『聖女』エレノア・クーベルタン
私には、秘密がある。
ひとつは、この国が探し求める『神の愛し子』であること。
もうひとつは…………この国の初代『聖女』、エレノア・クーベルタンの生まれ変わりであること。
前世、エレノアの生きた時代には、王国史上まれに見る、大規模な飢饉が発生した。
飢え苦しむ人々、そんな人々に重税を課す貴族、反抗心をつのらせていく民衆…………………反乱が起こったのも当然だった。
だから、当時の王(ぜんぶ神様がなんとかしてくれると思っていた宗教バカだった)は、民の反乱を鎮め、心をひとつにするために―――――もっと言えば心のよりどころとするために――――――神の祝福を受け、神の声を聞くという『神の愛し子』を探し求めた。
当時の私はすでに『神の愛し子』としての力に目覚めており、王が『神の愛し子』を探しているというウワサを聞くと、すぐに名乗りを上げた。
私の周りでも飢饉によって命を落とした人や、昔のような暮らしが出来なくなった人が、何人もいたからだ。
『私は『神の愛し子』なんでしょう?なら、私にできることはやりたいの』
あのときの私は、まだそんなことが言えた。
そして『神の愛し子』としての力が認められ、私はたちまち『聖女』として祀り上げられた。
聖女の主な役割は、信仰の対象になること。だからお飾りみたいなものだった。
それでも負傷した兵を回復させたり、飢えた人々を癒やしたり、国を守る結界を張らさせたり………………仕事はどんどん増えていき、時には他国を訪れることもあった。
まぁ、今思えば『だれかのためになるなら』と仕事を断らなかった私も悪いのだけれど。
その上、『聖女は一生乙女でなくてはならん』とか言われて好きな人と結婚できなかったり、神殿の都合を押し付けられてめったに外に出してもらえず、自由時間もほとんど無かったり。
最期は原因不明の病に冒されながらも、神殿の人々が神の信託を得る術や人々の信仰心を利用した半永久的に存在し続ける大結界、さらには『聖女』や『聖騎士』にふさわしいかを見極める選定機まで遺してあげたのだ。
私、偉い。私、超親切。
そんな人生(可愛そうでしょ?可愛そうよね?)を送った私を哀れんだのか面白がったのか、とある神様に、
『転生しませんか?エレノア・クーベルタンとしての記憶を持ったまま、百年後のルーベルク王国へ』
と転生を持ちかけられて、今に至る。
ただ、生まれ変わってもしても『神の愛し子』であることは変わりないので、さっさと偽物を仕立て上げて『聖女』を押し付けちゃおう!と計画を練っていた最中なのだ。
二度目の人生、平和な今なら『だれかのため』ではなく『自分のため』に生きることもできるはず。
今度こそ私は、自由に生きてみせる!!
と、思っていたのだけど………