『神の愛し子』と女神とメイド
目の前のポンコツ女神のせいで、計画も台無し。
優雅に微笑んでいる顔が恨めしいわ、本当。
「はぁ………………マリアが余計な神託を下さなければこんな事にはならなかったのに………」
ぎろ、と睨めば悪びれもしない返事が返ってきた。
「ごめんなさぁい。でもほら、聞かれたら答えなくちゃいけませんし、言っちゃったもんはしょうがないですよ。神に二言はありませんから!」
「その発言自体が二言よっ!!」
『ごめんなさい』だなんて心にもないことを!しかも胸(豊満)を張るな!!
謎に自信げなマリアに、私はますます頭を抱えた。
昔から彼女の奔放っぷりには振り回されてばかりだ。
しかも、私が頭を悩ませている様を見て面白そうに、それはもう愉しそうに笑うものだから、コイツ本当に【慈愛】の女神か?と何度思ったことだろう。
まぁ、マリアがいつも様々なトラブルを運んでくるせいで私の人生は割と忙しく、楽しくもあったのだけど。
いつものパターンならそのトラブルをため息を吐きつつ解決するところ………でも、今回はそうもいかない。
この書状が来てしまった時点で、私の『計画』は八割詰んでいるのだから。
「最初はこの知らせが来る前に誰かの『力』を目覚めさせておいて、立候補してもらう予定だったのに………………」
『聖女』や『聖騎士』はそれに値するだけの『力』さえあれば平民であろうと関係ない。だから、私のように拒否する人はまずいないだろう。
「マリアのせいで全部おじゃんよ!もぅっ!」
怒りに任せて叫べば、マリアは「すみませんね〜」などとまた心のこもらない謝罪をする。
こいっつぅぅぅぅう!(怒)
私の怒りも限界!…………というところで、コン、コン、と扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
険悪ムードが蔓延する部屋に入って来たのは、侍女のメイド服をまとった少女だった。
「ファウナ様、と、やはりマリア様もいらしてましたか。お茶がはいりました。……いちおう人払いはしていますが、廊下まで声がもれていましたよ?…………少し落ち着きませんか?」
「あらぁミア、久しぶりですね」
「お久しぶりです」
ぺこり、と頭を下げれば肩の上で切りそろえられた、この国では珍しいやや青みがかった黒髪が揺れる。前髪からのぞく瞳は蜂蜜のような透き通った黄色。少しつり上がった目元も相まって、どこか黒猫のような印象を受ける。
彼女はミア。私の侍女であり、『神の愛し子』やマリアのことを知る唯一の人間だ。
いつもミアはいいタイミングで現れてくれるわね。あのポンコツと違って、ものすごく気が利くわ。
ミアが流れるような所作で入れてくれたお茶をかこんで、マリアとテーブルについた。
「それで?計画の大半がパァになったファウナはどうするんですか?」
……………コイツ、一体誰のせいだと思ってるのかしら?
やっぱりこのポンコツ、いっぺん本気でぶん殴ってやろうかしらと考えつつ、私は真剣に答える。
「………とりあえず、素質のある『光の神子』から選ぶしかないと思うわ」
本作に興味を持っていただきありがとうございます!
作者の、霜月アカリ(しもつき あかり)と申します。
本作は、本来なら誰もが憧れる役職である『聖女』を、主人公が断固拒否する、という話です。
今はまだ説明くさいですが、これからもっと面白くしていく予定ですのでお楽しみに!
もしよろしければ、感想、評価、ブクマ等いただけると嬉しいです!
それでは、続きもどうぞお楽しみに!