『聖女』と『天才』
ある日、国王様から手紙が来た。
それは国中に配られた手紙で、私が今まで見たこともないような上等な紙だったのを覚えている。
『この国の中から、『神に愛された人間』を探す。もし自分がそうであるならば名乗り出よ。身分は問わない。』
その手紙に、私は一番に食いついた。
これだ。
マリア様は私を『神の愛し子』だと言った。特別な人間だ、とも。
なら、この手紙にある『神に愛された人間』に十分当てはまるんじゃないのか?
目の前に、誰かのために生きる道と、自分のために生きる道がある。
そのどちらを選ぶか。
私には、選択肢はひとつしか無かった。
そうして名乗り出て、私は『聖女』なんて肩書きで呼ばれるようになった。
マリア様には反対されたけど、なんとか説得したし。
もちろん王様にも最初は疑われたけど、マリア様に降りてきてもらえばすぐに信じてもらえた。
国の各地を癒して周り、ついでに【希望】の種も撒いて、国はみるみるうちに回復をした。
そんな中、出会ったのがオーヴィット・サージュ・シュヴァーベル様。
魔術の天才と呼ばれている、シュヴァーベル公爵家のご子息。
実際、彼の魔術は凄まじかった。
ある時、国への反乱軍と戦争になりかけた事があった。
反乱軍の規模はかなり大きくて、私でも【戦意】を喪失させるのが出来なかったくらいだ。
私がどうもできなくて、頭を悩ませていた時に、オーヴィット様は事もなげに言った。
『なんだ、奴らの戦意を喪失させたいのかい?なら、こんなのはどうかな』
その言葉と同時に放たれた、魔術。
何十人も飲み込めそうなほど大きな火球が、反乱軍の頭上遥かを通り過ぎ、後ろの荒野に着弾した。
荒野は一瞬で煉獄と化した。
反乱軍たちは、その術に恐れ慄いただろう。
その気になれば、いつでもお前たちをこう出来る。
そう言われたも同然だったのだから。
結局、その魔術のおかげで戦争にはならず、国に反乱しようとする人達を捕らえられたから良かったんだけど………
で、今の状況に戻ると。
要するに私は、そのスーパー凄い人のとなりに座っているのだ。
「ねぇ」
「!?はっ、はい!」
思わずビクッと反応してしまう。だって仕方ないじゃん、緊張してるんだもん。
慌てて視線を向けると、オーヴィット様が私に本を差し出した。
白い表紙に金の装飾。公爵家の方が持つにはいささかシンプルな気もする。
「この本、誰にも見えないように出来るかな?」
「えっ………見えなく?それは、『認識できなくなる』ということですか?」
「うん、まぁそうだね。出来そう?」
「はい」
認識できなくするのなら、この場限りではなく永続的に効果が持続するようにしないと。
いつもよりちょっと多めに『力』が必要かも。
あとは………………あっ。
「あの、これ、『奇跡』をかけても私には普通に認識できてしまいますけど、いいんですか?」
「うん?別に構わないよ。他に人には分からないんだろう?ならいいさ」
「はぁ………なら、始めますね。………………我の内に眠りし力よ………」
私と本を取り囲むように、光が輝き始める-------------