いきなり詰んだぁぁぁぁあ(怒)
「本当に、どぉぉぉぉおおぉぉしたらいいのかしら……………」
自室の机につっぷしながら、私――――――ファウナ・ノア・シュヴァ―ベルは深い、それは深〜いため息をついた。
机の上には先ほど我がシュヴァ―ベル伯爵家にも届いた書状がおいてある。
その書状の内容を要約すると、こうだ。
・今代の『聖女』は長きに渡り国を支えてきたので、力が弱まっている。
・新たな『聖女』、『聖騎士』について神にお伺いを立てると、『聖女』の資格を持つものがこの国にいるとの神託が下った。
・そのため、本日より『神の愛し子』探しをルーベルク王国中で行う。
以上!
私もいつかこの書状が来るのは分かっていたが、思ったよりも早い。早すぎる。
「ああもう、なんでもう少し頑張ってくれなかったのよっ、今代の『聖女』様は!」
私は怒りにまかせて書状に向かってガァン!と拳を振り下ろす。
部屋には今、私ひとり。伯爵令嬢らしからぬ行為もちょっとは大丈夫だろう。
と、思っていたのだが。
「いいじゃないですかぁ、そんなに思いつめなくても。まだ万事休すというわけでもないのでしょう?」
突然、頭上から声がふってきた。
顔を上げると、先ほどまで誰もいなかった所に――――――というか私の机のすみに―――――少女がちょこんと腰掛けていた。
陽光に照らされてきらめく白金の髪に、優しげに垂れたローズの瞳。レースのあしらわれた純白のワンピースがよく似合っている。
口元はゆるく弧を描き、浮かべる微笑みはまるで聖母――――――――なのだが若干からかうような色があるのは何故だろう。
作り物かと思うほど美しい彼女は、扉を開ける音も足音も、気配すらなくいつの間にか私の目の前に現れた。
こんな芸当ができるのが人間である訳がない。
事実、彼女は人間などではなかった。
「万事休すって………そうじゃなくてもそれに近いわよ、マリア」
彼女は名をマリアと言って、【慈愛】を司る女神様である。
なぜこんな平凡な(自分で言うけど何か?)貴族令嬢のもとに女神様なんかがいるのかって?
お答えしよう、私は神の姿を瞳に映し、声を聞くことのできる―――――――そして今王国が探し求めている――――――――『神の愛し子』だからなのだ。
まぁ、『愛し子』としての力はともかく、探し回られてるのがひっっっっじょぉぉぉぉぉぉおに迷惑なのだけれどね。
にやにやと笑う女神(むかつく)から視線をそらし、忌々しい書状に目を向ける。
あぁ、マリアもだけどこの書状も見てるだけでイライラしてくるわ。
「そもそも誰よ!『聖女』の資格を持ってる人がいるとか神託出した神は!!」
「てへっ☆v(´∀`*v)」
「お前かぁぁあ!!!(# ゜Д゜)」
あざとくウィンク&かわいくペロッと舌を出し、ダブルピースまでつけて言われたセリフに私はブチ切れた。
「てへっ☆」じゃないでしょうが「てへっ☆」じゃ!!ふざけてんのかこのアホ女神ぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!
ほんっと余計なことしかしないっ!何してくれてんのよもぉぉぉぉお!!
あまりの怒りに言葉にならず口をパクパクさせる私を、マリアは面白そうに笑いながら見ている。
「いっそのこと、また聖女に立候補しちゃえばいいんじゃないですかぁ?ね、エレノア?」
……………冗談交じりであることは分かっていた。けれどその言葉は、私の怒りをしぼませるには十分で。
「………………ならないわよ、聖女には」
前世の嫌な記憶を思い出し、私の顔は自然と曇っていた。