませるマリア。
そんなのが通用するのは男だけよっ!油断も隙もない奴!
「ファウナ様、ご安心ください」
「? なぁに、ミア」
すっ、と小さなバスケットが差し出される。
その中には――――――――――――――――――
「ファウナ様の分は、きちんととってあります」
――――――――――大量のマドレーヌが入っていた。
「わぁぁあ!さすがミアね!どれも美味しそう………………!」
バターの香るプレーン、コクのあるココア、爽やかなマーマレード………………たくさんあって迷ってしまう。
「あーっ!ファウナったらそんなにもらってぇ、ずるいです!」
「はぁ?いいじゃないアンタは先に食べてたんだから!それにミアの雇い主は私なのよ!主人を一番に優先するのは当然でしょう!」
「む〜っ!なら私は女神ですぅ!ほらっ、敬いなさい!」
「敬ってほしいなら敬おうと思えるだけの行動をすることね!」
それからミアのマドレーヌをめぐって争いが起き、私はバスケットを抱えてマリアから逃げるハメになってしまった。
当のミアはケンカを止めることもできずオロオロとしていて………………一番かわいそうだったかもしれない。
絶対渡さん、と断固として逃げ回る私に、頬を膨らませてダッシュしながらマリアが言う。
「そんなに独り占めしたいんですか!食べ過ぎは太りますよぉ?」
ほんっっっっっとに失礼ね!太らないわよ!!